世界で注目される企業
ヘラルボニーとは?
知 的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、多様な社会実験を通じて、「障害」のイメージの変容と、福祉を起点とした新たな文化の創造を目指している株式会社ヘラルボニー。同社は、重度の知的障害のある兄をもつ双子の松田文登氏と崇弥氏が設立した福祉実験カンパニーだ。その活動は多岐に渡り、彼らが創り出す新しいムーブメントに、心躍らされている人も多いことだろう。2019年には、両代表が日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」にも選出され、世界からも注目を集めている。
そんな文登氏と崇弥氏は岩手県に生まれ、県庁所在地である盛岡市に本社を構えている。盛岡在住の文登氏を訪ねると、同社がアートプロデュースを手掛けた〈HOTEL MAZARIUM(マザリウム)〉で迎えてくれた。
盛岡の新たなランドマーク
HOTEL MAZARIUM
(マザリウム)
盛 岡の中心地にある盛岡バスセンターのリニューアルを機に誕生したHOTEL MAZARIUM。その外壁を彩るのもヘラルボニーのアートだ。
34ある客室のうち8部屋は、「ヘラルボニーアートルーム」と呼ばれ、ヘラルボニーが始まるきっかけのひとつともなった、岩手県花巻市〈るんびにい美術館〉に在籍する作家の作品で彩られている。
「障害のある方を支援するためではなく、作家として、作品として好きだと思うお部屋に泊まってもらえる形を作れたらうれしいと思っています」と文登氏。宿泊費のうち1泊500円が作家に支払われる仕組みで、この日は3つの部屋を案内してくれた。
小林覚氏は、字と字をつなげるという強烈なこだわりをもつ作家。カーテンに使われている『数字』という作品にはいろいろな数字を、ベッドカバーには作品タイトルでもあるLet it beという文字を見つけることができる。
松田
彼らは、アートを描こうとしているというよりは、本能のままに、好きなことを続けています。私たちがこう描いたら売れるのではないかという価値観を超えている状態です。
それを、『アート』という言葉を使わせてもらうことによって、社会との接点になったり、接点が生まれることによって、地域で生きやすくなっていくと考えているんです
松田 福祉という言葉のもとでは、作家として素晴らしい作品と、もしかしたら作品として難しい作家の作品も並列に並べてしまう状態が生まれがちです。会社を立ち上げたきっかけである自分の兄も、『かわいそう』と言われていました。それは、生産性が求められる世の中において、“支援”というものが前提になった時に生まれる感情だと思うんです。CSR、SDGs、社会的な意義が紐づかないと使われないという価値観ではなく、障害のある方達の作品が、より良い形で社会に届いていくということが、彼らの可能性や選択肢を広げていくことだと考えています
同社とアートライセンス契約を結びたいという作家の問い合わせは絶えないというが、契約が成立するのはひと握りだ。
松田 ちゃんと憧れを作っていく、採択されるということが喜びに変わる状態を作っていくことにすごく意味があると思っているので、本当に作品として美しいものを選定することを大切にしています
世界が注目する 盛岡の街を巡る
HOTEL
MAZARIUMでお話をうかがった後、プリウスで盛岡の街なかを巡った。活躍の場を全国・世界へ広げてもなお、同社が拠点を置き続ける街の魅力を体感してみたかったからだ。
盛岡市は今年、ニューヨーク・タイムズ紙「2023年に行くべき52カ所」にも選出され、話題となっている。江戸時代、南部藩の城があった〈盛岡城跡公園〉を中心に、〈岩手銀行赤レンガ館〉、〈岩手県公会堂〉、〈もりおか啄木・賢治青春館(旧第九十銀行)〉、〈南昌荘〉などの歴史的建造物、「鉈屋町」や「紺屋町」などの古い街並みの風景が残された美しい街だ。
岩手銀行赤レンガ館
国の伝統的工芸品「南部鉄器」や、「南部紫根染」、「南部古代型染」など、藩政時代から続く工房も息づき、『注文の多い料理店(宮沢賢治著)』を出版し、後に民藝の品物を主に扱う工芸店となった「光原社」でも知られる。
「バランス感覚の取れた、住めば住むほど大好きになっちゃう街」と文登氏もその魅力を話す。
「歴史的な景観や文化がちゃんと残っている、マイクロシティであることも確かですし、規模の大きさを追っていないお店が多いところがすごく魅力なのではないかとも思います。特にHOTEL
MAZARIUMのある河南地区は、どちらかというと地元資本で成り立っている。プライドをもって活動している人たちが多く、私も刺激を受けています」。
