PRIUS JOURNAL for New People

NEW SCAPE JOURNEY 瀬戸内の多島美と 現代建築の 美しい融合 下瀬美術館で アートに触れる

2023年3月、広島県大竹市に美術館とレストラン、ヴィラが一体となった複合施設「SIMOSE」がオープンした。設計を手がけたのは、世界的建築家の坂 茂氏。コレクション、建築はもちろん、食や宿泊までも丸ごとアートな体験ができる芸術空間は、まさに瀬戸内の桃源郷ともいえるだろう。瀬戸内海を望むドライブルートをプリウスで軽快に飛ばし、自然と現代建築が融合する新スポットの魅力を、坂氏の言葉とともに紹介しよう。

2023.10.19公開

今回の New People

建築家 坂 茂さん

1957年東京生まれ。1984年クーパー・ユニオン建築学部卒業(ニューヨーク)。1982 - 1983年磯崎新アトリエに勤務。1985年に坂茂建築設計を設立。1995年から国連難⺠⾼等弁務官事務所(UNHCR)コンサルタント、同時にNGO Voluntary Architectsʼ Network (VAN)設⽴。2014年にフランス芸術文化勲章、プリツカー建築賞、2017年に紫綬褒章など受賞。

山、海、工業地帯。
さまざまな表情の瀬戸内エリアを抜けて

島県最西端に位置する大竹市は、広島市中心部から車で約40分のワンデイトリップに最適な場所だ。海と山の美しい景観、かつ走行しやすいドライブルートを求め、免許を手にして初めての運転が、同エリアだという広島県民も少なくないのだという。その、車だから行ける場所というドライブの醍醐味を満たしてくれる立地に「SIMOSE」は誕生。アートや建築ラバーの心を捕え、いま、瀬戸内エリアで最も話題の場所といっても過言ではないだろう。

瀬戸内のドライブというと、海に面した絶景ルートを想像する人も多いだろうが、実にその表情はさまざまだ。都市部もあれば、山間部もあり、造船業で栄えた地域では工場の無骨な風景が続く。
 この場所に本当にアートヴィラがあるのだろうかと不思議に思いながら走行していくと、突如として「SIMOSE」の文字が現れる。

非日常空間に向かっているような、ドキドキ感を抱えながらストロークへと車を進める。まだ到着していないのに、美しく茂った緑やチラリと見える美術館の姿に心が躍るだろう。

「SIMOSE」とは?

島市に本社を構える、建材資材の総合メーカー・丸井産業の創業60周年を機に構想が始まった「SIMOSE」。その中核を成す美術館は、これまで丸井産業の創業家・下瀬家が収集してきたエミール・ガレやマティスなどの西洋作品、京都の丸平大木人形店の京人形や雛人形をはじめとする日本近代美術など、約500点を所蔵している。

「アートの中でアートを観る。」をコンセプトとし、展示されている美術品だけでなく、坂 茂氏設計の建築そのものも存分に楽しめるのが、唯一無二と称される由縁だ。

4.6haの広大な敷地には、美術館、レストラン、庭園、10棟のヴィラが建つ。元々は、広島市内の土地に美術館のみを建てる構想だったが、予定が変更となり、現在の場所へと計画が移ったそうだ。

この広大な土地は、美術館だけでは使いきれません。 離れた場所から人を呼ぶために、オーベルジュスタイルにしましょうと僕からオーナーに提案をしました。泊まって、美術品を楽しめ、料理を味わえ、庭も散策できる。この企画を実現できるチャンスはなかなかないと思ったんです

機運が重なり生まれた「SIMOSE」には、訪れた者の五感をくすぐる、さまざまな仕掛けが施されている。海岸線と平行に並ぶ、エントランス棟、企画展示棟、管理棟を繋ぐ、渡り廊下を含めた全外壁が、長さ180m、高さ8.5mのミラーガラス・スクリーンで一体化され、圧倒的な存在感を放っている。
 ミラーには周囲の空や緑が映り込み、その美しさを増幅させて私たちに見せてくれるのだ。

