海の京都・伊根町へ
京 都から車で約2時間。ドライブスポットとして名高い京丹後エリアまで、プリウスでやってきた。その目的地は、「伊根の舟屋」で知られる伊根町だ。
海際に立ち並ぶ家々。まるで海に浮かんでいるようにも見えるこの建屋は「舟屋」と呼ばれ、伊根湾の沿岸にはこういった舟屋が馬蹄形に約5kmにわたり230軒ほど、軒(のき)を連ねている。
舟屋とは、漁師が船を海から引き上げて、風雨や虫から守るために建てられた施設。かつては木造船で漁をしていたため、船を乾かす必要があったのだという。家のような形をしているが実際は「離れ」のようなものだそう。海とは反対側の道を1本挟んだ山側に母屋となる家を持っており、そちらを居住用にしている家が多いようだ。
伊根町が位置するのは、丹後半島の北端。伊根湾は湾口が南側に向いていることから日本海の荒波の影響が少なく、また湾口に「青島」という小島が天然の防波堤のようにあることから波が穏やか。干満差も少ないことから、舟屋という建物群が形成されたという。
海と山の狭小な土地に立地している独特の風情と歴史的な景観は全国的にも珍しく、近年のSNS人気も相まって世界中から観光客を呼び寄せている。
京都市内からは車で約2時間、大阪からなら約2時間半。京阪神からは天橋立などを含む京丹後エリアをめぐるドライブコースとしてもおすすめだ。
約6年前、當間一弘氏は、千葉県から伊根町に移住してきた。詳しい移住のストーリーは後編で詳しく聞くとして、まずは伊根町を案内してもらう。
現在では舟屋を改装したカフェや、海の暮らしを学べるような展示が行われている舟屋もあり、舟屋群のエリアをのんびり散歩するのが定番のコース。母屋と舟屋の間に通っている1本道が、伊根のメインとなる通りだ。
観光スポットが点在しているものの、基本的には漁業を中心とした、海の暮らしを今も続ける民家がほとんど。ほとんどが私有地であるため、写真におさめる時は路上から海だけにするなど配慮が必要だが、時の流れがゆっくりで穏やかな街並みに、すっかり心癒されるだろう。家々の隙間からは、伊根湾の穏やかなブルーが垣間見える。
また、歩いて眺めるのも美しいが、舟屋に海側からアプローチするのもおすすめ。「海上タクシー」と呼ばれるボートでは、伊根の歴史からちょっとしたトリビアまで解説をしてもらいながら30分弱伊根湾を周遊することができる。
街側から見る舟屋と、海側から近づいて見る舟屋はまた趣が違う。まるで映画の1シーンのような光景を目にすることができるだろう。
ちなみに、観光地定番の「カモメの餌やり」も体験できるので老若男女で楽しめること間違いなしだ。
少し移動するだけで変わる、景観の美しさ
ほ とんどの観光客は、舟屋群を眺め、写真を撮り、おいしい海鮮に舌鼓を打つようだが、當間氏のお気に入りは、舟屋群のエリアから車を10分ほど走らせた「新井(にい)の棚田」だ。
車窓からは、舟屋エリアとは少し違った風景が広がり、山の中を走り抜けていく。 「本当にこっちで合っているだろうか?」と、少々不安になるくらい、ぐんぐん車を走らせると、突如視界が開けて、青い空と海と田園風景が広がる場所に出る。
伊根町の東側は、急斜面が海に向かって続いておりその急斜面を使ったのがこの「新井の棚田」だ。日本海を見渡す絶景の棚田であり、現在は休耕田となっているものの、地元の有志の方々によって綺麗に手入れされている。
舟屋群エリアの「海と建屋」でなく、日本海と美しい田園のコントラストが、また違った伊根の魅力を見せてくれるのだ。棚田を望む高台は道幅が広くなっており、少しの時間であれば停車してその景色を楽しむことができるようになっている。
當 新井の集落にも舟屋があるのですが、伊根の中心地に比べてもっと素朴で、より“暮らし”が感じられます。観光客が少ないエリアでもあるので、よりゆったりとした時間の流れが感じられ、伊根の本来の美しさや、昔から続く海と里山の一体化した暮らしが垣間見えて、僕がすごく好きな場所なんですよ
伊根の中心地から少し移動するだけで、景観が変わる。暮らしていても飽きないというその奇跡のような風景こそが、伊根の魅力なのだと當間氏は語る。
當 僕の移住ライフは『舟屋』に一目惚れしたところからスタートしているのですが、ここでの暮らしの最大の魅力はなんといっても景観。これは何年暮らしていても変わりないですね。天気や時間帯、季節によって表情が変わる海と山。伊根町の外に出る際に必ず通る国道は、海岸に沿って長く続くのですが、この道が僕は大好きで、出かけるときも、帰ってくるときもとても癒されます。“自然の美しさが側にある暮らし”って、知らず知らずのうちに身体にもいい影響があるんじゃないかと思ってます
舟屋で名高い伊根町の美しさ。少し場所を変えるだけで表情が変わる、自然景観が為せる穏やかな美しさをゆっくり堪能できる伊根。その魅力をたっぷり堪能したところで、この街に魅せられた當間氏のストーリーを後半ではお届けしよう。