開発責任者が語る環境への想い

エスクァイア開発責任者 水澗 英紀 2014年11月取材

エスクァイア開発責任者 水澗 英紀

2014年10月、新上級コンパクトキャブワゴン「エスクァイア」が誕生しました。その語源が中世ヨーロッパの「従騎士」を意味し、英語で「様」、「殿」など男性への敬称として用いられるように、このクルマは広い室内空間を追求した5ナンバークラスミニバンにワンランク上の高級感を付与し、国内市場に新たなポジションを築く高級車の新たな選択肢として開発されました。環境性能はクラスNo.1低燃費の本格ハイブリッドをはじめ、ガソリン車もアイドリングストップ機構の採用などにより免税レベルを達成。革新的な乗降性、広い室内空間とともに、「ミニバンだから」という言い訳をしない環境性能はファミリー層だけでなく、時代を牽引し続けるアクティブシニア層にも支持していただける仕上がりとなっています。
そんなエスクァイアの設計・開発の責任者として、現場の指揮を執り続けたのは製品企画本部チーフエンジニアの水澗英紀。ヴォクシー/ノアをはじめ、エスティマ、アイシス、ウィッシュ等いくつものミニバンを手掛ける国内ミニバン開発のスペシャリストが、エスクァイアの環境性能を中心にクルマづくりを通じた社会への貢献についてその想いを語ります。

エスクァイア開発責任者 水澗 英紀
プロフィール (2014年11月取材)

エスクァイア開発責任者 水澗 英紀

所属
製品企画本部 チーフエンジニア
略歴
1961年石川県生まれ。1985年にトヨタ自動車に入社し、長く実験部にて車両の機器、強度等の評価とともに、エンジンマウントやサスペンションブッシュ、燃料タンクの開発に携わる。
車両実験部の強度実験室長を経て、2006年に製品企画本部へ異動。製品企画では2代にわたりヴォクシー/ノアの開発を担当。現在は、エスティマ、アイシス、ウィッシュ等も手掛ける国内ミニバン開発のスペシャリスト。

環境意識の高いお客様にも満足いただける新上級コンパクトキャブワゴンを目指して

-環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

エスクァイアというクルマは、広い室内空間を追求した5ナンバーサイズの3列シートミニバンにワンランク上の高級感を付与し、国内のミニバン市場に高級車の新しい選択肢として開発したクルマです。ボディーサイズやパワートレーンといった基本部分をヴォクシー/ノアと共通するため、実質的にこの2車とは兄弟車の関係にあります。企画のスタートは3車種同時期でしたが、3車種の差別化については相当な議論を重ねました。単なるフロント意匠の違いではヴォクシー/ノアに対してのポジショニングが曖昧になってしまいます。まずはヴォクシー/ノアをしっかりと作り、その上で両車に対し明確に高級方向に位置付けるのが新しいブランドを作るうえで最も適切だと判断し、お客様が一番求めている高級の付加価値を「デザイン」に絞り込み開発をスタートしました。そして、この企画において、「高級志向」をエスクァイアのブランドコンセプトに据えた要因のひとつに、環境をキーワードとする販売チャネル特有のお客様の特長がありました。

トヨタの販売会社には、「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」と4つのチャネルがあり、それぞれの販売チャネルでは、お客さまのライフスタイルやニーズに促した取り扱い商品をラインナップし、販売チャネルの特長を生かした店舗を展開しています。エスクァイアは「トヨタ店」「トヨペット店」を通じてご購入いただけますが、その特長を伺い知ることができる理由のひとつに、プリウスの取り扱い時期によるハイブリッド車に対する感度の高さ、ポジティブさが挙げられます。

環境意識の高いお客様にも満足いただける新上級コンパクトキャブワゴンを目指して
お客様の使い方やクルマに求めるものは、ライフスタイルや家族構成、お住いの地域・環境、運転するシーンなど様々です。私たち開発に携わる者は、常にお客様の声に耳を傾けるよう心がけていますが、こうした販売チャネル特有のマーケットも意識し、本当にいいモノをプロダクトアウトするように心掛けています。

