走行性能に込めた想い

Story of Engineer

クルマに込めた想いをご紹介

Episode.03

走行性能に込めた想い

走りもすべて新しく。「快適な移動」を支える
走行性能に込めたエンジニアたちのこだわり

記事協力:八重洲出版「driver」編集部

ある意味、新型アルファード/ヴェルファイアはとてつもなく壮大なコンセプトのもとに開発された。
「テーマは『快適な移動の幸せ』です。大開口・大空間のパッケージを確保しながら、移動の幸せのためにはどんな性能を進化させなければいけないのか、メンバーで議論を重ねました。世界の名だたる高級セダンにも乗って気づいたのは、人に対する不快な振動や騒音をなくすべきだと。けっして無響室のようではなく、森のなかにいるような。そんなクルマを造りたいと思いました」(トヨタ自動車 CV Company CV製品企画 ZH2 辛島智聡さん)

トヨタ自動車 CV Company CV製品企画 ZH2 辛島智聡氏

パワーユニットは3タイプある。主力はハイブリッド車(HEV)だ。2.5ℓエンジンはTNGA設計の「ダイナミックフォースエンジン」。
トヨタハイブリッドシステムⅡ(THSⅡ)は、先代に対してエンジン・THSⅡともに世代を一新している。

実際の走りもすべてが新しい。アクセルを軽く踏み込み、モーターだけで走るEV走行は、今回のアルファードにおいて最も車重が重いE-Fourエグゼクティブラウンジでもグッと力強くなった。アクセルオフのEV走行領域は高速域まで拡大。エンジンが再始動する振動は皆無といっていい。巡行時の静粛性も非常に高い。
急加速ではエンジンが歯切れよく吹き上がり、モーターアシストと相まって力強いトルク&パワーが瞬時に立ち上がる。モーター4WDのE-Fourも巡行時はFF状態で燃費を稼ぎながら、走行状態に応じて高速域まで後輪に駆動力を伝える。

写真はアルファード

それにしても速い。ひと口に2.5ℓTHSⅡといってもいろいろな仕様があるが、新型アル/ヴェルが搭載するのはモーターが強力な最新タイプ。レギュラー仕様でシステム最高出力は250馬力に達している。197馬力の先代とは段違いなのだ。しかも、燃費まで大幅に向上している。

HEVシステムの出力向上に貢献した新開発のバイポーラ型ニッケル水素電池。センターコンソール下に配置することで居住・荷室空間も犠牲にしていない

「HEVシステムは国内でいえば(レクサス)NXと同じシステムを搭載しました。新型アル/ヴェルはNXに比べ車重が重たいため、HEVバッテリーをリチウムイオンからバイポーラ型ニッケル水素に変えることで出力を上げて対応しましたが、排ガス規制の適合には大変苦労しました。意匠の工夫や空力パーツの設定など走行抵抗を下げながら車両全体で達成しました」(トヨタ自動車 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 宮崎 潔さん)

トヨタ自動車 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 宮崎 潔氏

先代3.5ℓV6に代わる新世代ガソリンエンジン、2.4ℓターボはヴェルファイアに設定する。
レクサスRX/NX搭載用と同じくハイオク仕様で279馬力・43.8kgmの性能を発揮。先代のV6(301馬力・36.8kgm)には高回転のパワーでおよばないが、低中回転のトルクは2.4ℓターボが大きく上まわる。4ℓ超のガソリンに匹敵する大トルクを、わずか1700回転から発揮するのだ。燃費もダウンサイジングターボの強みで、V6から改善している。

従来3.5ℓV6と新型2.4ℓターボの比較

FFのZ Premierに乗ると、発進直後からターボの過給が遅れなく始まり、極厚のトルクが立ち上がる。重量級の高級ミニバンにはピッタリの特性だ。それをダイレクト感の高い8速ATが次々とテンポよくつなぎ、駆動力に変換する。実用域の力強さと余裕はV6を間違いなく凌駕。しかも、加速時のエンジン騒音もしっかりと抑え込まれている。

