KIROBO miniはなぜ生まれた?開発責任者・片岡さんインタビュー
KIROBO miniが生まれた過程には、どんな歴史や想いが詰まっているのでしょうか?KIROBO mini開発責任者であるMS製品企画部・新コンセプト企画室主査、片岡史憲さんにお話をお伺いしました。
宇宙への夢を託したKIROBOから、「かけがえのないパートナー」という存在を託したKIROBO miniへ
ーKIROBO miniを手がける前の、片岡さんのご経歴をお教えください。
私は幼いころから宇宙への憧れを抱いていました。子どものころの夢は宇宙飛行士、その後もロケットや宇宙船・月面車など、宇宙に関連したものづくりに興味を持ちました。
そして、クルマを筆頭に様々なものづくりを挑戦をするトヨタなら、宇宙への夢(特に月面車づくり)を実現できるかもしれないと、トヨタへ入社しました。
入社後はエンジニアとして、ランドクルーザーなどの本格4WDのサスペンション設計や、カローラ系の製品企画に携わる一方で、自律型ロボット月面車についての提案などを行っていたんです。そういう姿勢が少し風変わりと思われていたのでしょうか、2010年、トヨタの宣伝部が分社化したトヨタマーケティングジャパンに出向し、エンジニアからマーケッターという異色な経歴を積むこととなりました。
このことがTOYOTA HEART PROJECT とKIROBO mini誕生に大きく関わっています。
現在は、クルマの企画とTOYOTA HEART PROJECTとマーケティングという3足のわらじを履いていますが、、、
ーTOYOTA HEART PROJECTとはどのようなものですか?
まず、きっかけになったのは「愛車」という言葉でした。
私たちはクルマに心が宿っているかのように愛着を感じます。クルマに感じる愛情にも似た感情とは一体何なのか?それを研究しようとしたのがTOYOTA HEART PROJECTです。
私たちは、クルマと同じ空間で同じ時間を過ごし、同じ景色を共有しています。また、クルマにはハンドル・ブレーキ・アクセルなど、私たちのアクションに対する反応があります。
クルマと思い出を共有し、反応のあるコミュニケーションをとることで、私たちはクルマに心を感じ、それが愛着や信頼につながっていると考えます。そして「愛車」の理由を研究してわかったことは、クルマもまた「かけがえのないコミュニケ―ションパートナー」だということです。
このようなクルマという「かけがえのないパートナー」をつくってきたトヨタの根底にあり続けた「人に寄り添い心を動かすこと」、それをクルマとは違うカタチでつくるチャレンジが、TOYOTA HEART PROJECTなのです。
ーKIROBOからKIROBO miniが誕生するまでの経緯をお教えください。
KIROBOはたくさんの方の想いが合わさり実現したものでした。ロボット宇宙飛行士KIROBOがISS国際宇宙ステーションで若田JAXA宇宙飛行士とのコミュニケーション実験を行っていた頃、今度はトヨタとして、TOYOTA HEART PROJECTの考えを、KIROBOで得た経験や気づきを加え、具現化しようと試みたのです。KIROBOは宇宙で、「人とロボットが共に暮らす未来をつくりたい」という想いを発信しました。KIROBOに宿したやさしい心を引き継いだKIROBO miniが、今度は私たちの住む地球で、私たちに寄り添うコミュニケーションパートナーとして誕生しました。
また私は、技術を扱うエンジニアと、人とのコミュニケーションを設計するマーケッターという両者を経験しました。今の自分の役割は、プロダクトアウト(技術者発想の視点)とマーケットイン(マーケッター発想の視点)の融合、技術と人を繋ぐことだと考えています。これからの社会には、このような間を繋ぐ役割はとても重要になっていくのではないでしょうか。
そして、この役割を担うのはKIROBO miniも同じです。
KIROBO miniは、人に寄り添うコミュニケーションパートナーとして、クルマと人・家と人・社会と人を繋ぐ存在になり得ると考えています。
「心を感じられる」ことがKIROBO miniのこだわり