現在の3代目プリウスはすべてのチャネルでご購入いただけますが、1997年に国内初の量産ハイブリッド専用車として初代プリウスを販売した最初のチャネルがトヨタ店であり、2代目プリウスからはトヨペット店でも購入できるようになりました。つまり、この2つのチャネルのお客様は早くからハイブリッド車を身近な存在として接していただいてきたという事実と、そうしたお客様は環境に造詣の深い方が多いという点があります。ハイブリッド車はガソリン車に比べ割高になりますが、こうしたお客様はハイブリッド車の持つ環境性能への対価を認めてくださる一方、既存のコンパクトキャブワゴンの使い勝手だけでは満足できないという声も多くありました。
トヨタには、同じカテゴリーに高級ミニバンといえるアルファード/ヴェルファイアがありますが、車両サイズが一回り大きく、そして高価になってしまいます。お客様が求めているコンパクトキャブワゴンの価格帯と使い勝手を維持しながら、ワンランク上の高級感と革新のパッケージ、そして圧倒的な環境性能を持つクルマ、それがエスクァイアです。
現に、2014年1月にモデルチェンジをしたヴォクシー/ノアの10ヵ月間のハイブリッド車の販売比率が約40%に対し、エスクァイアの発表からおよそ1ヵ月間のハイブリッド車の受注比率は60%を越えています(受注台数2万2,000台のうち、ハイブリッド車が約1万3,500台、ガソリン車が8,500台)。

お客様の使い方やクルマに求めるものは、ライフスタイルや家族構成、お住いの地域・環境、運転するシーンなど様々です。私たち開発に携わる者は、常にお客様の声に耳を傾けるよう心がけていますが、こうした販売チャネル特有のマーケットも意識し、本当にいいモノをプロダクトアウトするように心掛けています。

お客様の使い方やクルマに求めるものは、ライフスタイルや家族構成、お住いの地域・環境、運転するシーンなど様々です。私たち開発に携わる者は、常にお客様の声に耳を傾けるよう心がけていますが、こうした販売チャネル特有のマーケットも意識し、本当にいいモノをプロダクトアウトするように心掛けています。

ワンランク上の高級感と革新のパッケージ、そして環境性能を極めたミニバン、それがエスクァイア

ワンランク上の高級感と革新のパッケージ、そして環境性能を極めたミニバン、それがエスクァイア

-ミニバンにとって環境性能を追求するというのはどういうことでしょうか。

国内におけるミニバンの市場というのは特殊なものがあります。
商用車の延長であった1980年代を経て、急速に浸透していった1990年代、3列シートであればその付加価値が認められていた2000年代。こうした時代を経ながら様々な車種が淘汰され、現在はお客様の求める魅力を備えた3列車でなければ生き残れない時代になりつつあります。

国内において、ファミリー層をメインユーザーとするミニバンがここまで認知され、支持されるには様々な理由があります。
たとえば、国内のインフラ環境が非常に良いということです。ワインディングを通ることなく、バイパスや高速を使いどこへでも好きなところへ行くことができる。そうした良い道路環境にあって、ミニバンは十分な快適性を提供できます。また、日本は子どもと一緒にでかけるレジャー施設やお出かけスポットが非常に充実していることも理由の1つです。
さらに日本のナビゲーションシステムは非常に優秀なことも、ファミリーのお出掛けを身近なものにしている一因です。こうした様々な条件の相乗効果もあり、ミニバンがファミリー層を中心に支持されているわけです。平日は買い物や送り迎えなどの普段使い、週末はちょっと遠出という使われ方が増え、結果、走行距離は一般車の平均以上というデータが挙がっています。

一方、箱形で重量のあるミニバンは、必ずしも走り、燃費といった性能に対して有利とはいえません。中でも燃費はミニバンの弱点ともいえますが、走行距離の多いクルマこそ燃費の改善が重要と感じていました。
そもそも、ミニバンで最優先されるべきは「室内の広さ」と「使い勝手」です。単に燃費の良いクルマであれば、アクアやプリウスがあります。そのため、今回もワンランク上の高級感とともにパッケージこそが最大テーマで、このクラスで最大限に良いものをつくることを目指した開発に努めました。そして、同時に燃費をどのようにするかを考え、その柱をハイブリッドシステムとしました。ハイブリッドシステムありきの開発ではなく、あくまでも究極のパッケージングの延長線上に環境性能を最大限発揮できるハイブリッドシステムを設定して、お客様の期待を超える最適バランスのクルマをお届けすることが大きな目標でした。

たとえば、従来のハイブリッド車は、バッテリーの設置場所を後席下や荷室、あるいは運転席と助手席の間に設置しています。しかし、従来の設置場所では、シートをフルフラットすることができなかったり、車内のウォークスルーが簡単にできなかったりします。荷室も収納スペースとしてしっかり使うことができなくなる場合もあります。これではメインターゲットであるファミリー層のお客様にとって、ミニバンのうれしさをスポイルすることになります。今回、新たに設定したハイブリッド車のバッテリーは、低床化にこだわり、使い勝手も損なわないという点から前席下に設置することにしました。

