カムリは、1982年にFFサルーンの世界戦略車として誕生。日本だけでなく米国などへ輸出を始めました。以来、広い室内空間で人気を博し、2011年には累計販売台数が1,500万台を達成するなど、トヨタを代表する基幹車種として世界中のお客様に愛されてきました。
そのカムリが2011年9月にモデルチェンジし8代目となり、国内では「プリウス」「プリウスα」「SAI」に次ぐ4車種目となるハイブリッド専用車として生まれ変わりました。
室内空間は広さと解放感を実感でき、新開発の4気筒2.5Lエンジンを採用したハイブリッドシステムは、コンパクトカーさえ凌ぐ低燃費26.5km/L(10・15モード走行燃費)を実現するなど、時代が求める先進感と環境性能を身にまとい、新時代の高級セダンへと変貌を遂げました。
そのカムリのコンセプト策定から設計・開発の総責任者として現場の指揮を執り続けた開発責任者の岡根幸宏が、カムリの環境性能を中心にクルマづくりを通じた社会への貢献について想いを語ります。
| ※プロフィール | ||
| カムリ 開発責任者 岡根幸宏 | ||
| 所属 | : | 製品企画本部 CE |
| 略歴 | : | 1981年トヨタ自動車入社。 入社後、エンジンの開発部署に配属され対米カローラ用エンジンの排気ガス適合を担当し、その後、AE86に搭載された4AGエンジン、MR-2に搭載された4AGZスーパーチャージャーエンジンシステム開発を担当した後、ガソリンエンジンの電子制御システム、コンポーネントの開発などを担当。1995年に第1開発センターに異動し、初代ハリアーの製品企画を担当しつつ、燃料電池を積んだクルーガーの初代開発総責任者となる。量産車の開発総責任者として初めて担当した2代目ハリアーは8年以上経った現在も売れているロングセラーカーである。 2008年から新時代のセダンを創造すべく、8代目カムリの開発の指揮を執る。 |
原体験から学んだ環境への想いを胸に、モノづくりを通じて環境に貢献
環境の世紀ともいわれる21世紀において、重要なキーワードの一つ「サステイナビリティ(持続可能性)」をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。
琵琶湖の畔で生まれた私は、幼い頃には夏になると水遊びができるほどきれいだった琵琶湖が、高度成長とともに汚れが顕著になる様を私自身の成長過程で間近に見てきました。そして汚れた琵琶湖を元に戻すことがどれほど大変なことであるかも知っています。つまり、環境というものは一度汚してしまうと回復するのに多大なエネルギーを要するということ、そしてその影響はいろんな形で必ず私たちに返ってくるということを学びました。
いま、開発責任者という立場でクルマづくりに携わっていますが、クルマ社会がもたらした環境への負の影響というものを常に当事者意識として抱き、「これ以上環境負荷を増やさない」という想いを強く持ち続けて開発に当たっています。
モノづくりのプロセスを通して地球環境と共生できる事業活動を推進することが、持続可能な社会の実現に向けたトヨタの役割であり、私自身も開発の立場で製品のライフサイクル全体を通じた環境パフォーマンスに努めています。
売れるクルマだからこそ環境への効果が大きい
グローバルカーでありトヨタの基幹車種という視点で見たカムリが及ぼす環境影響というものをどのように考えていますか。
カムリにとっての具体的な環境性能について教えてください。
それは新しいパワートレーン(新2.5Lハイブリッド)の導入と、車両の軽量化及び走行抵抗の低減です。
エンジンは、このハイブリッド用に新開発した4気筒2.5Lで、低フリクション化とともに、アトキンソンサイクルとクールEGR*1を用いて熱効率の大幅な向上を実現しました。
低フリクション化では、ローラーロッカー式カム駆動の採用、電動コンプレッサや電動ウォーターポンプ化によるベルトレス化を実現したほか、高性能な水冷式EGRクーラーを導入し、世界トップクラスの高EGR率を達成。大幅なポンピングの損失*2低減とともに、ノッキングを抑えて高圧縮比を可能にしました。
ハイブリッドシステムもモーター駆動領域の拡大や回生ブレーキの改善、走行状態に応じた最適電圧制御など、さらなる進化を遂げました。
燃費向上には車両の軽量化や走行抵抗の低減も大きく寄与しています。
旧モデル(7代目)は、ガソリン車しか日本には導入していないため質量比較が難しいのですが、米国仕様では新旧差が約100kgあります。100kgの軽量化は大きなチャレンジでした。
