VELLFIRE

Gourmet

Terroir 愛と胃袋

都心を離れたから見つけ得た新たな境地。
“よそ者”のシェフが伝える、この土地のストーリー。

都心を離れたから見つけ得た新たな境地。“よそ者”のシェフが伝える、この土地のストーリー。

流行のレストランは賑わう都会のもの、フランス料理店は瀟洒な洋館や洗練されたビルの中。もしもそんな固定概念があるなら、感覚のアップデートが必要だ。八ヶ岳山麓の古民家のレストラン。そこで味わうことができるのは、東京から移住したシェフが、この土地から得た食材とインスピレーションで仕立てる料理。それはいわば、ひとりの料理人の“生き方”の結晶。人と同じではないけれど、いや同じではないからこそ、価値がある。個性を貫く車、ヴェルファイアに乗って、この車とのシンパシーを感じながら、山梨への道を辿る。

とあるレストランガイドの受賞店リストに、その名を見つけたのは先月のことだ。
『テロワール 愛と胃袋』。
一風変わった名だが、フランス料理店だという。場所は山梨県、八ケ岳の麓に広がる高原の一角。改装した古民家を舞台にした一軒家レストランだ。
どんな思いを込めた名なのだろう。どんなシェフが営んでいるのだろう。そしてどんな料理が味わえるのだろう。
日々湧き上がる好奇心の果て、初夏のある日、私はランチコースを予約し山梨へ向かう道へと、ヴェルファイアを走らせた。

高速道路を降りると、鮮やかな緑が目に眩しかった。
少し窓を開いてみると、新緑の高原の清々しさが車内に流れ込んでくる。木々の切れ間に時折、八ケ岳の威容が見えた。都心から2時間程度の距離だが、ずいぶんと遠くまで来たような気がする。ヴェルファイアを駆るドライブの高揚感が、これから待つランチへの期待感と混じり合い、胸が高鳴る。この先で、どんな出合いが待ち受けているのだろうか。

到着した『テロワール 愛と胃袋』は、想像していたよりずっと重厚な建物だった。どっしりと地に足がついている印象だ。この地の気候や風土とともに、長い年月ここに在り続けた結果としての、重々しい存在感を放っている。そんな建物の玄関口で、暖簾が風に揺れていた。

中に入ると、マダムがにこやかに出迎えてくれた。薄暗く、少し涼しいエントランスを抜けて案内された席は、燦々と陽光が降り注ぐ窓際。窓の外には青々と木々が茂る庭を望む。シェフの鈴木信作氏も挨拶に来てくれた。ディナー、ランチともに、平日1日1組、土日は2組限定。この日は、私のためだけのランチタイムだ。

いよいよコースの始まりだ。
と思っていると、シェフは厨房ではなく、庭へと出ていった。目で追っているとガーデンで草花を摘んでいるようだ。マダムが「お料理の食材の準備です」と教えてくれた。

思わず笑みがこぼれた。これから作る料理のために、眼の前で収穫をする。いわば最短距離のファーム・トゥ・テーブルだ。この地まで来た意味と価値を、料理を食べる前から実感できた。

そしてアミューズがやってきた。
マスカルポーネを合わせたタルトの上に、摘みたてのハーブと花。エビは近隣で養殖される淡水エビ、ガラスの器にはゼリーで寄せた鹿肉。ひと口サイズの3品の料理で、あっという間にこの店の虜になった。食材への理解やそれを活かす技術はもちろんだが、それ以上に料理に込められたストーリーが秀逸だ。盛り付け、器、マダムが伝えてくれる食材や調理の話。そのすべてに、この土地への愛情と敬意が潜んでいるように感じられたのだ。

続く料理も驚きの連続だった。
山菜とトマトの冷たいガスパチョは、ルバーブの爽やかな味わいを添えて山菜の新たな側面にスポットを当てている。サーモンのショーフロワは、ビーツのソースと八ケ岳のクリームチーズを合わせて。ともすると淡白になりがちな淡水魚に、複雑な味わいと旨みを加えている。デザートは地元の蜂蜜と庭のミントで仕立てた清涼感あるムース。コースの流れをしっかりと受け止めつつ、心地よい後味を生み出してくれた。

誤解を恐れずに言うと、決して高級な食材を使っているわけではない。しかし、食材にしっかりと向き合った上で丁寧に調理している。きっとシェフ自身が生産の現場や生産者の顔を知っているから、半端な調理では自分が許せないのだろう。地元素材を徹底的に吟味し、その持ち味を最大限に引き出す。そんな責任感を強く感じる料理だと思えた。そしてそれは高級ではなくとも、この上なく贅沢な料理だ。