ワンランク上の高級感と革新のパッケージ、そして環境性能を極めたミニバン、それがエスクァイア

革新のパッケージを実現した背景に、徹底した軽量化で環境性能を向上

-パッケージングと環境性能を両立するために大変だったことはありますか。

究極のパッケージングを実現するために、5ナンバーサイズにこだわりつつ低床フラットフロアによりクラス最大級の広々空間を実現しています。
リヤフロアの低床化により、室内高は1,400mmを確保しています。小さなお子さんなら立ったまま車内で着替えることができたり、大人も車内移動や乗り降りが楽に行えるようになりました。また、スライドドアの乗り込みは360mm(2WD)の低さで、しかも床面とステップ面の段差をなくし、乗り降りをしやすくしています。しかし、大きくなった5ナンバーいっぱいのボディーサイズと今回の低床化による室内高の確保は環境性能にとっては不利な条件となります。ボディーが大きくなれば、その分、車重も増えます。室内高や乗降性ためにドア開口部を広げるためには、これまで以上にボディー剛性を高めなければなりません。通常、剛性を高めるにはボディー骨格フレームの板厚を厚くしたり補強材を入れるなど対応が必要で、結果、車重の増加につながります。

ハイブリッドシステムはプリウスαのシステムを採用していますが、プリウスαはエスクァイアよりもひと回り小さいクルマなので、このシステムを搭載するためには車両質量をいかに軽くするかが大きな課題でした。軽量化は燃費の他にも、資源の節約、運動性能や乗り心地の向上にもつながるので、環境の視点だけでなく、クルマを開発するうえでとても重要な取り組みであり避けて通れないテーマでした。

エスクァイアは細部にいたるまで徹底して軽量化技術を実施しています。最も効果的だったのは、新設したフロア部分の軽量化です。フロア部分の骨格には衝突対策のための補強材が数多く入っていますが、そういったものを軽くて丈夫な『高張力鋼板(ハイテン)』と呼ばれる材料を多用することで後付け補強材をなくし、数十kg単位で軽量化しました。その他にもたとえば、外板のルーフパネルには、「ビード」と呼ばれる凸形状を最適に配置して剛性を高めるとともに板厚を下げるなど様々な工夫で軽量化を図っています。

実用燃費の向上こそが最大の狙い

-では、エスクァイアのその他の環境性能について教えてください。

最大の環境性能ともいえる燃費は、ハイブリッド車がJC08モード23.8km/L、ガソリン車の主要グレードで2WDが同16.0km/L、4WDも14.8 km/Lといずれも免税レベルを達成しています。
それは、開発段階からハイブリッド車を設定するのであれば、「手の届く価格で燃費の良いハイブリッドとして普及させたい」という想いがあったからです。
トヨタは、「エコカーは普及してこそ社会への貢献」と考えています。ハイブリッド車がどれほど燃費が良くても、手が届く価格設定がされていなければ普及することはありません。そのため、今回新たに設定したハイブリッド車には、プリウスから進化・熟成させてきた実績ある本格的ハイブリッドシステムを搭載し、クラスNo.1の低燃費とともにトルクフルな加速性能も両立しています。

ガソリンモデル・ハイブリッドモデルの燃費・エコカー減税の比較
  JC08モード燃費 自動車取得税・自動車重量税
2.0Lエンジン(2WD)+アイドリングストップ機能 16.0km/L 100%免税
2.0Lエンジン(4WD)+アイドリングストップ機能(Giグレード) 14.8km/L 100%免税
2.0Lエンジン(4WD)+アイドリングストップ機能(Xiグレード) 15.0km/L 自動車取得税80%免税
自動車重量税75%免税
1.8Lエンジン+ハイブリッドスシステム 23.8km/L 50%
表内の自動車取得税・自動車重量税の免税率は2015年3月末までのもので、2015年4月よりエコカー減税の見直し措置が行われる予定です
ハイブリッドシステムイメージ図
ハイブリッドシステムイメージ図
  1. 1.8L(2ZR-FXE)エンジン
    アトキンソンサイクル、クールドEGR(排出ガス再循環)システム、電動ウォーターポンプなどの採用により低燃費に寄与
  2. 昇圧コンバーター付パワーコントロールユニット
  3. ハイブリッドトランスアクスル
  4. ハイブリッドバッテリー(ニッケル水素バッテリー)

