開発責任者が語る環境への想い

アルファード開発責任者 吉岡 憲一 2015年2月取材

アルファード開発責任者 吉岡 憲一

2015年1月、トヨタの最高級ミニバン「アルファード」が3代目として生まれ変わりました。従来にはない新しい高級車の概念を創造することを目指し、開発されたアルファードは、高級セダンに引けを取らない、上質な乗り心地や優れた操縦安定性といった高い基本性能と、ゆとりに満ちた大空間を有するクルマとして、揺るぎない存在感を示しています。
開発コンセプトは「新しい大空間高級サルーンの先駆車を創造」。
このベクトルは環境性能にも通じるもので、2.5L車は新世代ユニットに移行するとともに、2種類のガソリンエンジンと1種類のハイブリッドシステムは、いずれも低燃費とパワーを両立する強みを持ちながら、細部にもこだわりの新技術が多数盛り込まれています。こうしたひとつひとつの環境性能は、決して前面に押し出されるようなものではないながらも、「ミニバンだから」という言い訳をしない、高級車としてあるべき環境性能を追い求めています。
環境問題への無関心が許されない立場にある方も多く乗られるアルファード。その設計・開発の責任者として現場の指揮を執り続けたのは、初代アルファードを愛車とする製品企画本部主査 吉岡憲一。トヨタの基幹車「カムリ」の開発でグローバルな視野を広げながら、得意の電子制御の分野でも経験を重ね、2010年よりアルファード/ヴェルファイアの開発責任者となった吉岡が、新しい高級サルーンとして変革を果たす3代目アルファードの環境性能を語ります。

アルファード開発責任者 吉岡 憲一
プロフィール (2015年2月取材)

アルファード開発責任者 吉岡 憲一

所属
製品企画本部 主査
略歴
1967年生まれ。大学では電気工学を専攻し、1992年にトヨタ自動車に入社。カローラ・カムリなどグローバルモデルの現地調達部品の開発、1999年より6代目カムリの製品企画を担当。2006年の立ち上がりまで携わり、その後、制御システム開発部において、今回のアルファード/ヴェルファイアに搭載されたインテリジェントパーキングアシスト2やインテリジェントクリアランスソナー等の制御システム・電子プラットフォームの開発を担当。2010年よりアルファード/ヴェルファイアの開発責任者となる。

グローバルカーの開発で身に付いた環境性能向上の経験値

-環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

私は以前、グローバルカー「カムリ」の開発を担当していた時期がありました。
カムリというクルマは1980年代にFFサルーンの世界戦略車として誕生し、2011年には累計販売台数1,500万台を達成したトヨタを代表する基幹車種です。開発に携わっていた2002~2005年当時、まだ確立されていなかったLCA(ライフサイクルアセスメント:環境影響評価の手法)の考え方を調達部品のひとつひとつに当てはめながら仕組みを構築していくという業務に携わっていました。
トヨタのグローバルカーには、世界のクルマをリードする高品質を追求する「グローバルベスト」という考え方があります。環境性能においてもそれは言えることで、環境負荷物質の管理、低減の一層の推進に向けて、製品、生産の両面から全社システムでの管理やグローバルな活動を展開していました。特に製品中の環境負荷4物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム)については、2006年に国内の全生産事業体で全廃し、2007年のグローバルな全廃に向けて取り組みを推進していた時期でした。カムリは最大のマーケットが環境規制の厳しい北米ということもあり、グローバルカーの中でもいち早くこうした環境負荷物質の対応車として確立していく必要がありました。当時、六価クロムは含有する部品数が最も多く、海外調達部品でも切り替えに苦労したのを覚えています。

こうした取り組みによって、環境負荷物質の取り扱いの仕組みが出来上がっていったのですが、今回のアルファードもこうした仕組みに則って環境の低減目標を決め、それを当然のごとく設計に盛り込み開発に当たることができているのは、当時の業務を通じて得られた経験が大きく貢献しているのだと思います。