写真はヴェルファイア

「過給エンジンというとターボラグを感じられることが往々にしてありますが、このユニットはアクセルを踏んだ分、スッと応答するような細かいチューニングをしています。あとはトルク特性を活かして、ダウンシフト(変速)をしなくてもスッと走るような特性にしました。また、走りにこだわるヴェルファイア専用ユニットということもあり、走りの質感に関してもこだわって開発しました」(トヨタ自動車 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 福増利広さん)

トヨタ自動車 クルマ開発センター パワートレーン製品企画部 福増利広氏

ベーシックな2.5ℓガソリンエンジンはアルファードに設定する。ユニットはHVと異なり、CVTを含めて先代からの流用だ。182馬力・24.0kgmの動力性能にも変更はない。
これが驚くほどよく走る。車重はFFでも2t超えだが、それを感じさせない快足ぶりだ。CVTの無段階変速が自然吸気エンジンの性能を効率よく引き出している。空力向上やタイヤ転がり抵抗の低減といった燃費対策は、走りにも効いている。
動力性能を受け止めるボディ&シャシーも、全方位で格段の進化を遂げている。核となるのはTNGA設計のGA-Kプラットフォームだ。

車両骨格のベースはGA-Kプラットフォーム。そこからアルファード/ヴェルファイアに適合させるべく最適化。赤い部分は新設部品だ

「特に力を入れたのは、乗り心地についての開発です。ボディ剛性を高める必要がありますが、ミニバンはスライドドアやフラットフロアによる構造上の弱点があります。今回はボディ構造の変更に加え、高剛性タイプと高減衰タイプを使い分けた構造用接着剤、『ゴツビリ(ゴツゴツ、ビリビリ)』を吸収する周波数感応型バルブショックアブソーバーなどで、フラットかつ不快な振動がない乗り心地といったプラットフォームの開発を進めました」(トヨタ自動車 CV Company CV製品企画 ZH2 牧村登美彦さん)

トヨタ自動車 CV Company CV製品企画 ZH2 牧村登美彦氏

後席に伝わるミニバン特有の振動を抑えるべく、リヤボディのねじり剛性をさらに高めたのは、オープンカーにヒントを得たVブレースだ。

床下のVブレースは、ボディの変形を効率よく抑え、操縦安定性のみならずシート振動の低減に寄与する

「先行開発では、乗り心地を調査する凹凸路面を造ってもらいました。その路面を3Dスキャンしてデジタルで取り込み、そこにクルマを走らせて不快な振動の原因をシミュレーションで解析しました。その結果、リヤアンダーボディのねじれでイスが揺れ、人が不快に感じることがわかりました。そこでねじり剛性を高める方法として採用したのがVブレースです。お菓子の箱でも下箱だけだとグニャグニャしますが、フタをして上と下に面があるとねじれなくなる。そういう発想です」(トヨタ車体 車体性能開発部 CAE開発室 小島直樹さん)

トヨタ車体 車体性能開発部 CAE開発室 小島直樹氏

高級ミニバンの乗り心地というとソフトなイメージかもしれないが、新型アル/ヴェルの足まわりは先代より引き締まっている。ボディの揺れを抑え、姿勢をフラットに保つ狙いだ。実際、ボディは先代のような揺れがなく、安定感が非常に高い。
路面の突起や段差を乗り越えたときのショックはあるが、サスペンションは優れた減衰でそのショックを即座に収める。ボディの揺れやバネ下の振動を抑えた、じつにフラットな乗り心地を実現している。

ボディ剛性の向上は運動性能にも寄与する。足まわりの仕様はタイヤを含めれば多岐にわたるが、どれに乗ってもステアリング操作に対してリヤボディがねじれる様子はない。レーンチェンジでもリヤがフロントに対して初期から遅れなく追従する。
アルファードのZ(HEVとガソリン)にはコンベショナルなショックアブソーバを、エグゼクティブラウンジには、サスペンションに周波数感応型ショックアブソーバーを採用する。メカ式の減衰力可変機構を内蔵し、ロール剛性と乗り心地をいっそうハイレベルにバランスできる。
さらにヴェルファイアは、運動性能をいっそう高める専用の補強パーツを全車に加えている。フロントパフォーマンスブレースだ。