盛岡八幡宮
ずっとPRIUSを愛用して来たという文登氏は、社用車でもあるPRIUSで県外からのお客様を案内することも多いという。HOTEL MAZARIUMはもちろん、同社が運営する〈へラルボニーギャラリー〉、旗艦店である〈HERALBONY カワトク店〉はじめ、光原社や、同社がコラボレーションする〈Nagasawa Coffee〉、鉈屋町や紺屋町界隈などへドライブするそうだ。
夕顔瀬橋
市内を流れる北上川から望む岩手山も盛岡の象徴的な景色だ。「夕顔瀬橋」を渡ると、光原社のある材木町がある。
岩手をへラルボニーの聖地に
プ リウスで盛岡の街をドライブした後は、ヘラルボニーギャラリー(開廊日:土・日曜・祝日)にお邪魔し、文登氏に岩手への想いを聞いた。「事業の最初の一歩目は岩手からスタートしたい」と2019年にオープンしたギャラリーで、毎期1人のアーティストを紹介する個展を開催している。
松田 実際アートを購入してくださるお客様は県外の人が大半です。けれども、ギャラリーが岩手という地で成立していること、県外から集客できる力があるということも見せていきたいと思っています。流行り廃りではなく、ちゃんと文化として残り続けていくと考えた時に、収益の大きさ以上に大事なものがあると考えています
同社が岩手という土地に重きを置く理由のひとつには、現在の活動が、同県・花巻市の社会福祉法人・るんびにい美術館から始まったことを大切にしたいという想いがある。文登氏は大学時代から起業を志し、当初は福祉事業所を作ることを考えていた。しかし、24歳で同館に出会ったことで、現在の活動につながるプロジェクトをスタートさせたという。
松田 点や円を描き続ける、私であれば1分2分で飽きてしまうような行為を、2時間でも3時間でも、本人が続けたいと思って続けていく作家さんたち。見る人によっては意味のない行為かもしれないですが、捉え方によっては才能になり、むしろ新たな価値になっていくのではないかと感じました。彼らの作品を、非営利ではなく、株式として、新たな形で社会に提示していくことが概念を変えていくことにつながっていくはず。それを信じて、今も活動を続けています。双子でヒップホップが好きで、地元をちゃんとレップ(represent)していくことに近いような、地方ラッパーが、自分のアイデンティティはどこにあって、なぜそこを大切にしているかを言語化するように、始めた時のスタンスを忘れたくないという気持ちもあるんです。
ヘラルボニーの新たな挑戦
そんなはじまりの場所・岩手で、街を巻き込んだヘラルボニーの新たなチャレンジが、次々とスタートする。 2023年10月からは、釜石線(花巻駅~釜石駅間)、東北本線(花巻駅~盛岡駅間)をヘラルボニーのアート作品がラッピングされた列車が走る。
松田 岩手は、訪れることによって、ヘラルボニーのファンになる深度を高める役割も担っていると考えています。ですから、今後は観光にも力を入れていきたい。みなさんが岩手と聞いてイメージする、〈小岩井農場〉とか『宮沢賢治』とかいろいろある中のひとつに、ヘラルボニーもある状態を作っていこうと取り組んでいるところです。
ラッピング列車以外にも今後、盛岡で大きなチャレンジが続くということで、松田氏は「がんばらなきゃ」と自身を奮い立たせている。そんな松田氏の姿や、次々と新しい世界を見せてくれるヘラルボニーの活動にはワクワクさせられるばかりだ。
「美しい」「かっこいい」から始まるソーシャルグッド
松田 私たちは、市場ではなく、“思想”を拡張する、株式会社でありながら運動体です。その思想は、『差別偏見をするな!』と声を大にするのではなく、『美しい』とか『かっこいい』と思われる作品を通して、グラデーション的に人々の意識を変えていく。そういう価値変革を促していく会社だと思っています。障害のある方との接点がなかった人たちが、ヘラルボニーが入り口になることによって意識を変えていく。そのための飲食店があってもいいし、街があってもいいかもしれない、いろんな異彩に着目していく会社になっていきたいと思っています
「ヘラルボニーの聖地」としての要素も加わり、ますます魅力的になっていく街・盛岡と、新たな価値を創り出していくヘラルボニーの姿は、新しいライフスタイルを提案するプリウスとも共鳴する。文登氏も、「もともとソーシャルグッドなアイコンであったプリウスが、かっこよく、スタイリッシュに進化していくんですね」と、新型プリウスへの期待を話してくれた。歴史ある風景を重んじながらも、飛躍していくヘラルボニーの世界を体感できる盛岡は、フルモデルチェンジしたプリウスがよく似合う街だった。