PHEVの開発に込めた想い

Story of Engineer

クルマに込めた想いをご紹介

Episode.04

PHEVの開発に込めた想い

日本初のPHEVミニバンで新しい価値を
ショーファー性能が新たな次元に突入

記事協力:八重洲出版「driver」編集部

黒柳 輝治
トヨタ自動車 製品企画 ZH チーフエンジニア 兼 トヨタ車体 領域長

黒柳さんはノア/ヴォクシーに続くチーフエンジニア(CE)の大役ですね。

黒柳

アルファード/ヴェルファイアは先代で開発に携わりました。現行型は途中からCEを引き継ぎ、現在はミニバン系開発の全体を見ているかたちです。

そんなミニバンづくりのスペシャリストである黒柳さんに、今のアルファード/ヴェルファイアはどのように映っていたのでしょうか?

黒柳

まず、何と言っても先代のアルファード/ヴェルファイア。その前からも高級ミニバンを意識して開発してきましたが、Executive Loungeを追加して本当にショーファーカーとしても使われるようになったのがすごく大きかったですね。

それは現行型へのフルモデルチェンジでさらに昇華しています。プラットフォームを刷新し、ボディ剛性を含めて基本性能を大幅に上げています。動的性能だけでなく、それによってミニバンならではの大空間に、寛ぎや静けさといったものが加わったと思います。あの空間のうれしさというのは、本当に唯一無二ではないでしょうか。その結果として幅広いお客様にご愛用いただいていると思っています。

海外での人気も非常に高いですね。

黒柳

アジアを中心にですね。先代から中国でもショーファーカー的なブランドとして確立されました。中国では名刺代わりのような感じで。最近は中国車の進化も目覚ましいものがありますが、アルファードに乗っていることで富裕層や成功者として認められるくらいのステータスがあるようです。

では、黒柳さんにはアルファード/ヴェルファイアに新設定されたプラグインハイブリッドの概要を教えていただこうと思います。

黒柳

現行型の「快適な移動の幸せ」という大きなテーマは変わりません。PHEVはショーファーユースに今の時点でもっとも最適なトップグレードという位置づけです。

アルファード Executive Lounge(PHEV・E-Four)。ボディカラーのプラチナホワイトパールマイカ〈089〉はメーカーオプション。オプション装着車。

今回のPHEVはエンジンがかからずモーターのみで走る、いわゆるEV走行が120㎞/h程度まで可能です。例えば、お客様に都内で使っていただく場合、一般的な使い方なら首都高を含めてほぼEV走行でカバーできます。車内は走行中も静粛性が非常に高く、お客様にはゆったり寛いでいただけます。ビジネスシーンであれば、大切なお客様をお迎えしておもてなししたりとか、車内で商談したりという場合もあるかもしれません。また、自分自身が大きなミッションを終えて、クルマに戻って安らぎを得たいということもあるでしょう。

PHEVのもう一つの魅力は、航続距離の長さです。ハイブリッド車(HEV)と同じようにエンジン主体で走行するので、高速道路を使った都市間移動も給油や充電の心配がなく余裕をもって行えます。こうした理由から、PHEVはショーファーカー的な使い方にとても合っていると思います。

しかも、トヨタのPHEVはこれまでの車種を見てもHEVと同等に低燃費ですからね。

黒柳

ありがとうございます。PHEVのメリットについて、我々がもう一つ考えたのは、運転するショーファーの方の負担を少しでも減らしてあげることができないかと。ショーファーの方は運転中、後席のお客様に対してつねに細心の注意を払っています。

例えば、高速のランプなどの勾配を登る際、HEVはエンジンが再始動すると2000から3000回転くらいでうなるようなノイズが出てしまいます。PHEVはモーターアシストがさらに力強く、エンジン回転数を抑えて加速できるので、運転する方はエンジン音に気を使わずにアクセルを踏み込めます。また、スムーズストップという機能も入れました。ブレーキを踏んだ際、後ろのお客様が不快にならないようにブレーキを効かせる機能です。

ヴェルファイア Executive Lounge(PHEV・E-Four)。ボディカラーのプレシャスメタル〈1L5〉はメーカーオプション。オプション装着車。

それだけでも運転する方の気遣いや疲労がかなり軽減されそうです。

黒柳

あと、ショーファーカーにつきものなのが待機時間です。夏に車内で待つ際にはエアコンを使用するシーンがありますが、エンジンをかけてしまうと、周囲の目もあるじゃないですか。PHEVならバッテリーが大容量なので、HEVよりも長時間エンジンがかからない状態で車内を冷房でき、快適に待機することができます。そうすると運転手の方も心の余裕ができ、あらためてVIPの方に思いやりを持っておもてなしできるかなと。PHEVはいろいろな面でショーファーカーとマッチしていると思います。

黒柳さんがPHEVの開発をまとめるうえで、特に苦労した点や気を使った点は?

