開発責任者が語る環境への想い

プリウスα開発責任者 粥川 宏 2011年6月取材

プリウスα開発責任者 粥川 宏

2009年5月、「先進技術を追求し、お求めやすい価格で低燃費」をテーマに、ハイブリッド(HV)車のユーザーの裾野拡大を使命として発売された3代目プリウス。2010年の販売台数は315,669台で、これまで最も多かった1990年のカローラ(300,008台)を上回り、車種別で歴代首位となりました。世界初の量産HVとして誕生した初代プリウス発売から14年。HVが本格的な普及段階に入ったといえます。プリウスがHVの代名詞として注目される中、大きく広く、そして使いやすさを向上したプリウスαが2011年5月に登場しました。そのプリウスαのコンセプト策定から設計・開発の責任者として現場の指揮を執り続けた商品開発本部の開発責任者・粥川宏が、クルマづくりを通じた社会への貢献とはどういうことなのか、何が求められ、そうした声にどのように応えたのかをモノづくりの視点で語ります。

プリウスα開発責任者 粥川 宏
プロフィール (2011年6月取材)

プリウスα開発責任者 粥川 宏

所属
製品企画本部製品企画 主査
略歴
1984年トヨタ自動車入社。
初代レクサスやスープラなどさまざまなクルマのボディー設計を担当。その後、東富士研究所でアルミを使った環境対応の小型軽量車(2001年の東京モー ターショーに出展されたコンセプトカー・ES3(イーエスキュービック))の開発に従事。その後、ボディー計画室長としてフラットフォーム開発およびFF車のボディー構造の計画を指揮する傍ら、愛知万博i-unit開発に参画。2006年より製品企画担当に異動し、プリウスαの開発主査となる。

普及してこそ環境への貢献
CO2削減のカギはHV車を中心としたエコカーの普及

-環境の世紀ともいわれる21世紀において、重要なキーワードの一つ「サステイナビリティー(持続可能性)」をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

1997年に発売した初代プリウスは、将来も持続可能なサステイナブル・モビリティを実現するための「CO2削減」「エネルギー多様化への対応」「大気汚染防止」という3つの課題をキーとして開発されました。その当時、私は東富士研究所でアルミを使った環境対応の小型軽量車の先行開発に従事していたのですが、まだサステイナビリティーという言葉が世の中にまったくといっていいほど浸透していない時代でした。しかし、21世紀に入り人々の環境への関心が高まる中、今、国際社会は低炭素社会へと転換し始めています。私が製品企画に異動しプリウスαを担当した頃にはすでに世の中のエコカーへの関心も高く、「CO2削減のためにエコカーを選ぶ」という考えをお持ちのお客様がたくさんいらっしゃいました。
こうしたことから、私が考える「サステイナビリティー」の一番のポイントはやはり、CO2削減であり、そのためにはトヨタの基幹技術であるHVの裾野を広げることが大切だと思っています。「エコカーは普及してこそ環境への貢献」。この言葉の通り、その裾野を広げて環境へ貢献するため、低燃費とゆとりのスペースを両立した“トヨタが提案するマルチパーパスな環境対応車”としてプリウスαの開発にあたりました。

-スペース系のクルマがHVの裾野を広げるカギとなるのはなぜですか。

「CO2削減のためにエコカーを選ぶというお客様が増えた」と先ほどお話ししましたが、そうした環境意識の高いお客様は比較的年齢層が高いといわれています。事実、プリウスをご購入いただいたお客様の中にはセダンからの乗り換え層も多く、50代以上が70%を占めています。こうしたことから、もっと若いファミリー層やグループで利用されるお客様、キャンプなどアクティブな使い方をされるお客様などにもHV車を選んでいただきたい。そのためにはユーザーの声で最も多い「もっと広く」という要望を実現させることが大きなテーマでした。もちろんお客様はプリウスのスペースタイプとしてプリウスαをご覧になるでしょうから、価格もプリウス同様手の届く価格を実現しなければいけません。
現在、トヨタハイブリッド車のラインナップはプリウスαを含め乗用車13車種(2011年5月現在)です。その中には、スペースにゆとりのあるエスティマなどにHVの設定がありますが、何分価格が高い。本当はもっと燃費のいいクルマに買い替えたいけれど、たくさんの人が乗れて、荷室が広いスペース系のクルマの使い勝手や居住性は捨てがたいと考えていらっしゃるお客様はたくさんいらっしゃいます。そんなお客様に、手頃な値段で、使い勝手が良く、ゆとりの空間を実現し、しかも圧倒的な低燃費を実現するスペース系HV車をご用意したい。プリウスαはそんなクルマを目指しました。