今回のヴェルファイアは、走りにこだわる。アルファードとハード面の大きな違いは、フロントに追加されたパフォーマンスブレース。車両の応答性や接地性向上を狙っている

これによって初期操舵のレスポンスが向上。アルファードよりもフロントがスイッと向きを変える。サスペンションもロール剛性を若干高めたチューニング。19インチの55タイヤも全車標準だ。周波数感応型ショックアブソーバーも全車に備える。

ヴェルファイアは全車19インチタイヤを採用

「フロントパフォーマンスブレースは、シミュレーションや数値ではまだわからないところがあります。でも、これを付けるとフロントが素直に(インに)入ってくれる。同じ操作でスラロームをさせたデータを有無でとっても、付いているほうがヨー(首振り揺動)の応答がいい。ヴェルファイアの狙った走りには必要なアイテムとして入れました」(トヨタ車体 車両実験部 動的性能開発室 男成智仁さん)

トヨタ車体 車両実験部 動的性能開発室 男成智仁氏

ヴェルファイアのキャラを象徴するのは、2.4ℓターボ搭載のZ Premierだ。エンジン全域で瞬時に溢れ出るトルク感と胸のすく加速性能、微小舵角からリニアに反応するハンドリングは、スポーティといってもいい走りの一体感を堪能させる。
HEVのエグゼクティブラウンジはヴェルファイアにも設定する。が、フロントパフォーマンスブレースによって、アルファードとはシャシーのフィーリングが違うのだ。アルファードのエグゼクティブラウンジは17インチの65タイヤが標準で、乗り心地をもっとも重視したショーファー的な仕様。一方、ヴェルファイアはキビキビしたハンドリングを好むオーナードライバーに向いている。

静粛性に対するこだわりも凄い。公道を模したロードノイズ評価路を低中速で通過しても、高音質の気になるタイヤ音はほとんど目立たない。高速域のEV走行でも同様だ。
「お客様には1列目と3列目シートでも楽に会話ができる点を一番感じていただきたいと思います。それを実現するために、不快な周波数を下げ、心地いい周波数のバランスを追求しました。ノイズは、その発生メカニズムから振動伝播音と空気伝播音に分類されます。振動伝搬はボディの剛性を上げて音そのものを鳴りにくくする。空気伝搬については車両の小さな穴や隙間を徹底的にシールし、音の侵入を防ぎました。板金の隙間の(総)面積は先代の半分くらい。セダンやSUVに近いくらいに低減しています」(トヨタ車体 車両実験部 動的性能開発室 鶴尋貴さん)

トヨタ車体 車両実験部 動的性能開発室 鶴尋貴氏

極めつけは、ミニバンとしては驚くほど小さい、ボディの風切り音だ。風圧の影響をもっとも感じる1列目シートでも、風切り音はするものの、バサバサ、ザワザワ、といった耳触りな音は抑えられている。2列目シートにゆったり腰を降ろせば、シートに伝わる振動はさらに少なく、乗り心地は上質そのもの。風切り音は1列目よりいっそう小さくなり、サイドウインドゥにきれいに沿って流れる気流が見えるようだ。

「風切り音は競合のショーファーカーと同等のレベルまで持っていこうと。ミニバンとしてのパッケージを確保しながら、Aピラーやアウターミラー廻りの風流れをどうやってコントロールするか。開発初期から、仮説と検証を繰り返して。意匠検討を開始する前にボディ各部の形状諸元を決めました。しかし、実際に意匠検討が進むと、デザインとの背反がもちろんあります。それを机上で議論していてもなかなか決まらない。

そこで、意匠をクレイで模擬した改造車を仕立てて。実際に東富士のテストコースへデザイナーに来てもらい、ミリ単位でクレイモデラーさんに削ってもらって。それを僕らで走らせて検討して。『ここをもう少し』と、その場でまた削ってもらう。これをテストコースの脇で繰り返しました。
マスキングがあると風の流れが変わってしまうので、マスキングを剥がして、夜な夜な走行を繰り返して。半年くらい夜勤生活を続けて、細部まで造り込んでいます」(トヨタ車体 動的性能開発室 渡邉裕昭さん)

トヨタ車体 動的性能開発室 渡邉裕昭氏

あらゆる振動とノイズをここまでコントロールしたミニバンが、今まであっただろうか。