STYLES
ファッション界の寵児、マットメタルを着こなす
2024.01.31
特別仕様車として登場したクラウン(クロスオーバー)RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”は、ボディカラーだけでなく、顧客との新しいコミュニケーション方法にもチャレンジする意欲作。気鋭のブランド/デザイナーとともに世界へ挑む長坂啓太郎は、このクルマからどのようなインスピレーションを得たのか?
フィジカルな店舗の重要性が増している
撮影スタジオで特別仕様車のクラウン(クロスオーバー)RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”と対面した長坂啓太郎は、こんな感想を口にした。
「事前に写真を見せていただいて、色もデザインも都会的なクルマだという印象を受けました。実車を見て車のフォルム・カラーリング共に、写真で見ていた以上に洗練されており、自分の暮らしている東京の景色との相性の良さを感じました。」
尖ったラインや複雑な面構成ではなく、シンプルなカタマリとして美しさを表現していることがよくわかるカット。
長坂は、現在のファッション業界で注目を集めている人間のひとり。彼が4年前に立ち上げたSakas PRは、わずかな期間で24ものファッションブランドのPRを担当するまでに成長している。
「弊社のオフィスは表参道にあって、周辺で仕事をする機会が多いのですが、このお話をいただいてからマット塗装のクルマに目が行くようになりましたね。自分がマットメタルのクラウン(クロスオーバー)に乗るのならどんなスタイルにするのか、考えてきました」
長坂が用意してきたコーディネイトは後でじっくり紹介するとして、まずはこの特別仕様車についての話を聞く。
クラウンはデザインをがらりと変え、4つのスタイルを用意し、グローバルに展開するなど、新たなチャレンジをしているけれど、挑戦はそれだけにはとどまらない。クラウンだけを販売する店舗「THE CROWN」を立ち上げ、ここをオーナー同士が交流するコミュニティにしようと考えているのだ。つまり顧客とのコミュニケーション方法の革新も図っており、「THE CROWN」だけでオーダーできる特別仕様車を設定することも、新たなチャレンジだ。
特別仕様車をオーダーすることができる専売店「THE CROWN」は、まず横浜都筑と福岡天神でオープン。追って、愛知、千葉、東京で開業する予定だ。
クラウン(クロスオーバー)RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”が生まれた背景を知った長坂は、小さくうなずいてから、穏やかな口調で切り出した。
「私たちが担当しているBED j.w. FORD(ベッドフォード)というブランドが、今年の夏に外苑前に直営店をOPENしました。リアルなコミュニケーションを図る過程で、来店したお客様にもブランドのスタッフにも新しい発見があったと聞きました。ECも含めた小売に関しては、意外と昔に戻りそうな気がしていて、店舗がサロンのような方向に回帰する予感があります。アフターサービスも併せて、フィジカルな店舗の重要性が増すのではないかと思っていたので、THE CROWNという店舗にチャレンジする話は腑に落ちます」
そう語りながら長坂は、興味深そうにマットメタルのボディカラーを見つめる。単なる新色というだけでなく、“マット”という新しいテキスチャーが、長くファッションと関わってきた長坂の好奇心を刺激したようだ。
彼が都会的だと評したこの色には、完成までに紆余曲折があった。マット塗装を保護するコーティング剤までトヨタがゼロから開発し、工場ではこれまでになかったコーティングという工程を確立した。工程が複雑になることから、工場からは生産に否定的な声もあったけれど、実車を見ると「この格好いいボディカラーを絶対に実現しよう」と、現場が一致団結したという。
マットメタルというボディカラーは、GRブランドでは採用したことがあるけれど、 トヨタブランドの車両としては初となる。マットメタリックとコーティングの組み合わせは、トヨタ全体でも初めてというチャレンジだった。ちなみに、GRブランドではこの色をマットメタルではなく、マットスティールと呼んだ。
この話題になると、長坂は「モノづくりの現場で何が行われているかも、PRにとって重要な情報のひとつです」と語った。
