STYLES
世界的なファッションデザイナーの感性を刺激した
2023.12.11
2001年にN.HOOLYWOODを立ち上げた尾花大輔さんは、ニューヨークでコレクションを発表するなど、国内外で精力的に活動してきた。世界的なファッションデザイナーの目に、新しいクラウン(エステート)はどのように映るのだろうか。
無駄を削ぎ落としたスタイリッシュな造形美
N.HOOLYWOODのデザイナーを務める尾花大輔さんは、大のクルマ好きとしても知られる。トヨタ・クラウン(エステート)と初対面した尾花さんは、ディテールをチェックしながら、「去年、新しいクラウンが登場した時には驚きました」と切り出した。
「ファッション業界で言えば、ブランド名を改めて、コレクションブランドからストリートブランドに変わるぐらいの大きな変化じゃないですか。しかも4つのスタイルで打ち出す規模の大きさは、勇気とかそういうレベルじゃないと思うんです。ゼロスタートに近いというか。大きな変化にアレルギーを引き起こす人もいるだろうけれど、新しくファンになった人もいるはずで、だから売れているのでしょう。
ブランドを運営する立場としても、ひとりのファッションデザイナーとしても、すごく勉強になりました」
クラウンと向き合う尾花大輔。クラウン(エステート)のデザイナーは、風景がボディに美しく映り込むようなデザインを意図した。エッジィなキャラクターラインや煩雑なパネルの面構成を避け、シンプルさを追求したことで、景色がきれいに映り込む。
4つのスタイルで登場した新型クラウンは、それぞれが別のカテゴリーのクルマでありながら、どこか統一感がある。理由のひとつは、ハンマーヘッドと呼ばれるフロントマスクのモチーフが共通しているからだ。
ハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)の頭の形から着想を得たと思われるこの形状と、複雑なラインや面の構成ではなく、シンプルな美しさを追求していることが、クラウンの各モデルに統一感をもたらしている。
横方向に一文字に伸びる、ハンマーヘッドというデザインモチーフがクラウンの各スタイルの共通点。中でもクラウン(エステート)は、ボディカラーと同色の格子状の金属的なグリルが都会的で、都市と自然豊かな郊外を行き来するというコンセプトを表現している。
「N.HOOLYWOODでいうと、たとえばパンツとジャケットという違うアイテムでも、フォルムと印象的なタグの2点によって、“Nハリらしさ”を打ち出したいと思っています。もうひとつ、コンフォタブルで着やすいことも“Nハリらしさ”だと思っていて、4スタイルのクラウンも、乗り比べてみると快適で運転しやすい、みたいなところに“クラウンらしさ”という共通点があると想像しますね」
洋服とクルマのデザインの共通点と違いについて、さらに尾花さんにうかがう。
クラウン(エステート)はSUVとステーションワゴンが融合したモデル。高度な4輪駆動システムによって、悪天候でも安心・安全に長距離を走るグランドツアラーとしての資質を備える。また、ラゲッジルームは広々としたスペースを確保することはもちろん、スクエアな形状にすることで荷物の積みやすさにも配慮している。
こうした機能とスタイリッシュなデザインを両立していることがクラウン(エステート)の特徴であるけれど、N.HOOLYWOODのアイテムのデザインについては、機能とデザインのバランスをどのように考えているのだろうか。
パノラマルーフから車内に陽光が降り注ぐ。「明るいのが好きだから、これは気に入りました」と尾花さん。
「バランスはあまり考えていないかもしれませんね。うちの場合は、機能が勝手にデザインになっていくような服が多いです。そして最後の仕上げの段階で、さらに削ぎ落としたほうが格好いいよな、というデザインになることが多いですね。このクラウン(エステート)というモデルも、ちょっと似ていると思いました。機能を追求して、シンプルに削ぎ落としたら、結果として機能とスタイリッシュさがバランスした、という印象です」
無駄のないシンプルな造形美というデザインコンセプトは、エクステリアだけでなくインテリアにも共通する。内外装の世界観が統一されていることも、新しいクラウンの特徴だ。
もうひとつ、クラウン(エステート)のデザイナーは、ボディに風景がきれいに映り込むような造形を意識した、という話題を振ると、「それは自動車デザイナーらしい視点で、ファッションデザイナーとは違いますね」と即答した。
「視点としては建築家に近いと思うので、ファッションデザイナーとしてはとても興味深く感じます」
ニューヨークに行って、フィジカルが強くなった
では、キャンプなどのアウトドアのアクティビティを趣味とする尾花さんは、クラウン(エステート)をどのように使いこなすのだろうか。