個々に実質的な価値がある“高級”を実現させるクルマを目指して

助手席スーパーロングシート
助手席スーパーロングシート

-アルファードはどのような位置づけのクルマで、今回のモデルチェンジによって目指したものは何ですか。

国内専用車種として、プラットフォームから乗用車として作られた初代アルファードがデビューしたのは2002年のことです。日本の和の豪華さを追求し、それまでのミニバンにはない洗練された印象とプレステージ性を兼ね備えたこのクルマは、ミニバン市場を一変するほどのインパクトを与えました。2008年にはモデルチェンジを機に新たにヴェルファイアをラインナップして、国内ミニバン市場における不動の地位を確立しつつ、2010年からは中国、そしてアジア各国の市場にも投入しています。唯一無二のその存在は多くのお客様から支持されており、高級ミニバンというカテゴリーに限らず、高級リムジンとしての地位をも確立しています。それは法人需要の受注が年々増加している事からも窺い知ることができます。
しかし、今回の開発コンセプトはこれまでに評価を得てきた従来の“高級ミニバン”としての延長、つまり正常進化をさせるだけではなく、新しい高級サルーンのジャンルを築き上げるべく、「新しい大空間高級サルーンの先駆者を創造」をテーマに開発に当たりました。

助手席スーパーロングシート
助手席スーパーロングシート
アシストグリップの大型化
アシストグリップの大型化

近年、日本人の消費に対する価値観は変化しており、見せかけの高級品に投資するのではなく、自分のライフスタイルにこだわって消費をする傾向が増えています。法人として利用する際は移動時をゆったり過ごせることが大事で、ファミリーユースの場合は子どもを乗せるという実用性とともに高級車であることの意識を持てることが重要になります。後席までスライド可能な助手席スーパーロングスライドシートを設定して心地良いおもてなし空間を演出したり、アシストグリップを大きくして小さな子どもも乗り降りをしやすくしたのは、乗る人すべてに満足感を提供することを目指したからです。
環境性能においても、ハイブリッド車を希望されるお客様だけでなく、ガソリン車をお求めになるお客様にもパワーと低燃費を両立した上質な走りを実現しています。そうした個々のお客様により異なる『実質的な贅沢』を新しい高級の概念とし、これをコアのコンセプトとしました。

アシストグリップの大型化
アシストグリップの大型化

ミニバンを言い訳にしない、高級ミニバンの環境性能における新たな価値

-では、アルファードの環境性能について教えてください。

販売台数の内訳は2.5L車(先代2.4L車)が約60%を占め、ハイブリッド車は全体の30%を占めています。そして、一番お買い求めていただいている2.5L車(先代2.4L車)のお客様から最も多くのご要望をいただいたのが燃費の向上です。私自身もミニバンのような空気抵抗の大きなクルマがこれからの時代に生き残るためには環境性能の向上が欠かせないと思っているので、細部に至るまで妥協することなく徹底的にこだわりました。

パワーユニットは、新搭載の2.5L・4気筒エンジン、3.5L・6気筒エンジンのガソリン車に加え、カムリ ハイブリッドなどと同様の2.5Lアトキンソンサイクルエンジンに高トルクモーターを組み合わせたハイブリッドシステムの3種を用意しています。
新搭載の2.5Lエンジンは、7速スポーツシーケンシャルシフトマチックを備えたSuper CVT-iを組み合わせ、アイドリングストップ機能(Stop & Start System)のオプション設定により、JC08モード12.8km/Lを実現しています。
ゆとりある走りと共に実績ある3.5Lエンジンは、6速シーケンシャルシフトマチック装備の6 Super ECTを組み合わせることで、JC08モード9.5km/Lを実現しています。
ハイブリッド車は、2.5Lアトキンソンサイクルエンジンに、6速シーケンシャルシフトマチックやE-Four搭載のハイブリッドシステムを組み合わせることで、JC08モード19.4km/Lを達成しています。

ガソリンモデル・ハイブリッドモデルの燃費・エコカー減税の比較
グレード JC08モード燃費 自動車取得税・自動車重量税
2.5Lエンジン+ハイブリッドシステム 19.4km/L 100%免税
2.5Lエンジン(2WD)+アイドリングストップ機能 12.8km/L 取得税40%減税、重量税25%減税
3.5Lエンジン(2WD) 9.5km/L 取得税20%減税、重量税25%減税
2WD車の車両重量2,110㎏以上のグレード

中でも、一番お買い求めいただいている2.5L車の環境性能をしっかり上げていくことが大切だと考え、様々な取り組みを実施しました。
新開発のSuper CVT-i(自動無段変速機)は、ドライバーの運転状況から最適な制御を選択し、通常走行ではスムーズさと低燃費を実現します。また、減速時にもダイレクトなエンジンブレーキ力により燃費を向上させています。