アプローチの最初は、旧モデルの装備などを外して100kg軽いクルマを作りました。そのクルマは、燃費だけでなく、加速性能や制動性能、さらには操縦安定性や乗り心地が向上しました。それを関係者で試乗し、軽量化の重要性を共有したことから始まりました。すなわち、軽量化は「天使のサイクル」という理解が、活動の根本にあります。
軽量化の取り組みは、生産技術の向上とともに、高張力鋼板(ハイテン材)の採用拡大、素子の両面実装技術など最新テクノロジーを駆使したハイブリッドインバーターの小型軽量化などの大物とともに、一つひとつの部品の最適設計や無駄排除による軽量化を積み上げ、目標を達成しました。日本向け新旧カムリで比較すると、わずか40kgの車両重量増でハイブリッドを得られたことになります。
- *1.EGR:排気ガスを高効率クーラーで冷却、その後、吸気経路に再循環させることでポンピングの損失、エンジン冷却の損失を低減します。また、排気温度を下げることにより、理想的な燃焼をもたらし燃費向上と低排出ガス化に貢献します。
- *2.ポンピングの損失:燃焼悪化要因の一つで、エンジンのシリンダー内への吸気行程および排気行程で発生するエネルギー損失のこと
サイズ |
車両重量 |
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|---|---|---|
| 前型カムリハイブリッド | 4,805×1,820×1,460 (mm) | 1,500 (kg) |
| 新型カムリハイブリッド | 4,825×1,825×1,470 (mm) | 1,540 (kg) |
タイヤは、転がり抵抗の低減とグリップ性能の向上のバランスがうまく取れたと思います。
空力は、高級で存在感あるスタイリングとスムーズな空気の流れの両立が重要になります。そのため、デザイン面では、デザイナーがオリジナリティを出したい意匠面と、燃費のためにCd値を下げるための形状要件、操縦安定性を上げる空力形状の提案の三つ巴の戦いが繰り広げられました。これに加え、車両床下に合計7枚のアンダーカバーの設定、フロントバンパー下端位置の見直しやタイヤ前に設定したスパッツの組み合わせで、スムーズな空気の流れを実現しました。
進化したエコドライブサポート機能がもたらす実燃費の向上
ハード面以外で環境に貢献する工夫やシステムはありますか。
実走行燃費を向上させるためには、自動車メーカーや渋滞緩和などの交通インフラの整備だけでなく、ドライバーがエコドライブを心がけることがとても大切です。トヨタでは、エコドライブを支援する装置として、これまでエコドライブインジケーターや燃費計の装着を拡大してきましたが、8代目カムリのエコドライブサポート機能はこれまでにない工夫が盛り込まれています。
8代目カムリはスピードメーターに、ハイブリッドシステムインジケーター、平均&瞬間燃費計を組み合わせた3眼メーターで、中央にはさまざまな情報を確認できるマルチインフォメーションディスプレイを設定しています。
マルチインフォメーションディスプレイには、どれくらいエコ運転ができているか確認できるエコドライブレベルや、エンジンとバッテリーのどちらのエネルギーを使用しているかがひと目でわかるエネルギーフローなどの情報が表示されます。
ハイブリッドシステムインジケーターは、ハイブリッドシステムの出力やチャージの状態をリアルタイムに表示し、指針をエコエリアに保つことで、環境に配慮した状態で走ることができます。
今回のポイントは、平均燃費と瞬間燃費を同軸メーターにした平均&瞬間燃費計にあります。
これまで平均燃費は数値で表示していたのですが、8代目カムリは内側に平均燃費計(指針表示)を、外側に瞬間燃費計(LED表示)を同軸でレイアウトし、同時に平均燃費と瞬間燃費を比較して見れる構造としました。
実際の走行状態でご説明すると、平均燃費の針よりも瞬間燃費の緑のバーが伸びるように運転すればより低燃費で走ることができます。逆に緑の瞬間燃費が内側の針よりも下にいる時間が長くなると平均燃費も下がっていきます。このメーターにより、ドライバーの方にエコドライブによる燃費向上を目で見て実感していただけると考えました。
ハイブリッドで積み重ねた経験で新たな技術を見極め、お客様の期待を超えるクルマづくりに挑戦
国内ではハイブリッド車専用として登場した8代目カムリですが、最後にハイブリッド車の普及と環境影響についてどうのように思われますか。
8代目カムリの発売によって、トヨタのハイブリッド車は15車種(2011年9月時点)となりました。これからも私たち開発者は、販売の多数を占める従来型エンジン車の一層の燃費向上を図るとともにハイブリッド技術に磨きをかけ、さらなる高性能化やコスト低減、商品ラインナップの充実に取り組んでいくので、今後のトヨタ車にさらに期待していただきたいと思います。