「キャンプの大荷物を積むときには、ただ荷室が広いだけだと不十分なんです。荷室のフロアの高さが重要で、ここが高いと積み込むときに“よっこらしょ”になってしまう。その点、このクルマはフロアが適度に低いから積みやすいです。また、フロアが段差のないフラットなものなので、荷物を積み込みやすい。本気でSUVとステーションワゴンの“いいとこ取り”をデザインしていると感じます」
積載しているキャンプのギアは、すべて尾花さんの私物。アウトドアのアクティビティにクルマを活用するからこそ、「荷室のフロアの高さがちょうどいい」という発言に真実味がある。
休日には都市を離れ、自然と親しむことが多いと語る。こうした時間が、尾花さんのクリエイティビティの源となる。
後席シートを倒すと、室内長は2メートルを超える。荷物を積むことはもちろん、車中泊のことも考えた設計とデザインだ。身長180センチを超す長身の尾花さんが横になっても、充分な余裕がある。
「これ、いいですね。仕事の性格から、ひとりきりになることがなかなか難しいんです。だからクルマだけがプライベート空間で、仕事もできて休憩もできるこの空間は、平日に使うならモバイルオフィス的な使い方をしても最高ですね。僕はほぼ毎日、10分ほど昼寝をするので(笑)。週末はどう使うかな……。休みの日に家でごろごろするのはあまり好きじゃなくて、海や山でリフレッシュしたいと思っています。だから都市と郊外を行ったり来たりするような使い方をイメージします」
SUVとステーションワゴンの融合がコンセプトだけに、荷室の広さはもちろん、フルフラットになる機能も充実している。室内長は2メートルを超えるから、車中泊にも好適だ。
インテリアに関しては、細部まで丁寧に作り込まれたことに感銘を受けたと語る。
「たとえばこのセンターコンソール、運転席側からも助手席側からも開けることができるんです。後席も広いし、すべての座席の居心地がよくなるように考えられています。外観のデザインもそうだし、インテリアの雰囲気からいっても、老若男女、誰が運転席に座っても似合うし、誰が後席に座ってもフィットすると思います」
これが本文でふれられている、運転席側からも助手席側からも開けることができるセンターコンソールのアームレスト。全席特等席というコンセプトを聞いた尾花さんは、「なるほど」とうなった。
後席の広さと、電源やUSBソケットが充実していることを確認した尾花さんは、「このクルマを移動型オフィスとして使うのもアリかな」と、つぶやいた。
老若男女にフィットするという発言から連想したのが、N.HOOLYWOODの洋服だ。このブランドのものも、たとえば親子で同じアイテムを共用できるほど、着る人の年齢を問わない。尾花さんは、エイジレスということを意識して洋服を作っているのだろうか。
「僕はファッションデザイナーってふたつにわかれると思うんですよ。ひとつは、こんな人がいたらいいなという理想像を投影する人。でも僕はストリートで育っているから、自分が着られる服、自分を中心に考えているかもしれない。だからエイジレスな洋服だと言われることは、素直にうれしいですね」
最後に、長きにわたって主に日本で売られてきたクラウンが、グローバルで販売されることについてうかがう。尾花さんも、2010年よりニューヨーク・コレクションに出展しているけれど、そこで得たものは何だろうか。
「ニューヨークでコレクションを開くようになって、フィジカルが強くなりましたね。予想もしていなかったことが起こるし、メディアのインタビュアーも、僕個人がブランドに対してどう向き合っているかについて、とことん追求してくる。だからフィジカルとメンタルが鍛えられました」
歴代クラウンから「革新と挑戦」というDNAを引き継ぎ、多用な価値観を反映して新しく生まれ変わったクラウンは、海外に進出してどのように鍛えられるのだろうか。いまから、その反応が楽しみでならない。
インタビューを終えて感じたのは、クラウンの姿形が大変身したことや、風景がきれいに映り込むボディラインについて、尾花さんが並々ならぬ関心を抱いていたことだ。クラウンのデザインが、世界的なファッションデザイナーの感性を刺激したのだ。
トヨタ・クラウン(エステート)のサイズは、全長×全幅×全高:4930×1880×1620mm。
※数値は開発目標値となり、変更する可能性があります。
※クラウン(エステート)(CROWN "ESTATE") は、2023年度内発売予定。撮影車両はプロトタイプモデルとなり、実際の販売車両とは一部仕様が異なります。
尾花 大輔
N.ハリウッドデザイナー。1974年、神奈川県生まれ。1995年にヴィンテージショップ「ゴーゲッター」に参画し、古着バイヤーとしてのキャリアを築いたのち、2000年に自身のショップ「ミスターハリウッド」を設立。翌年、N.ハリウッドを立ち上げ、現在に至る。
Produced by HYPEMAKER
Photograph by Tatsuro Kimura
Text by Takeshi Sato
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