STYLES
日本が世界に誇れるもの 多様であること、持続可能であること、そして圧倒的なクオリティ
2023.09.15
コラムニストの中村孝則さんは、世界の美食事情に通じている。中村さんが語る日本人シェフが評価される理由は、はたしてクルマにもあてはまるものだった。
食とクルマは、日本が誇るコンテンツ
中村孝則さんは、美食やファッション、旅や茶道など、幅広く執筆活動を行うコラムニストだ。健筆をふるうだけでなく、食のアカデミー賞とも称される「世界のベストレストラン50」の日本におけるチェアマンや、大日本茶道学会の茶道教授を務めるなど、ラグジュアリーな文化を伝える役割を担っていることでも知られる。
中村さんが常々主張しているのが、レストランと食文化は日本が世界に誇るべきコンテンツである、ということだ。同じように、クルマと自動車文化も日本が誇るコンテンツ。日本人シェフが世界で評価される理由は、日本のクルマにも通じるはずだ。そこで、クルマ好きとしても知られる中村さんの視点でトヨタ・クラウンを語っていただくことになった。

中村孝則さんは、フランスで最も由緒あるシャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を受勲、スペインでもカヴァ騎士の称号を受勲するなど、ヨーロッパのラグジュアリー・ライフにも通じている。そうしたグローバルな視点で、今回はクラウン・セダンを語っていただいた。
クラウン(セダン)を見ながら、中村さんに食の世界のトレンドをうかがう。すると、「グローバル+ローカル」「サスティナビリティ」「ダイバーシティ」というキーワードを挙げてくださった。
「グローバルとローカルのひとつの例ですが、『NARISAWA』はグローバルで高く評価されているレストランです。成澤由浩シェフがどういう料理をするかといえば、日本各地のローカルな食材を使っています。東京や大阪、京都などはグローバルな美食都市として成長するいっぽうで、富山や和歌山などでローカルな素材を使う地産地消型のレストランが人気を集めています。ローカルなものこそがグローバルで評価されたり、グローバルとローカルの境目がなくなり、両者がつながっていることが潮流のひとつです」

水平方向のベルトラインによって伸びやかなプロポーションを表現、ひと目でFR(後輪駆動)だとわかるスタイリングとなっている。

ボディ後部に向けてたおやかな弧を描くルーフラインも特徴的だ。横一文字のテールランプが、ボディのワイド感を強調する。

フロントマスクの特徴は、「ハンマーヘッド」と呼ばれる横方向のラインで、これにより精悍な表情とワイド感を表現する。その下に位置する台形のグリルは、威厳と風格を伝える。そしてこのふたつの組み合わせによって、従来のセダンとは異なる、ニューフォーマルなスタイルが生まれた。
トヨタ・クラウンも、先代まではほとんど日本だけで販売される、ローカルなクルマだった。けれども現行モデルは、世界約40カ国でグローバルに展開することになる。そう伝えると、中村さんは大きく頷いた。
「日本のシェフがなぜ世界で評価されているのかといえば、仕事がきめ細やかで、圧倒的なクオリティを提供するからです。先ほど運転席に座らせていただきましたが、このクラウン(セダン)の内装も繊細に作り込まれていました。こうした日本のモノづくりの志やクラフツマンシップが世界に出て行ったときにどういう評価を得るのか、僕も楽しみです」

全体に直線基調のラインでシンプルな構成となっていること、細部に至るまで繊細に作り込まれていることなどに、中村さんは日本らしいモノづくりの精神を見たという。
抹茶を広めるために、ミルクと砂糖を混ぜるのか
日本のモノづくりの文化を輸出するということで、中村さんに訊いてみたいことがあった。中村さんはお茶を世界に広めるために、たとえば立ったままお茶を点てたり、シャンパーニュとマリアージュさせるといった試みをしている。
では、日本の文化を世界に紹介するにあたって、ここまでならアレンジしてもいいという基準はどこに置いているのだろう。

中村さんが持参してくださった茶器を拝見する。コンパクトな茶籠には、いくつもの器が効率よく収められていて、限られた空間を機能的に使う、日本の美意識を垣間見た。そしてこの日本的な機能性と美意識は、クラウンの内装にも通じるものだ。
「難しい問題ですね。抹茶を広めるだけなら、ミルクと砂糖を混ぜればいいかもしれない。でもそれをやらないのは、お茶の本当のおいしさを伝えたいからです。この茶籠をはじめとする茶器は、安土桃山時代のものもあれば、江戸時代のものもあります。茶器の美しさは長い時間をかけて磨かれ、受け継がれてきたものですから、急に変えるのは難しい。日本の伝統をどこまでアレンジするのか、おそらくトヨタの開発陣も似たようなチャレンジをしていると思います」

中村さんが手にするのは、安土桃山時代の器。ひびが入ったところに金継ぎを施してリサイクルしたという。モノを大事に扱い、長く使うことも日本の文化だ。
中村さんのおっしゃることはよくわかる。伝統的な日本の高級車をそのまま世界に出しても、受け入れてくれる人は限られるだろう。けれども本質は変えずにアレンジを施してアップデートすれば、日本のよさをより多くの人に理解してもらえる可能性が増す。
そしてそのアレンジは、生まれた時からデジタルが身近にあり、意識することなくグローバルとつながってきた日本の若い世代にも響くかもしれない。