新開発Super CVT-iの燃費向上の特性
  • エンジンの統合制御
  • 自動変速制御
  • フレックスロックアップ制御
アイドリングストップ機能のフロントの空調ユニット内に内蔵された「蓄冷エバポレーター」
アイドリングストップ機能のフロントの空調ユニット内に内蔵された「蓄冷エバポレーター」

2.5L車として初めてオプション設定したアイドリングストップ機能(Toyota Stop & Smart System)も燃費向上に大きく貢献しています。この機能は、信号待ちや渋滞などの一時停止時に、エンジンのアイドリングを自動的にストップさせ、停車中の燃料消費率の低減を図るものですが、アイドリングストップ時はエンジンを停止するため、エアコンは送風に切り替わってしまいます。夏場は特に快適性を損なうものですが、アルファードには冷気を蓄える「蓄冷エバポレーター」という機能が装備されています。この冷気をアイドリングストップ時に利用して送風時も冷たい風を送り込むことで、エコ運転をしたまま快適に過ごせるよう工夫しています。また、これによってエンジン再始動までの時間をより長くすることが可能となったため、さらなる低燃費を実現することができました。

アイドリングストップ機能のフロントの空調ユニット内に内蔵された「蓄冷エバポレーター」
アイドリングストップ機能のフロントの空調ユニット内に内蔵された「蓄冷エバポレーター」
パーキングブレーキスイッチとブレーキホールドスイッチ
ブレーキホールドスイッチ「HOLD」をONの状態にしておくことで、渋滞や信号待ちでブレーキを踏んで停車した際、ブレーキを保持します

アイドリングストップ機能はおよそ10%弱ほど燃費向上に貢献していますが、開発時には大変な苦労がありました。
具体的なお話をすると、アルファードは全車標準で電気式のパーキングブレーキを採用していますが、新たに、信号でブレーキを踏んで待っている場合、ブレーキから足を離してもブレーキが効き続ける「ブレーキホールド」機能も盛り込んでいます。レクサスLSなどにも搭載されているこの機能は、信号待ちや渋滞時にブレーキを踏み続けることによるドライバーの負荷(足の疲れ)を和らげる効果があります。制御が作動中は、アクセルペダルを踏むまで再始動しないのですが、エンジンというものは走り出すまでにコンマ何秒という時間を要します。その微妙なズレをドライバーは違和感(もたつき感)として捉えてしまうため、何としてもエンジンの再始動性とドライバビリティを両立するために色んな制御を入れて、何度も何度もチューニングを重ねました。

パーキングブレーキスイッチとブレーキホールドスイッチ
ブレーキホールドスイッチ「HOLD」をONの状態にしておくことで、渋滞や信号待ちでブレーキを踏んで停車した際、ブレーキを保持します
レーダークルーズコントロールのイメージ
レーダークルーズコントロールのイメージ

また、今回トヨタ初の「レーダークルーズコントロール(全車速追従機能)」を採用していますが、ここでもアイドリングストップ機能をきっちりと働かせて環境性能を向上したいという想いがありました。
レーダークルーズコントロールは、ミリ波レーダーの情報によって先行車を認識し、設定した車速内で車間距離を保ちながら追従走行するものです。ミニバンでは初となる全車速追従機能によって、停止状態から高速域(0km/h~100km/h)まで、全車速域においてシームレスに制御してドライバーの運転負荷を軽減するものですが、先行車が止まれば自身が乗っているクルマも止まります。この時、アイドリングストップ機能をどうするかが議論となりました。レーダークルーズコントロール中の停車時にアイドリングストップ機能を作動させるためには、新たな制御が必要となるのでそこを割り切るという考え方もありましたが、やはり環境のことを考えるとあきらめるわけにはいきません。高級車の環境性能のあり方を追求するためには、こうした様々な制御・システムをより効果的に機能させることが必要で、そこには開発陣のこだわりが色々詰め込まれています。

レーダークルーズコントロールのイメージ
レーダークルーズコントロールのイメージ
S-FLOWスイッチ

ハイブリッド車には、運転席だけを無駄なく空調する「S-FLOW」と呼ばれる1席集中モード機能も標準装備されています。これは、室内温度や助手席の乗員を検知し、自動的に運転席だけを無駄なく空調することでエアコンの負担を軽減し、低燃費はもちろん、車内の静粛性にも貢献しています。

S-FLOWスイッチ

自動車部品に使える間伐材を用いた材料を新開発

スギ微細繊維と熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)と混合した射出材料(TABWDⓇ/タブウッド)とワイヤーハーネスプロテクター(黒い部分が開発材使用部位)