-トレードオフの関係にある「多人数乗車」と「低燃費」を実現するために工夫されたことは何ですか。

プリウスαは、プリウスと同じ1.8LのハイブリッドシステムTHSIIを採用していますが、シートレイアウトの違う2タイプをご用意しています。
1つはオリジナルのプリウスと同じニッケル水素電池を積み、大容量の荷室を確保した2列5人乗りのモデル。もう1つはトヨタの量産ハイブリッド初のリチウム電池を搭載した3列7人乗りのモデルです。
室内のスペースを確保するためにはどうしてもボックス型になりがちですが、単純にプリウスの車体を広げてワゴンの様にしただけでは、空力性能も悪化し、車重も重くなってしまい結果燃費が悪くなってしまいます。特に、空気抵抗は燃費にかかわる重要な因子であり、プリウスαでは空力パッケージと先進的なボディーのデザインの両立にこだわりました。
前や横からくる空気の流れを整え、抵抗を極力抑えるためには、車高を低くしてプリウスのように車体の後ろを切り下げていく必要があります。しかし、プリウスαは3列目に日本人の平均的な体格の方(身長170cm)が座れることがMUSTの条件でした。これを何とかしなければいけない。つまり、オリジナルプリウスの延長では、プリウスαが求める「スペースと低燃費の両立」を実現することはできなかったんです。
試行錯誤の結果、車高が一番高くなるポイントをプリウスよりも若干前に移動させました。結果的に車高は国内の立体駐車場の高さ制限である1,550ミリを超えてしまいましたが、これは効率と空力を追求した結果であり、機能・用途・使い勝手を追求したシルエットなのです。

車両全体に織り込まれた空力性能向上のデザインアプローチ
車両全体に織り込まれた空力性能向上のデザインアプローチ
ポリカーボネートを採用したパノラマルーフ
ポリカーボネートを採用したパノラマルーフ

-「クルマが大きくなると車重も重くなる」ということですが、どのような工夫や挑戦によって低燃費を実現しましたか。

ラクティスの開発責任者の三浦さんが「サステイナブルな開発ストーリー」でお話しされているように、軽量化は燃費の他にも、資源の節約、運動性能や乗り心地の向上にもつながるので、環境の視点だけでなく、クルマを開発するうえでとても重要な取り組みなんです。
軽量化のために、クルマは骨格に軽くて丈夫な『高張力鋼板(ハイテン)』と呼ばれる材料を採用するのですが、プリウスαでもAピラー、Bピラー、各メンバなど主要な骨格に採用、ドアや、ルーフ骨格にはさらに高い強度ランクで軽い超高張力鋼板(150kg級)を採用しました。また、ボンネットフードやバンパー部分はアルミ合金製を採用して軽量化しました。樹脂パノラマルーフは国産車初のポリカーボネートを使用した樹脂製ルーフで、ガラスに比べて約40%の軽量化を実現しています。
また、これは断熱性にもすぐれており、外気温の室内への影響も抑えることができるので、エアコンの負荷軽減による燃費向上にも寄与します。今回、ポリカーボネートをパノラマルーフに採用するにあたり、表面に新開発のハードコート処理を施し、機械式の洗車機でも傷がつかないような配慮がしてあります。
内装材も軽量化を徹底しています。ドア内側の内装材(樹脂ボード)は、材料を2倍に発泡させることで25%の軽量化を実現しましたが、この発泡倍率2倍というのは世界最高レベルの工法です。荷室のデッキボードにはポリプロピレンにガラス繊維を混入して強度と剛性を向上させ、内部に使用していた鉄骨を廃止することで軽量化を図りました。
さまざまな軽量化の取り組みの結果、プリウスαはプリウスよりも約100kgの車重増に抑えることができました。この車重増と7名乗車に対処するため、HVユニットのギア比を低く見直したり、発熱対策としてモーターを水冷化するなどの改良を行い、必要な動力性能と「26.2km/L(JC08モード)」の低燃費を実現しました。

ポリカーボネートを採用したパノラマルーフ
ポリカーボネートを採用したパノラマルーフ

リチウム電池は7人乗りを実現する必須アイテム

コンソールボックス内のリチウム電池
コンソールボックス内のリチウム電池

-今回、3列シートにはトヨタのHVとしては初となるリチウム電池を採用していますがどのような効果があるのでしょうか。

2モデルは単にシートレイアウトの違いによるものではなく、3列シートのモデルは2列シートのモデルよりさらに3列目の乗車スペースを確保するために、前席中央のコンソールボックス内にリチウム電池を設置しています。見比べないとわからないデザインとなっていますが、実際はかなり違っています。
7人乗りに採用したリチウム電池は、ニッケル電池と比較して、容量が小さく電流を出し入れする応答性が高いという特徴があります。どちらもシステム全体の性能としては、ほとんど同じで燃費・動力性能の差はありません。また、バッテリースタックの重量そのものはニッケル電池に対し、リチウム電池は約半分の重量です。今回、小型・軽量のリチウム電池を採用した背景には、7人乗りを実現するための必須アイテムとしての役割があったんです。
コンソールボックス内のリチウム電池
コンソールボックス内のリチウム電池