「独立する前は、 Maison MIHARA YASUHIROで社員としてPR業務を担当していました。デザイナーの三原(康裕)さんに教わったことは多くありますが、アトリエのスタッフや職人の方を大事にしていたことをよく覚えています。ファッションは表面的には華やかな世界に見えますが、実際は表にはなかなか出てはこない人達がブランドを支えている。ただデザインされた服をショーできれいに見せて、それだけで売れるということはないと信じてPRの仕事をしているので、このボディカラーの背景にモノづくりのストーリーがあることを知って、納得しました」
長坂が独立しようと考えたきっかけは、すでに多くの人に知られているブランドではなく、これから世界に打って出ようという若いブランドとともに挑戦をしたかったからだという。
「今日着用したブランドでいうと、COGNOMEN(コグノーメン)は私たちとほぼ同時期に立ち上げた、ブランドです。デザイナーの(大江)マイケルさんがブランド初期から大切にしてきたチームと共に、2023年2月に秩父宮ラグビー場で初のランウェイショーを開催しました。同時期にはパリで展示会を開催するようになっています。BED j.w. FORDは今年、初めてパリ・ファッション・ウィークのスケジュールに入りました。パリの経験があるブランドは以前から担当していましたが、初挑戦のブランドは私達にとっても初めての経験でした。だからモデルのオーディションに始まってショーが終わるまで、できる限りの瞬間に立ち会いました。同じ目線で、同じ時間を共有したいと思ったからです。そのブランドの一員としてチャレンジをしてきました」
Sakas PRは企業だから、もちろん収益も大事だ。ただし長坂の言葉からは、儲けを追求するよりも、日本のファッションデザイナーやブランドを支援したいという強い気持ちが伝わってくる。
クラウンのイメージが100%変わった
これから、Sakas PRはどのような方向にチャレンジするのか。この質問に対して、長坂は表情を引き締めながらこう答えた。
「僕らが担当させてもらっているブランドの多くは、日本から海外へ進出することを目標にしています。僕らも海外で勝負できるPRを目指していて、今年は会社の組織を見つめ直して、海外を担当する語学が堪能なスタッフもメンバーに加えました。国内でルックを撮ってショーをやって、というブランドが次のステージに行くサポート基盤をもっと強固にすることはこれからも大きなテーマのひとつです」
主に日本で販売されてきたクラウンが、今後はグローバルに進出するという話を振ると、長坂はこう返した。
「日本の新しいデザイナーがすぐに受け入れられるとは楽観していません。ただし、パリやミラノが新しい才能を探していることも確かです。一度や二度のチャレンジを重ねて、継続していくことが大切だと思っていて、もしかするとそれはファッションもクラウンも同じかもしれませんね」
マット塗装は、汚れや傷がついた時に磨くと、マット部分に艶が生まれてしまうことがある。これを避けるために、トヨタはマット塗装を保護するコーティング剤まで自社で開発した。
最後に、クラウン(クロスオーバー)RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”とコーディネイトした今日のスタイリングについて、解説してもらった。
まずBED j.w. FORDから。
「BED j.w. FORDのファンの方も同じように考えていると思いますが、テーラードとスラックスのセットアップがこのブランドを象徴していると思います。BED j.w. FORDからはブランド独自のエレガンスを感じます。実車を見ると色も形もエレガント。いくつかコーディネイトを用意してきましたが、品格や知性を感じる雰囲気の形とカラーを選びました。この素材には、よく見るとラメが入っているんです」
「BED j.w. FORDのコーディネイトをいくつか持って来ましたが、実車を見た瞬間にこのセットアップがキマると直感しました」と長坂。このボディカラーと自身のコーディネイトをつなぐキーワードは「エレガンス」だったという。
セダンとSUVの融合というテーマで開発されたのがクラウン(クロスオーバー)。リフトアップした4ドアセダンというスタイルに、長坂は「とても唯一無二な存在ですよね」という感想を残した。
続いてATTACHMENT(アタッチメント)とVEIN(ヴェイン)。
「このブランドのデザイナーは、23年間続けた創業者から、榎本光希さんに交代しました。歴史を背負いながら新しいことにクリエイトする、という意味で、榎本さんはほかのデザイナーとは異なるチャレンジをしていますね。写真でマットメタルのクラウン(クロスオーバー)を見た時に、榎本さんがデザインする、現代におけるシンプルシティを追求するATTACHMENTと、構造表現主義をテーマとするVEINと相性がいいと確信しました。フーディとスカーフっぽいエプロンをコーディネイトしてみましたが、こういうカジュアルなスタイルングも受け入れるこのクルマには、懐の深さを感じます」
