PRIUS JOURNAL for New People

EMOTIONAL GOOD TALK 日本の伝統技術 金継ぎを日常ごとに。 起業家・俣野由季が目指す アップサイクルの世界

ここに美しい器がある。表面に金色の筋が小川のように流れている。一度割れ、「金継ぎ(きんつぎ)」という伝統技法で再生したものだ。俣野由季さんは、若くして金継ぎ技術を習得し、金継ぎの魅力を世に広めるべく活動する第一人者だ。

今回の New People

株式会社つぐつぐ 代表取締役 俣野 由季さん

国内大手製薬会社で営業を4年務めた後、カナダ・ドイツで5年間留学。カナダでトップの名門校McGill大学の週末MBAコースに進学。MBAの講義中に知った金継ぎの魅力に惹かれ、事業化。「つぐつぐ」を立ち上げ、修理のほか、体験教室、キット販売を手掛ける。

壊れた陶器を“アップサイクル”する
日本発祥「金継ぎ」の魅力

こ数年、金継ぎはブームと呼べるほどの人気を博している。国内の愛好家はもちろん、米国を中心とした海外でも“KINTSUGI“として、その”アップサイクル“の哲学が注目されている。

俣野 金継ぎは、日本の室町時代、15世紀に生まれました。当時、高級な器といえば中国から輸入された磁器で、貴族や上級武士に珍重されていました。平重盛から足利義政の時代にかけて伝承された器にヒビが入ってしまった際、より美しく直そうと中国に送り返したところ、金具で留められて修理されて戻ってきた。これでは美しくないと生み出されたのが、日本独自の金継ぎの手法です。

それ以来、基本的な技法は変わっていないところを見ると、金継ぎは当時から完成された技術。以来700年以上の長きにわたり受け継がれてきたのだ。ひびも割れも破損部を漆で塗り、金粉を施すことで個性が生まれ、唯一の作品となる。

俣野 東日本大震災を経て、思い入れのあるものを何とか直したいという人が増え、コロナ禍になるとさらに金継ぎを始めたいという人が増えました。ひとつとして同じ形はないひびや割れを、世界で唯一の作品に生まれ変わらせることが魅力。とはいえ、金継ぎで再生された器は耐久性は壊れる前より劣りますし、電子レンジでは使えなくなります。それでも、美術的な価値を求める人や、自分の手で再生したいという人が、金継ぎを選んでいるんです。

こう語るように、金継ぎという伝統技術は、単なるリサイクルではなく、自分の個性を発揮できる趣味性や芸術性にその本質がある。道具を揃え、きちんとした手順を踏めば、素人でもそれなりのものができるのだ。

俣野 実は割れをなぞる作業なので、絵心はいらないんです。恣意的な要素が入ると、逆にかっこ悪い。割れたところを細い線でなぞるのが一番だと思っています。

手先に自信がなければ、俣野さんのようなプロに依頼するのもいい。簡単なひび割れではなく、形をとどめないほど飛散している陶器でも、ある程度は再生させることが出来る。ただし、俣野さんが運営する会社「つぐつぐ」への依頼は現在、7カ月待ちとのこと。それでも依頼は引きも切らないというのだから、その人気がうかがい知れる。

グローバルな視点から注目した金継ぎの可能性

継ぎの魅力をいきいきと語る俣野さんだが、その道を志したのは社会人を経てから。伝統技術は代々受け継がれたり、若い頃に弟子入りという形で学んだりするのが一般的だが、俣野さんの場合、少し違う。

俣野 国内製薬会社でMR(医療営業)を4年間やって、カナダで英語を学んでドイツに行って、帰国して大手製薬会社に入れると思っていたら入れなくて。挫折を経験しました。そこで、製薬会社で働きながらMBAを取得することにしたんです。

金継ぎの存在を知ったのはMBA在学中。意外にもその魅力を教えてくれたのはカナダの教授だったという。日本が世界に誇る伝統技術だが、日本人である自分も知らないという事実は興味深く、MBAの卒業課題である事業計画書のテーマに定めた。

俣野 結果的に卒業制作が仕事になったようなものでした。仕事を続けながら、副業で金継ぎキットの販売を始めたいと会社に直談判したところ、思いもよらずOKが出て、親もあたたかく応援してくれた。これらのことが奇跡だった気がしています。

つぐつぐは順調に成長し、月間の販売数は50個から70個とどんどん増え、「なんとか食べていけるかも」という実感を得て、独立を決意。2020年のことだ。

俣野 金継ぎなら、自分にしかない強みが活かせるし、誰かと比べられることもありません。それに、反響が実感できる。みなさん、すごく感動していただけます。お客さまの期待を超えてくることが大きなモチベーションになっています。