安土桃山時代のものから、江戸時代のものまで、中村さんの茶器はどれも由緒あるものばかり。こうした伝統を守りながら、いかに新しい世代や世界の人々に伝えていくのかという中村さんの取り組みは、クラウン・セダンにも通じる。
「クラウンのデザインを見ると、現代におけるアップデートがうまくいっていると感じます。たとえばインテリアを見ると、シンプルで機能的ですよね。これは、僕の非常にコンパクトな茶籠に器がきれいにおさまる、日本の伝統的な美意識に通じるものがあります。そうした精神性のようなものは踏襲しつつ、外観は世界のどの街にも似合うように、現代的にリファインされています。正直に申し上げて、先代までのクラウンは自分が乗る姿は想像できませんでした。でもこのスタイリッシュなデザインは、自分で運転してみたくなります。ダニエル・カルバートというイギリス人シェフがフォーシーズンズホテル丸の内の『SEZANNE』というレストランで高い評価を得ていますが、彼のように、日本で働く海外のエグゼクティブが乗っても絵になるのではないでしょうか。クラウン・セダンのコンセプトは“ニュー・フォーマル”だとうかがいましたが、まさしくいまの時代にふさわしいフォーマリティを表現しているように思います」

後席に腰掛けた中村さん。「ゆとりのあるスペースといい、上質な設えといい、これなら自信を持って、大切な人をお乗せするショーファードリブンとして使うことができます」と語る。

杢目調パネルは、木と木を積層させたモダンなデザインにしている。積層した木の立体感をリアルに表現するために、200以上の試作品を製作したという。

水平基調のインテリアは、エクステリアの世界観と共通する。外観を眺めてから運転席に腰掛けた時に、内外装の世界観が通底しているというデザイナーのこだわりが理解できる。
高級車におけるサスティナビリティとダイバーシティとは
中村さんが挙げてくださったトレンドのなかで、「サスティナビリティ」に話題を移す。このクラウン・セダンはFCEV仕様で、燃料電池で発電した電気で走る。そう説明すると中村さんは、「なるほど、だからマフラーがないんですね」と感心したような表情を浮かべた。
「食の世界でサスティナビリティというと、美食を否定するものだと考える方がいるかもしれません。けれどもおいしいものを食べたいというのは人間の根源的な欲求なので、それを否定するとうまくいかないと思います。だから簡単に言うと、おいしいものをいつまでも食べ続けたい、だから環境について考えようということでしょうか。地球環境は変わりつつあるし、資源枯渇という現実もあります。複雑な問題なので食の世界でもまだ正解は出ていませんが、みんなで考えていこうという機運が高まりつつあります」
そう言ってから、中村さんは、「FCEVってどんな感じなのか、運転して確かめてほしいですね」と、つぶやいた。

ダッシュボードのアッパー部やセンターコンソールのひじ掛け部分など、身体にふれやすい位置には表皮巻きのソフトバッドを配置するなど、細やかに気配りされている。
「美食と同じで、運転する楽しさを否定するとクルマのサスティナビリティもうまくいかないと思います。クルマの楽しさを味わい続けるために環境に配慮するというのは、食の世界と共通でしょうね」

ステアリングホイールのステッチにはかがり縫いを採用、デザインのアクセントとなるのと同時に握り心地のよさも追求している。
最後に、食の世界における「ダイバーシティ」というトレンドがどのようなものなのか、うかがった。
「美食の世界でダイバーシティの問題といった場合、まず第一に挙げられるのは女性が少ないことです。女性が活躍できるような業界にする、という方向に舵を切っていきたいと思います」
現行のクラウンは、このセダンのほかにクロスオーバー、エステート、スポーツと、計4モデルをラインナップし、多様なライフスタイルに対応している。
「本当に変わりましたね。いままでのクラウンだと、乗っている人は年配の男性しか想像できませんでした。でもこのクラウン・セダンは若い女性が運転している姿が容易に想像できるし、アウトドアが好きな人はエステートとか、ワインディングロードが好きな方はスポーツとか、多様な方の選択肢が用意されているように思います」

新型クラウンが4つのスタイルを持つ多様性に感銘を受けたと語る中村さん。「多様性や持続可能性に取り組むなど、クラウンは時代の最先端を走っているという気がします」。
では、4つのスタイルのうち、中村さんはどれを選ぶのだろうか。
「すごく悩みますね。さきほど後席に座ってみたらものすごく落ち着いて、クラウン(セダン)だったら大事な方をお乗せできると感じました。いっぽうでスポーティに走らせることも大好きなので、セダンとスポーツで悩むことになると思います。今度、スポーツとセダンで乗り比べをさせてください(笑)」
中村さんのお話をうかがいながら、美食とクラウンに共通点が多いことに感心した。両者は遠く離れているように思えるけれど、同じ課題を抱えているし、似たようなトレンドが生まれている。中村さんのお話をうかがいながら、クルマも美食も独立した存在ではなく、世界の動きとつながっていることが理解できた。

中村孝則
1964年神奈川県に生まれる。コラムニストとしてファッションからカルチャー、美食やシガーなど、ラグジュアリー・ライフをテーマに執筆活動を行う。近年は、テレビ番組への出演や企画、トークイベントなど、幅広く活動している。著書に『名店レシピの巡業修行』(世界文化社)などがある。
Produced by FIRST DRIVE
Photograph by Kunihisa Kobayashi
Text by Takeshi Sato

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