-燃費以外で環境性能を向上した取り組みはありますか。

クルマには、基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」といった動作や、安全性、利便性、快適性を可能にする様々な電子機器が搭載されています。これらはいずれもバッテリーからの電力と制御信号によって動作しますが、この電力と信号の伝送を担っているのが複数の電線を束にした「ワイヤーハーネス」と呼ばれる集合部品です。このワイヤーハーネスの配線をまとめ、かつ保護する目的で取り付ける部品に「ワイヤーハーネスプロテクター」というものがあり、今回、ハイブリッド車の「ワイヤーハーネスプロテクター」に、スギ間伐材を強化繊維として利用し、熱可塑性樹脂と組み合わせた難燃性射出材料「TABWD®/タブウッド」を採用しました。
通常の自動車用樹脂部品の場合、熱可塑性樹脂の強度や耐熱性を高めるためにガラス繊維や鉱物の粉を添加しています。「TABWD®/タブウッド」は、この添加物をスギの間伐材の繊維に置き換えたものです。これまで200系ランドクルーザーやエスティマハイブリッドなどのフォグランプブラケットに採用されてきましたが、今回は、従来の強度や耐熱性といった特性に加え、難燃性を付与させることで、高温になるエンジン周辺の「ワイヤーハーネスプロテクター」への採用が可能となりました。
温度変化に対しても安定した材料である木材は、軽量で強度が高いため、こうした特長を活かした「ワイヤーハーネスプロテクター」は、既存の射出材料に比べて10%の軽量化を図ることができました。
軽量化は燃費向上に有効な手法であると同時に、資源の節約、運動性能や乗り心地の向上にもつながるので、環境の視点だけでなく、クルマを開発するうえでとても重要な取り組みです。
今回はさらに間伐材を材料としているということもあり、環境負荷低減といった面でも効果的でした。
確かに、車両全体の軽量化という観点では小さな一歩かもしれませんが、今後、こうした材料をこれから増やしていく可能性が見えたという点では大きな一歩であると確信しています。

スギ微細繊維と熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)と混合した射出材料(TABWDⓇ/タブウッド)とワイヤーハーネスプロテクター(黒い部分が開発材使用部位)
空力性能の向上例
空力性能の向上例
床下適所にアンダーカバーやエアダム、さらにサスアームなどにも整流フィンを設定し、空気抵抗を低減

また、車両全体の軽量化という点では、アッパーボディーやプラットフォームの各所に、軽量化と高い剛性を両立した高張力鋼板を採用したり、高圧バッテリーからインバーターを結ぶ銅線をアルミ線に変更するなどしています。銅は電気伝導率の良さからクルマにとって欠かせない金属ですが、近年、銅の持続可能性という課題が注目を浴びているため、地球に豊富な資源であるアルミを採用することは資源の有効活用にもつながります。
ハコ型のミニバンではなかなか難しい空力性能も、ルーフエンドスポイラーを全車標準装備としたり、床下には適所にアンダーカバーを採用するなどして、空気抵抗係数(Cd値)を低減しています。

空力性能の向上例
空力性能の向上例
床下適所にアンダーカバーやエアダム、さらにサスアームなどにも整流フィンを設定し、空気抵抗を低減

いつかはアルファードと呼ばれる憧れの存在であるために

-ミニバン・キャブワゴン市場のお客様のクルマ選びにおける環境仕様をどのように考えますか。

アルファードというクルマは、固定ユーザーが代々お乗り換えを続け、常にトヨタ車のなかでもトップクラスの人気を誇っています。一度このクルマに乗ると他のクルマでは満足できないというのは、お使いいただける著名人・VIPの方々が年々増えてきていることからも伺えます。広くて豪華な車内は、高級サルーンを凌ぐ満足感、優越感を与え、そして安心感に包まれています。時代や社会の変化、お客様のニーズに対応しながら進化してきた環境性能にも高級車としてのこだわりが詰め込まれています。
30年以上前の「いつかはクラウン」という有名なキャッチコピーは、高級セダン「クラウン」の象徴として引用され続けていますが、この車も「いつかはアルファード」と言われるほど憧れ的な存在になっているのではないでしょうか。クラウンというクルマが、常に時代に求められるニーズをいち早く盛り込みながらも伝統を大切にしながら進化してきたように、アルファードも名実ともにトヨタを代表する存在として、これからも独自の進化を続けていくことが大切だと考えています。

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