燃費というとハイブリッド車が注目されがちですが、ガソリンエンジンも頑張っています。
燃費の良さに定評のあるバルブマチックを進化させるとともに、新開発のCVTは変速比幅を拡大して高速巡航時の低燃費とスムーズな走りをサポートしています。

低燃費を支える技術(ガソリン車)
アイドリングストップ機能 改良バルブマチック付エンジン 新開発Super CVT-i
信号待ちなどの停車時に、エンジンを自動的にストップ。ムダなガソリン消費を抑えます。 燃費性能が魅力のバルブマチックに改良を施し、さらなる低燃費を実現します。 トヨタ車に搭載されるCSTの中で最大となるワイドな変速比幅で低燃費に貢献します。
蓄冷エバポレーターの仕組みとアイドリングストップの設定画面

これまでオプション扱いの車種が多かったアイドリングストップ機能「SMART STOP」を最廉価グレード以外は標準設定としています。いくらモード燃費が良くなっても、実燃費が良くならなければ意味がありませんし、お客様からもそうした声をいただいています。
しかし、夏場などはエアコンが止まり、冷房が送風に切り替わって快適性が損なわれるために、アイドリングストップしなかったり、すぐにエンジンが掛かってしまうという課題がありました。これを改善するため、ハード側では、エンジン再始動まで保冷剤で貯めた冷気を送り込んで温度上昇を抑えるという仕組みを持つ「蓄冷エバポレーター」という機能を新たに設定しました。

また、今回設定した「SMART STOP」には、アイドリングストップ時間をロングとノーマルの2段階で選べるようにしています。トレードオフの関係になりますが、空調性能を少し変更してでも燃費を良くしたい場合は、アイドリング停止時間を長く設定したロングモードを選んでいただければ燃費に貢献します。

私たち開発陣としては、アイドリングストップをもっとポジティブに捉えてほしいという想いがあります。
そのため、情報表示計にも遊び心を持ったいろいろな工夫が盛り込んであります。
たとえば、マルチインフォメーションディスプレイのエコメーターにしても、止まればアイドリングストップ時間の累積時間を表示したり、アイドリングストップによる節約燃料量が計算できたりします。
ハイブリッド車はもちろん、ガソリン車を選ばれたお客様にも燃費の向上しろがはっきり体験できるようなクルマをお届けしたかったので、実用燃費の向上にはこだわりを持って開発に当たりました。

蓄冷エバポレーターの仕組みとアイドリングストップの設定画面

スペース系のクルマを利用されてきたお客様への新たな選択肢へ

-ミニバン・キャブワゴン市場のお客様のクルマ選びにおける環境仕様をどのように考えますか。

ハイブリッド車はもちろんですが、ガソリン車については2WDだけでなく、4WD車も免税対象*となる燃費性能を達成しました。これによって、お客様がハイブリッド車を選ぶかガソリン車を選ぶかで、税制上の条件はほぼ同じ*となります。そうなると、お客様ご自身が年間の走行距離などを考えて、本当に自分に合った使い方を見極めてクルマ選びをしていただけることができるようになりました。

先にお話ししたようにコンパクトキャブワゴンのメインターゲットはファミリー層ですが、もうひとつ重要なターゲットにアクティブシニア層のお客様を据えています。“団塊の世代”と呼ばれる戦後の第1次ベビーブーム時代(1947~1949年生まれ)の年齢層の方たちで、日本が飛躍的に成長を遂げた高度経済成長期やバブル期の消費の中心的な役割を果たしてこられ、そのまま“アクティブシニア層”として世の中の消費活動を支えているといわれています。
こうした層の中には、ミニバンが急速に浸透し始めた1990年代にスペース系のクルマを利用されていた方も多くいらっしゃいます。そうしたお客様の中にはもっと燃費のいいクルマに買い替えたいけれど、たくさん人が楽に乗れて、荷物もしっかり積むことができるスペース系のクルマの使い勝手や居住性、開放感は捨てがたいと考えられていらっしゃいます。
手頃な価格で手に入るスペース系のクルマで、しかもミニバンなどの使い勝手や居住性はそのままに、圧倒的な低燃費を実現する。そして、その高級感は決して他者に自慢するものではなく、自身がクルマの中で過ごす時間を満足できるようシックで質感の高い仕上げでまとめられているエスクァイアは、魅力的な一台として新たな選択肢に受け入れていただけるのではないでしょうか。

2015年4月よりエコカー減税の見直し措置が行われる予定です 。
エスクァイア

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