世界127の国・地域を旅して、その地の美食を味わい、発信し続ける浜田岳文氏。この世界的美食家の心にはいつも、受け継がれる文化、伝統への敬意が宿っていた。「伝統とは、いわばものごとの芯」と、真摯に料理に向き合う浜田氏。トヨタ最高級ミニバンとしての価値を継承しながら、進化し続ける車・アルファードに自身の思いを重ねながら、この日は調布の名イタリアン『ドンブラボー』を目指した。
米国の名門・イェール大学を卒業後、パリ留学を経て外資系投資銀行と投資ファンドにて世界を動かす金融業に従事。帰国後は、その経験と学生時代から始めた食べ歩きの知識を武器に株式会社アクセス・オール・エリアを起業し、さまざまな企業のアドバイザーやスタートアップ投資を手掛ける――。
華々しい経歴を持ち、現在もビジネスマンとして第一線で活躍する浜田岳文氏。しかし一般的には“フーディの浜田岳文氏”といった方が思い当たるかもしれません。
国内外のさまざまなメディアで世界のレストラン情報を発信するほか、東京23区と政令指定都市以外の名店を紹介する話題のレストランセレクション「Destination Restaurants」の選考員を担当。さらに国際的ダイニングガイド「OAD Top Restaurants」のレビュアーランキングでは2018年度から5年連続第1位を獲得。この客観的指標を基準にするならば、“世界一のフーディ”と言っても過言ではない人物です。
アメリカ・イェール大学に留学中、学生寮の食事が口に合わなかったことから美食に目覚めたという浜田氏。学生時代はニューヨークを中心に食べ歩き、卒業後はさらに美食を追求するためにフランス・パリへ。そうして美食と向き合ううちに、その本質に思いが向いたのでしょう。現在、浜田氏が発信するレストランレポートは、単に“食を楽しむ”という以上の真摯で誠実な姿勢が宿ります。
「僕にとって食事は、コンサートや観劇と同じ。才能あふれる方によるクリエイティブな作品を享受したいという思いです」
という浜田さんは、現在でも1年のうち5ヶ月を海外、3ヶ月を東京、4ヶ月を地方で食べ歩くといいます。食への思い、旅への思い、文化への思い。
アルファードに乗って調布・国領のイタリアン『ドンブラボー』に向かいながら、浜田氏の心の内を、もう少し伺ってみましょう。
この日の目的地は調布『ドンブラボー』。東京郊外に構える気鋭のイタリアンレストランで、浜田氏が目下、注目する一軒です。浜田氏を乗せて都心を出発したアルファードは調布を目指して走ります。
「やっぱり快適ですね」
2列目のシートに体を預け、そう話す浜田氏。実は浜田氏にとってアルファードは「この数年、タクシーを除く都内移動の大半はアルファードでした」というほど乗り慣れた車です。新たに追加された機能を興味深そうに試しながらも、慣れ親しんだ乗り心地に身を委ねます。
「この電動シェードのような新機能がありつつ、本質ともいえるおもてなしの心は、伝統としてしっかり受け継がれている。そしてそのおもてなしの心を追求した先にある機能美も併せ持っています。総じて、乗っていて嬉しい車ですね」
浜田氏の言う“受け継がれる伝統”とは、ものづくりにおける芯の部分。自身のライフワークである食においても、それは非常に大切なことだといいます。
「食の世界において、時折、伝統が軽視されてしまうこともあります。たとえば日本のフレンチやイタリアンでは日本人の味覚に合わせることに特化し、その歴史的文脈を無視してしまう場合もある。しかし何か新しいものを生み出すとき、そこに伝統という根がなければ浮わついた、軽いものになってしまいます。どんな業界であれ、伝統に敬意を払い、その基礎を固めてはじめて、次の伝統になり得るようなものができあがるのだと思います」
進化を遂げながら決して変わらぬ芯を持つアルファードに、食への思いを重ねるように話す浜田氏。
甲州街道を通り、窓外の景色に緑が目立ちはじめた頃、車は『ドンブラボー』に到着しました。
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出迎える『ドンブラボー』の平雅一シェフと親しげな挨拶を交わし、カウンター席に座る浜田氏。二人の間で交わされるのはやはり料理の話です。世界127カ国・地域を巡ってきた浜田氏の経験は、シェフにとっても興味深いのでしょう。ときに意見を交わし、ときに浜田氏がアドバイスをしながら、二人の会話は続きました。
「たとえばこのピザの生地は、ナポリの伝統を理解した上で、そこに独自のアレンジを加えています。羊の料理には中東風の付け合せを添えていますね。自身で体験してきたことを深く考えた上で、皿の上で実践する。芯のあるイタリアンでありながら新たな発見があるイノベーティブな料理が、平シェフらしさです」と『ドンブラボー』を評した浜田氏。
そしてそれこそが、浜田氏が旅を続ける理由です。
「僕はゼロから1を作れる人間ではありません。だからこそ、クリエイティブな料理に心惹かれるのだと思います。驚き、発見、理解、腑に落ちる感覚。そういうものを求めて旅に出たり、レストランを訪れたりするのでしょうね」
浜田氏にとって、旅と美食はライフワーク。本来は、それを仕事にするつもりもなかったといいます。それでもレストラン情報の発信を続ける理由を問うと、浜田氏はこう答えました。
「食べ歩きをするなかで、いろいろな問題に直面しました。サステナビリティの問題、人材不足、あるいはさまざまな要因により正統な評価を得ていないレストランなど。食文化という伝統は、一度途切れてしまったら再興するのは難しい。自分の好きなレストランがなくなってしまわないためにも、僕の発信が一助となれば良いという思いです」
浜田氏を突き動かすのは、食という文化へのリスペクト。自身を「クリエイティブを享受する側」という浜田氏だからこそできる、観察や分析、そして発信。誠実に料理と向き合い、その本質を見極めるこの美食家の存在が、食文化の未来に大きく貢献していることは疑いようもありません。
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