食後にまたシェフがやってきた。
私はずっと気になっていた卓上のカードについて尋ねてみた。そこには料理に使用する食材生産者の名前のみならず、器やリネンや和紙の作家の名まで記されていた。

「この土地の魅力を発信していくのが僕の役割だと思っています」

鈴木シェフはそう言った。
聞けばシェフは長野県の出身で、山梨に縁があるわけではないという。しかし奇縁でこの地を知り、この地に惚れ込み、ここで店を開くことになった。ならば自分が惚れた地の魅力を、広く知らしめることを自身の役割としようと決めたのだ。
シェフはさらりと話すが、そこにはきっといくつもの困難があったことだろう。土地に縁のない、いわば“よそ者”が土地に根を張り、レストランを開き、その地の魅力を発信する。家族とともに移住し、ここを家族の故郷にする。その勇気ある決断に、尊敬の念を覚えた。

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興味の尽きない私は、もう少しシェフの話を聞かせてもらった。
鈴木シェフは15歳で家を出て、料理の道に進んだという。最初は和食の修業をしていたが、23歳の頃に出合ったフランス料理の鬼才・植木将仁氏の料理に感銘を受けて直談判の末に師事。スーシェフを任された後、さらに日本各地の郷土料理を扱う店での修業を経て独立し、東京・三軒茶屋にビストロを開いた。しかしそこはまだ、鈴木シェフの旅の終着点ではなかった。

「東京で忙しく働いているうちに、ふと思ったんです。店で使う牛は放牧されているのに、僕たちは放牧されていない。それで地方に目を向け始めました」

そして偶然見つけた山梨県北杜市の古民家を改装し、現在に至る。
その挑戦と決断の連続のような生き方に驚く私に、シェフは言った。

「何も特別なことはしていません。先輩方の姿を見て、勉強させてもらっているだけですから」

それは謙遜ではなく、本心に聞こえた。
若くして修業をはじめ、まったく畑違いのフレンチの道に進み、都心に自らの店を開き、そして未知なる土地に新天地を求めた。山菜やキノコを探して山に入ることもある。生産者とともに畑仕事に汗を流すこともある。猟銃免許を取得し、獣を追った経験もある。現在は宿泊施設やカフェも作り、この地をさらに盛り上げている。しかし鈴木シェフは、それが特別だとは感じていないのだ。

変わったこと、前例のないことだけが優れているのではない。ただ前だけを見つめ、日々を全力で取り組む。やがていつしか自分の後ろに道ができている。そんな生き方もまた冒険なのだ。

帰り道、また東京まで。
ヴェルファイアのハンドルを握りながら、一日を振り返る。山道を駆ける力強いトルクが、自らの信念と直感に従い、己の道を進む鈴木シェフの生き方に重なった。偶然にも鈴木シェフの愛車もまたヴェルファイアだった。奇縁に結ばれ、車に導かれ、私はこのレストランに出合えたのかもしれない。

そろそろ夕方の渋滞がはじまる頃だ。しかし心身ともに満たされた気分の私は、焦ることなく、ゆっくりとアクセルを踏み込む。高原のフランス料理店で出合った心地よい余韻に少しでも長く浸れるように。

私は別れ際に聞いたシェフの言葉を思い出していた。

「店名は“愛は胃袋をとおってやってくる”というヨーロッパのことわざから取りました。食を通して愛が育まれたら素敵ですよね」

そのウィットと情愛に満ちた店の名は、シェフの型にとらわれない、挑戦と決断を続ける生き様にぴったりだ。

Feature

  • TNGA<sup>※1</sup>プラットフォーム/高剛性ボディ

    TNGA※1プラットフォーム/高剛性ボディ

    大空間デザインと快適な走りを支えるボディ。
    TNGAの新プラットフォームをヴェルファイアに最適化。ロッカーストレート構造に床下Vブレースを追加したほか、ボディ骨格に2種類の構造用接着剤を最適塗布することでボディの変形を抑制し、優れた操縦安定性と不快なシート振動の低減を実現。

    ※1. TNGA:Toyota New Global Architecture

  • 2.4L T24A-FTS ターボエンジン

    2.4L T24A-FTS ターボエンジン

    V6を超える力強さを。
    高い加速応答性と十分な駆動力を持ち、ペダル操作に対して気持ちよく伸びる2.4L直列4気筒ターボエンジン。TNGAエンジン技術をベースに、高効率ツインスクロールターボ、センター直噴システム、DCモーター制御の可変冷却システムを採用。低燃費でありながらV6エンジンを上回る高トルクを生かしたダイナミックな走りを実現。