失敗を経て、さらに輝く。世界が注目する“KINTSUGI”の哲学

ット販売のほか、修理、ワークショップ、体験教室と、つぐつぐの活動は枝葉を伸ばしていく。先述の事業計画のくだりもあり、緻密なマーケティングと戦略が背景にあるのかと思いきや「実は意図していなかったんです」と振り返る。

俣野 お客さまのニーズを叶えていったことから広がっていきました。キットを販売したら、教わりたいというニーズがあって、教室を開いたところ大盛況に。完成まで何週間もかかるため、その都度器を持ってきて、持ち帰っていただくのは大きな負担です。そこで思い切って恵比寿に店舗を持ちました。

修理サービスを始めたのも、店舗のご近所さんが散歩がてら訪れ、「器を直してほしい」というリクエストを受けたからだという。するとどんどん持ち込みが増えて、あるとき大手企業から協業の打診が舞い込む。今や金継ぎの需要は国内のみならず、海外からも相談が届くようになった。

俣野 外国の方向けに1時間のワークショップを始めたところ、今度は買って帰りたいという声が生まれて。外国の方は、物を再生したいというより、金継ぎのフィロソフィーに惹かれているように思います。自分自身に重ねて、失敗を元に戻ってさらに輝けることに、メディテーション的な魅力を感じているようです。

美しさと使い勝手を磨いた、プリウスに試乗

段からクルマに乗る機会が多いという俣野さんだが、現行のプリウスを初めて間近で見たという。

俣野 恵比寿から新宿まで、金継ぎをするための器を取りに行くのですが、運ぶ数が多いときはクルマなんです。またMRの時代は社用車での移動でしたから、都心の運転には慣れています。

そこで、店舗のある恵比寿から少しドライブを楽しんでもらった。

俣野 加速がすごくスムーズですね。外から見るとスポーティでしたが、室内は広々としていて視界が広くて。PHEVだから発進も静かで伸びやかですし、どの速度でも安定感がある。ラゲッジも広々として載せやすいですね。割れた器の運搬にはピッタリかも。

また、外観のデザインについても、大いに興味をそそられるという。

俣野 このブラックマイカの色味がとてもいいですね。よく見ると梨地風のキラキラとしたテクスチャーがあって、漆の蒔絵のようでもあります。さりげなくボディをかたどるキャラクターラインが絶妙で、デザイン上の必然性を感じるというか。

乗り味もデザインも、俣野さんの感性を刺激しているようだが、加えてプリウスのフィロソフィーや進化の過程で得られた工夫についても、琴線に触れたようだ。

俣野 前方の車両が発進したことをライトで知らせてくれる機能があったりと、機能的な仕組みで安全や課題解決をしていることに驚きました。私もたくさんの人に金継ぎを届けるためにビジネスを大きくするなか、器を割らないようにすることや、基本的な仕組みの改善を常に考えています。感性的な価値もさることながら、機能面でも抜かりなく。その両輪で回すことが大事だと実感できました。

俣野さんが夢見るエモーショナルグッドな未来

俣野 金継ぎを求める人の大半は、「美しい」「美術的な価値を高めたい」といったエモーショナルな理由からだと思います。ただ器を直すだけなら、それなりのお金を払って、何ヶ月も待つ必要はないじゃないですか。最初にキットを作ったときも、パッケージ自体のデザイン性を重視しました。まず感性に訴えかけ、興味を持ってもらうことが入り口だと考えたのです。

人目を引くデザインにブラッシュアップしたプリウスも、その点を魅力に感じ、購入を検討するユーザーが多い。

俣野 機能を揃えながら、デザインも極めたのがプリウスなんですね。実現の過程にあったであろう足し引きに興味をそそられます。金継ぎも、ただ修理するだけではなく、強度を保ちながら美しくするにはどうすればいいかという選択が求められます。両立にはコストがかかるため、難しい判断も出てくるんです。

壊れたものを美しく蘇らせる金継ぎを広めるために、背景ではさまざまな試行錯誤があるのだ。つぐつぐでは、金継ぎされた器のレンタルサービスも始めている。矢継ぎ早に打ち手を繰り出している理由は、ただひとつ。

俣野 プリウスがその先進性から、かつて世界中で市民権を獲得したように、金継ぎもあらゆる人の選択肢にしたいんです。金継ぎというアイデアを、日常の当たり前にしたい。すべての器にセカンドチャンスがあるということを、ぜひ知っていただきたいんです。

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車種名: プリウス Z(プラグインハイブリッド)
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