このコーディネイトは、長坂が普段の生活でも好んで着ているものだという。「毎日、ドレスアップしてクルマに乗るわけではないので、こういうリラックスしたスタイルでも似合うのはうれしい」
最後がCOGNOMEN。
「デザイナーのマイケルさんは日本とイギリスに自身のルーツを持っており、ランドにもその文化的なアイデンティティを感じる事ができます。今回着用したジャケットとスカートのセットアップもヨーロッパにおけるドレスアップを自分なりの解釈でコーディネイトしており、ボディカラーにもデザインにもフィットしていると思います。明るい色のセットアップ、オールブラックのフーディとエプロン、グレーをベースにしたヨーロッパ的なキルトなど、幅広いコーディネイトにフィットする多様性に富んだクルマという印象です」
COGNOMENの大江マイケルは、日本人の父とイギリス人の母の間に生まれ、東京で育ち、ブラジルへのサッカー留学を経験している。したがって彼がデザインする洋服には、さまざまな文化が融合している。クラウン・クロスオーバーのスタイリングとマットメタルというボディカラーは、多様な文化的背景を持つ彼の洋服と見事にフィットした。
後日、この日に着用した3つのブランドのデザイナーから、長坂啓太郎という人物について語ってもらった。BED j.w. FORDの山岸慎平は言う。
「思い描く事に立ち止まらず真っ直ぐに進む彼の挑戦を、クライアントとして頼もしく見ています。彼にも自分にもまだまだ物語に先があり、これからも見たい景色を一緒に見られることを友人として信じています」
「ハンマーヘッド」と呼ばれる、横方向に一文字に広がるデザインモチーフがクラウンの象徴。4つのスタイルがいずれも「ハンマーヘッド」を採用することで、異なるボディ形状でもクラウンとしての統一感が生まれた。
ATTACHMENT/VEINのデザイナーである榎本光希は、長坂についてこう語る。
「アタッチメントとヴェインの挑戦に彼の存在は欠かせません。彼は常にPRとしての新しさの探究に挑み、奮闘し、実行している。ゆえに、彼は人の挑戦に心から共感することが出来る、デザイナーにとっての無二のパートナーだといえます」
COGNOMENの大江マイケルから見た長坂啓太郎とは、こんな人物だ。
「長坂さんは勝負人だと思います。会う度に、新しい挑戦を考えていて、周りにその思いを共有しているのが伝わります。その姿からCOGNOMENは安心を持って服を預けられており、同時に力をいただいております」
最後に長坂は、「マットメタルというボディカラーは、おそらく従来のクラウンだったら設定されなかったのではないでしょうか」と語った。そして、「このデザインとマットメタルの組み合わせに接して、クラウンというクルマに対するイメージが100%変わりました」と、この日の取材をまとめた。斬新なボディカラーを纏ったクラウン(クロスオーバー)は、ファッション業界の寵児の既成概念を打ち壊すほどのパワーを持っていたのだ。
マット塗装にもいくつかの種類があるけれど、クラウン(クロスオーバー)のカタマリ感を表現するためにマットメタリックが選ばれたという。ATTACHMENT(アタッチメント)とVEIN(ヴェイン)のコーディネイトで、長坂はあえてフーディを選択。このクルマがカジュアルなコーディネイトにもフィットすることを証明した。
長坂啓太郎
1985年、静岡県生まれ。大学卒業後、2社を経た後、Maison MIHARA YASUHIROでPR業務の経験を積む。2019年にSakas PRを設立。ここで紹介したブランドのほかに、KIDILL・MAGLIANO・BLESSなど、国内外の24ブランドを担当する。
Produced by HYPEMAKER
Photograph by Hiro Kimura
Text by Takeshi Sato
この記事のクラウン
クラウン(クロスオーバー)
RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”
かけがえない一台と過ごす、かけがえない日々は、
きっと、この出会いから始まっていく。
※ CROSSOVER RS“Advanced ・THE LIMITED-MATTE METAL”は、THE CROWN横浜都筑・THE CROWN福岡天神にて取扱いとなります。
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