-資源・リサイクルにこだわった点は何でしょうか。

リサイクル性にすぐれた熱可塑性樹脂TSOP材をバンパーやインストルメントパネルなどの内外装部品に積極的に採用しました。
バッテリーに関しては初代プリウス発売時より、回収体制を整えてきましたが、新たに、使用済ハイブリッド車用ニッケル水素電池中のニッケルを、電池の原料として再資源化する世界初の“電池to電池”リサイクル事業を始めました。
従来、販売店や解体事業者等で回収された「ハイブリッド車用ニッケル水素電池」は、還元処理を行い、ニッケル含有スクラップをステンレス原料としてリサイクルしていましたが、含有ニッケルの高度な選別・抽出技術を開発したことにより、直接、ニッケル製錬工程への原料投入が可能となり、「ハイブリッド車用ニッケル水素電池」から再び「ハイブリッド車用ニッケル水素電池」に戻す、“電池to電池”リサイクルを実現しています。
リチウム電池についてはニッケル水素バッテリーと同じ既存の回収ルートをベースとした合法的な回収網・手法の構築や、適正処理技術の開発により、体制を整えてきています。

電池原料化リサイクル事業スキーム
電池原料化リサイクル事業スキーム

お客様とともに進めるエコドライブを通じた温暖化防止

ESPO画面
ESPO画面

-ハード面以外で環境に貢献する工夫やシステムはありますか。

プリウスαは確かにHVシステムなどのハード面から「26.2km/L(JC08モード)」という低燃費を実現しています。しかし、エコカーとしての魂を吹き込むにはソフト面の「ドライバーの方の運転の仕方」も重要であり、実燃費向上へ貢献するエコドライブ支援装置が大切な役割を担っています。
プリウスαでは2つのアイテムを用意しています。
1つは、全車標準装備としてスピードメータ横に設定している「ハイブリッドシステムインジケータ」です。これは環境に配慮したアクセル操作であるかをドライバーに伝える表示で、プリウスに設定されているものと考え方は同じです。さらにプリウスαでは「EV走行インジケータランプ(白のクルマにEVの文字)」を設定、エンジン停止状態でのモーター走行時に点灯します。これらを活用してHV車ならではのエコドライブをお楽しみいただけます。
そして、もう1つのアイテムとして、メーカーオプションのナビゲーションシステムに、エコドライブの喜びを広げていく新しいエコドライブサポートシステム「ESPO(ECO PASSPORT)」を搭載しています。
これは昨年に発売されたSAIに初めて搭載されたシステムで、ドライバーがエコドライブを実践した運転情報をG-BOOKセンターに送信すると、度合いに応じてポイントがもらえ、獲得ポイントに応じたランキング(獲得率や燃費)を月ごとに作成し、オーナー同士で比較することができます。獲得したポイントは、「Gazooの森プロジェクト」の植樹活動に還元できます。楽しみながらエコドライブを継続できるので、是非使っていただきたいですね。

ESPO画面
ESPO画面

軽量ボディーにエコ技術を詰め込んできた経験を如何なく発揮

私は製品企画に異動するまで、ずっとボディー設計一筋でやってきた根っからの技術屋です。2001年には東京モーターショーでエコロジーをテーマにした超低燃費のコンセプトカー「ES3(イーエスキュービック)」の開発に携わり、2005年の愛知万博ではi-unit開発に参画してきました。i-unitは、「自由に移動したい、走ることを楽しみたいという個人の欲求の充足と、社会との調和、地球・自然環境との共生を高次元でバランスさせる」ことを追求したパーソナルモビリティで、当時のオールトヨタグループの英知と技術を結集したコンセプトカーでした。こうした小さく軽量なボディーにトヨタのエコ技術を詰め込んできた経験は、プリウスαの開発において大変役立ちました。私がプリウスαの開発責任者になったのもそんな経験をフルに発揮しろ、という上の思惑があったのかもしれません。
プリウスが牽引し、拡大してきたハイブリッド市場は、プリウスαの登場で新しい局面を迎えたと思います。全車両におけるハイブリッド車の比率が高まることはもちろん、いずれハイブリッド車や環境車は特別なクルマではなくなり、「環境車=普通のクルマ」という認識が一般に定着するのもそう遠い日ではないかもしれません。

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