黒柳

やはり基本性能の“最後の一筆”みたいなところですね。もともとアルファード/ヴェルファイアはプラットフォームも含めて素性がとてもよく、また室内のいろいろなおもてなし装備にもこだわって開発してきたクルマです。 今回、PHEVという新しいユニットの武器を得たことで、ショーファーカーとしての基本性能はそこから大幅に上がっていると思います。ただ、ショーファーカーや高級車は、やはり最後のつくり込み、一筆が大事。そこがアルファード/ヴェルファイアのPHEVならではのトヨタらしい高級車、ショーファーカーの味付けだと思うんですね。

その最後の一筆とは、具体的にどのようなところでしょうか?

黒柳

例えば、走行中に段差を乗り越えたときのボディのフラット感や乗り心地、そのためのショックアブソーバーの最後のチューニングとか。また、パワーユニットが静かになれば、今度はHEVとは違う騒音が気になるようになります。それまで目立たなかったロードノイズとか、風切り音みたいなところとか。 そうした点を最後どう詰めていくかを、開発チームの皆で手法をいろいろと検討して。もうその領域に来ると、どっちかというと試行錯誤、トライアンドエラー。なかなか計算で出るような領域ではないので、もう本当に現地現物でやっていくところですね。

走りのパフォーマンスも相当高いようですね。

黒柳

発進加速性能はヴェルファイアの2.4ℓガソリンターボ(Z Premier)より優れています。また、床下にPHEV用の大容量バッテリーを配置したことで、車両の重心がHEVに対して35㎜下がっています。PHEVではこの動力性能や運動性能でできた余裕を、快適性の向上に使っています。

アルファードとヴェルファイアそれぞれの走りのキャラクターは、PHEVも今までどおりでしょうか。

黒柳

PHEVでは両車ともどちらかと言うとショーファーカー方向に振ったという意味で、性格は多少近づいています。それでも、やはりキャラクター的には走りのヴェルファイア、乗り心地のアルファードで、そこはPHEVも同じ方向性でやっています。

内外装のデザインについては、HEVやガソリン車からあえて変えていませんね。

PHEVには本杢加飾付きの本革ステアリングを採用
黒柳

高級車として十分に認知されていますから、差別化は大きくしていません。外観はアルミホイールとリヤのエンブレム。ヴェルファイアには専用色のプレシャスメタルを追加して。室内ではステアリングに本杢仕様を加えたのと、天井に上質なウルトラスエードを採用しています。天井があれだけ大きいクルマなので、替えると室内がとてもしっとりした落ち着きある雰囲気になりますね。

PHEVのルーフヘッドライニングにはウルトラスエードを採用

また、3列目シートは中央席をトレイに変更して、2名がさらにゆったり座れるようにしています。VIPの秘書の方が3列目にサッと乗り込み、手持ちのものを置いていただくようなシーンを想定しています。

PHEVの3列目は2人掛け。中央部に小物置きを採用してパーソナル感を演出

では、黒柳さんからPHEVを待っていたアルファード/ヴェルファイアのファンへメッセージを。

黒柳

アルファード/ヴェルファイアのよさをしっかり継承したうえで、今回のPHEVは本当にショーファーカーとしての快適性をいっそう高めたクルマです。運転するショーファーの方にも後席に乗車する方にも、きっとご満足いただけると思います。そういった方にはぜひ一度乗って、PHEVという新しい価値を得た大空間の魅力をいろいろなシーンで感じてほしいですね。

では、PHEVの開発についてもう少し詳しい話を菅間さんにうかがいます。菅間さんは前CEの吉岡憲一さんの右腕として現行アルファード/ヴェルファイアの企画・開発に携わり、今回も言わば番頭役として黒柳さんを支えました。

トヨタ自動車 製品企画 ZH 菅間 隆博
菅間

まず、PHEVモデル導入の狙いについて補足しますと、一番の目的はやはりカーボンニュートラルへの貢献です。環境に対して意識の高い企業や官公庁、個人ユーザーの方々に向けてPHEVミニバンを国内で初めて提案する意義は大きいと思っています。ドライバーが待機している時間を含めて、乗る方の移動のほとんどをエンジンがかからないゼロエミッションでまかなえます。

カーボンニュートラルに貢献しながら「快適な移動の幸せ」をユーザーにお届けできるわけですね。

菅間

ただ、アルファード/ヴェルファイアにPHEVを採用するには、やはりいろいろ難しいところがありました。まず、車両パッケージ。PHEVの充電器やバッテリーを車両に入れていくと、どうしてもスペース効率が悪くなっていくところがあって。でも、そこはスペース効率を落とさずにがんばろうということで、みんなで何とかやりきりました。床下の掘り込み収納が少し浅くなったのと、じつはよく見るとわかりますが、充電器の右側のトリムがHEVと形状が少し変わっていて、少し高くなっています。しかし、実際の使い勝手には影響ありません。充電器の設置についても、室内への水の侵入を気にする必要がある場所なので、その対応に苦労しました。

