TOYOTA COROLLA DEVELOPER STORY

走りの良さと評価

走りを磨くのは、データか。感性か。

トヨタには完成した試作車に対して、厳しい目と共に的確な評価を行う匠テストドライバーが数多く在籍している
が、その中で最高峰を意味するトップガンの異名を得ているのが凄腕技能養成部に所属する
評価の匠たちである。彼らが認めた脚の良いクルマこそが新型カローラである。

人物写真
トヨタ自動車株式会社 凄腕技能養成部FDチームG
片山 智之
トヨタ車全般において運動性能の全てに関わる部分の監査(評価)を担当。新型カローラの開発においても監査という枠を超えてプラットフォームやコンポーネンツ全般に対しての提案も積極的に行っている。
片山

数値だけを信じるな

良いクルマというものは、どんな状況下でも四輪がキチンと接地していて、それぞれがちゃんと仕事をしている。これは監査の仕事を通してずっと考えていたことであり、カローラを評価するうえでも変わらない評価軸のひとつでした。とは言ってもお客様にとってみれば、「クルマは常に四輪が接地しているじゃないか」、と思われるのが普通だと思います。四輪がキチンと接地して、それぞれが仕事しているという言葉の真の意味は、ドライバーが感じるクルマの動きに違和感がなく、スムーズに走って曲がって止まることができる。不安を覚えるような動きがないということです。「フラットな乗心地である」という表現を使う場合もあります。ステアリング周りに関していえばドライバーの操作に対して「直結感がある」や「ダイレクト感がある」といった表現ですね。これらはお客様に感覚的に理解していただける表現だと思います。

こうした評価側の感覚的な表現に対して、設計側は関連するさまざまな箇所のデータを計測し数値化することで、感覚として評価した人物以外でも理解できるようにする作業を行います。これを「定量化」といいます。ところが時としてわれわれが下した評価に対して、設計側が修正案として出してきた新しい定量化数値に対する再評価が良いものにならない。評価に対する改善策を求め、定量化を行い、より良いものを導き出そうとしているのに、そうはならないと言う問題がありました。その理由を評価と設計の双方が考え、最適なものを導き出す作業が、今回のカローラの開発において重要な工程だったと思います。これらをクリアするために必要だったのは、評価側と設計側の地道なコミュニケーションにほかならず、ある瞬間の定量化数値にとどまらず、走る、曲がる、止まるといった連続した一連の動きをどう見るかということが重要でした。

アクセル、ブレーキ、
意のままに

クルマの動きは言葉にするとどうしても難しくなってしまうのですが、基本はアクセルを踏んで加速する、コーナーの手前でアクセルを離しブレーキをかけて減速、ステアリングを切ってコーナーを回って行くといった一連の動きに対する総合的な評価です。たとえばしっかりとした四輪の接地感=フラットな操縦性を重視すると、微低速領域で曲がりにくいクルマになってしまう場合があります。ここでポイントとなるのは荷重移動というクルマの動きです。
減速の過程でブレーキをかけるとクルマは前に傾くという動きは皆様が感じている現象だと思います。あれが前後の荷重移動であり、荷重が前輪により多く掛かることでクルマは曲がりやすくなります。コーナーを曲がる場合、ステアリングの操作に合わせてクルマが左右に傾くのも同じく左右への荷重移動です。

ところが、安定性を重視したフラットなハンドリングを強調すると、人によっては曲がりにくいと感じてしまう場合も出てくる。今回のカローラの評価においては、そうはならないように、何よりもお客様が体感していただけるようにパーキングスピード、すなわち人が歩くくらいのスピードから街中をゆっくり走る領域における四輪の自然な接地感の実現。さらには1人1人運転レベルの異なるドライバーのさまざな操作に対して、常に違和感のない自然な動きをクルマ側にさせるためにはどうしたら良いのかという観点で足回りに対する評価とセッティングを心掛けました。

質感がある車は
四輪がバタバタしない

クルマの動きの良し悪しを大きく左右するのはサスペンションの詳細なスペックです。良いサスペンションを作るうえではショックアブソーバー(サスペンションの上下の動きを素早く止めるための装置)の役割が極めて重要です。今回はカローラ スポーツから非常に良い上質なものを採用しています。カローラ スポーツではその性格上、減衰力(動きを止める力の強さ)を高めに設定していたのですが、要求される減衰力がより低いカローラやカローラ ツーリングにも、使い方によっては上手く流用できるのではないかと思い実践したところ、とても良いものができました。ドライバーやパッセンジャーが感じる動きはソフトでマイルドなのにもかかわらず急なショックに対しても車体がバタバタしない。ストンストンと小気味よくショックが吸収され、四輪の接地感がしっかりと確保される。こうしたクルマの動きはトータルとして「上質である」という評価に結びつきます。

新型カローラ ツーリングでは、綿密に設計された走りの質感を楽しむことができる。

日本中すべての道で合格点

今回の仕事については「やりきった感」があります。とても良い仕事をさせていただきました。これからカローラとカローラ ツーリングは皆様にお披露目され、お手元に届けられるわけですが、その際にはぜひ乗心地のほかにステアリングから受ける感じの良さを味わっていただきたいと思います。特にニュートラル(中心位置)から左右に少しだけ切った領域での感覚、同じく戻した時の感覚。今度のカローラは上質でとても感じが良いと思っていただけるはずです。