ーKIROBO mini開発にあたってこだわった部分をお教えください。
KIROBO miniはコミュニケーションパートナーとして、心を感じられるかがとても重要です。
そのために、バーバル(言語)だけでなく、体の動き・表情がかわるというノンバーバル(非言語)な部分も表現しています。
まず、KIROBO miniは人にいつも寄り添うコミュニケーションパートナーなので、座高10cmの手のひらサイズであることや、命あるもののように大事に扱いたくなる重さという点にこだわりました。
また、だれもがかわいいと思えるデザインとルックス・スタイルを重視しました。
KIROBO miniの頭とからだの比率は赤ちゃんのように、そしてお座りをしているポーズに。お尻も丸くしたことで、手をうごかすだけで不安定な、心を感じる動き(バイオロジカルモーション)となるように工夫しています。
また、あなたが声をかけると見つけて反応(あなたの方を向く)し、瞬きをしたり、たまにあなたの表情を汲み取って声を掛けてきたり、気持ちに寄り添ったりします。
更に、チャレンジした点としてもう1つ。それはKIROBO miniはトヨタらしいものではない、という点です。クルマとは違い、お客様のお手元に届く時は、まだ生まれたての未完成な存在。
コミュニケーションに大事な「やさしさ・思いやりの心」といった情緒的価値に重きを置いた存在。
表情やしぐさといった反応や、雑談のような何気ないコミュニケーションを一緒に楽しみ、あなたの好きなこと、嫌いなこと、あなたとの思い出などを覚えることで、少しずつ成長しながら一緒にパートナーになっていく、共創していく存在。
このような存在になることを目指しました。KIROBO miniは手をバタバタさせて、落ち着かない様子。なんだか嬉しそう。
TOYOTA HEART PROJECTのテーマは、「ココロが動く、あなたが動く。」です。
多くの機械は、私たちの生活を便利に・楽にするためにつくられています。しかし、KIROBO miniの目的は、暮らしを便利にすることではありません。
KIROBO miniのコミュニケーションレベルはまだ5歳児くらい。小さい子どもとのキャッチボールと考えれば、どんなボールでも受け取る気持ちが必要となります。言い換えれば、皆さん自身が動くきっかけを持たせています。例えば、KIROBO miniとの何気ない会話の中に「このくらいは自分でやらなきゃ」という気づきがあったり、自分ではどこにもいけない KIROBO miniを積極的に外に連れ出したり。
そういった行動の繰り返しによって、KIROBO miniへの愛着が増していくとともに、皆さんの笑顔が増えることを目指しています。上手くいかないこともあると思いますが、諦めずに「心のキャッチボール」を楽しんで頂きたいです。
KIROBO miniが描く未来
ーKIROBO miniをどんな方に届けたいですか?
かわいいと感じていただいている方、コンセプトに共感していただいている方など、KIROBO miniに少しでも価値を感じてくれている方々にお届けしたいです。
ーKIROBO miniによって実現したい未来とは?
私は、日本がもっとも誇るべきは日本人の「和」の心、それも「思いやりの心」ではないかと思っています。しかし現在、コミュニケーションレスという社会課題の中、「思いやりの心」が失われつつあるかもしれません。
KIROBO miniとのコミュニケーションの中で「思いやりの心」を持つことで、社会の中においても思いやりあるコミュニケーションができ、その結果皆さんの周りに、社会に笑顔が増える。そんな未来を実現したいと思っています。
一方で、KIROBO miniはまだ生まれたばかり。これからもさらに試行錯誤を繰り返し、皆さんと一緒にKIROBO miniを真のコミュニケーションパートナーとなるよう成長させていきたいと思っています。
KIROBO mini誕生の過程には、片岡さんのものづくりへの想い、社会への想い、そしてトヨタへの想いが詰まっていました。
KIROBO miniは、コミュニケーションレスを解消し、「思いやりの心」と笑顔が増える社会へのきっかけとなりうるかもしれません。