室内空間を犠牲にしないために、目に見えない部分にも開発担当者の工夫と努力が詰まっているんですね。

菅間

エンジンルーム内にはエンジンが止まっているときに電気でエアコンを作動させる水加熱ヒーターを入れています。現行アルファード/ヴェルファイアの開発では、プラットフォームの初期計画からある程度そういうレイアウトが計画されていました。しかし、実際には衝突安全基準の適合などで苦労はありましたね。スライドドア特有の側面衝突時の床下バッテリー保護についても同様です。

室内パッケージにほとんど影響がなければ、先代や現行型に乗っていらっしゃる方もそのまま乗り替えることができますね。

菅間

はい。そのうえで、PHEVによってショーファーカーとしての魅力を高めて、さらに上質な「快適な移動の幸せ」をお届けしたいと考えました。

じつは、その狙いは現行HEVのExecutive Loungeを踏まえたものでもありました。現在のHEVは静かで動力性能も十分にありますが、やはりエンジンのかかる頻度とか、エンジンがかかった時の音とか、そういうところは少し改善が必要だなと思っていました。乗り心地についても、アルファードHEVは路面からの当たりは柔らかいけどボディが動く感じ、収まりの悪さみたいなところが気になっていました。

アルファード Executive Lounge(PHEV・E-Four)。ボディカラーのプラチナホワイトパールマイカ〈089〉はメーカーオプション。オプション装着車。

発売後に、実際の市場環境でいろいろな道を走ってみると、「上屋(ボディ)が少し動きすぎる」というのは我々も感じたところで、発売から早い段階でリヤサスペンションの減衰力を含めた検討を始めました。

PHEVの開発にはそうした知見もフィードバックされているんですね。

菅間

そうなんです。ただPHEVの場合、サスペンションはHEVより車重が重くなったぶんバネを強化していますが、ショックアブソーバーの減衰力は逆に落としています。PHEVは重心が35㎜も低いのでロールの動きがもともと少なく、減衰力を高めて抑えつける必要がないんです。

低重心でボディバランスがよさそうですね。走りのポテンシャルも高そうです。

菅間

運転しても非常に安心して、気持ちよく走れます。(トヨタが造ったニュルブルクリンクと異名をとる)ここ下山テストコースのカントリー路はカーブもアップダウンもかなりありますが、ハンドルを切ってもブレーキをかけても車両の姿勢が安定していて、懐が深いんです。僕は現行アルファード/ヴェルファイアのPHEV開発で、最初に乗ったときウワッ!って思いました。凄くバランスがいいので。

ヴェルファイア Executive Lounge(PHEV・E-Four)。ボディカラーのプレシャスメタル〈1L5〉はメーカーオプション。オプション装着車。

ただ、その低重心による走りのポテンシャルを、特に後席の方への快適で上質な乗り心地に生かしていく。動力性能もパワーがあって豪快というのではなく、走りの余裕として。運転する方が後席の方へ気を配るという点についてもそうです。こうしたメリットから、ショーファーカーとPHEVの相性はとてもいいと思っています。

HEVのExecutive LoungeはFFも選べますが、PHEVでは4WDのみの設定です。

菅間

HEVよりも動力性能がかなりありますからね。後輪をモーターで駆動するE-Fourで、基本的にはHEVと同じユニットです。リヤへしっかり駆動力を配分しますし、舵を切ると(FF状態から)すぐ後輪に駆動力を伝えます。トルク配分も開発チームが自分たちで水準を決めて。強くしていくとFRっぽい動きなんですが、押し出し感が強くなる傾向もあって。どこがベストかというのを、配分をいろいろ試して決めているんですよ。

4WDというと今はまだ雪道という方が多いですが、(E-Fourの場合)舗装路でもコーナリング中に後ろから押してくれると走りの気持ちよさに直結します。そういう魅力もお客様にもっと伝えられるといいなと思っています。

車両安定性には、これもトヨタらしい空力処理の工夫もみられます。

菅間

床下やリヤバンパー下のアンダーカバーとか。実際に僕も社外で走ってテストしています。ちなみに伊勢湾岸道は風がけっこう強いんですが、アンダーカバーの有る無しでは横風を受ける影響度が全然違います。

では、菅間さんからも締めのメッセージをお願いします。

菅間

日本初のPHEVミニバンですが、特に“初”にこだわったわけではありません。もっと上質で乗り心地がよく快適なショーファーカーを世に出したい、その方法として選んだのがPHEVでした。HEVの開発でもそれなりにアイテムがあり、やりきったと思っていたところがありましたが、同じミニバンが PHEVでさらにこれだけ進化するんだなと、今回の開発で本当に実感したところです。ミニバンとPHEVの組み合わせで新しい可能性を知りました。言い過ぎかもしれませんが、新たな1ページが始まったみたいな、そういう感じを僕は受けています。

ただ、これができたのは、やはりベースとなるプラットフォームなどが良かったからだと思います。しっかりした土台にPHEVを組み合わせるととてもいいものになるし、僕らはもっと良くすることできるんじゃないかと。そして日本発祥のショーファーミニバンをさらに進化させていきたいですね。アルファード/ヴェルファイアのPHEVにぜひ乗ってみてください。