通常、美術館は、ホワイトキューブやブラックボックスという閉鎖的な箱を求められる傾向があります。この素晴らしい景観に大きなボリュームの建物は合わないと考え、各要素を分け、ミラーガラスの通路を配置しました。よって、背後のショッピングセンターを隠しつつ、美しい瀬戸内の景色を倍増させています。瀬戸内海に350m近く面している土地は、非常に稀です。この素晴らしい土地を、どう生かすかをまず考えました

レストランは宿泊せずとも利用可能だ。昼夜ともにコース仕立てのフレンチを、海辺の景色を見ながら堪能しよう。地元の食材にフォーカスし、瀬戸内の景色を映し出した料理は、これまで味わったことのない新鮮な世界へと連れだしてくれる。
 庭の散策も、同施設で外せない楽しみのひとつだ。コレクションの中で重要な位置を占めるガレの作品に登場する草花250種が植えられた「エミール・ガレの庭」は、四季折々の様相を見せ、まるで絵画の中に迷い込んだ感覚をおぼえるだろう。

エントランス棟には、放射線状に伸びる檜の集成材を用いた梁と2本の巨大な柱。大木をもとに、生命力で包み込むような大らかさで包まれる空間には、ショップとカフェが併設されている。

中からは瀬戸内海を一望でき、ゆっくり穏やかに流れる時間を堪能できる。好天日のテラス席で飲む一杯の珈琲は、一日をより豊かにしてくれることを約束してくれる。ガラスをふんだんに取り入れた館内は、時間や天候によって表情が変わる。「アートの中でアートを見る。」という体験も、次の瞬間にはもう違う視点となっていることに気づくだろう。

ガレの作品からインスパイアされたという、色とりどりのカラーガラスに覆われた水盤に浮かぶ8つの「可動展示室」は見どころのひとつ。広島の造船技術を利用し、水の浮力で動かせる可動式のボックスは、配置の入れ替えが可能だという。

訪れるタイミングや展示の内容によって、ボックスの配置パターンを変えられます。僕は常に、その土地ならではの材料や景観、つまりコンテクストを生かしたいと考えています。 秀でた広島の造船技術を用い、ここでしかできないことをやりたかったんです

美術館の屋上にある「望洋テラス」からは、宮島や江田島をはじめとした、瀬戸内海の多島美と建築が魅せる見事なランドスケープを堪能できる。長い時間が育んできた瀬戸内の景色と現代建築の美が融合した独特の趣を、潮風にあたりながら存分に享受したい。

ランドスケープと一体となる体験を

と知を研ぎ澄ました非日常が、心に静穏をもたらしてくれる「SIMOSE」。改めて坂氏に、その魅力を伺った。 「通常は、建物をつくって、その隙間をデザインしていきます。しかしここは、敷地が巨大なので、ランドスケープの中にギャラリーが点在しています。こんな場所は、日本中探しても他にありません。それに、海の景観を利用した素晴らしい宿泊施設も、日本にはほとんどありません。文化施設と融合している点でも、同じことが言えます。美術館も含めて全体が建築博物館的な施設は、世界的に見ても大変希少です」

また、完成したばかりの「SIMOSE」の今後にも大きな期待を寄せているという。

今まで通りすぎ地点だった大竹市ですが、皆さんに『SIMOSE』を利用していただき、1日でも2日でも泊まっていただく、観光としての新ルートができるといいですね。加えて僕は、美術館は美術館愛好家だけのものではないと思っています。もっと周囲の環境に開いた文化施設であるべきです。だからこそ『SIMOSE』は、閉鎖的ではなく、ランドスケープと一体になって、全てが一度に楽しめる場所を目指して作りました。瀬戸内海全体の魅力を作り出す、1つの拠点になればいいなと思っています

旅やお出かけを楽しむためには、行く先の吟味が必要だ。「ランドスケープと一体になること」で、その場所が指し示す文化や未来を体感することができるだろう。 「SIMOSE」もプリウスも同じく持つ、未来形の美意識や価値観。それらに触れることで、本物の豊かさとは何かに気付くヒントをもらえるはずだ。

この記事のプリウスはこちら
車種名: プリウス Z(プラグインハイブリッド)
VIEW WEBSITE
下瀬美術館

所在地:

〒739-0622 広島県大竹市晴海2丁目10−50

電話:

0827-94-4000

下瀬美術館公式サイト SIMOSE公式サイト