

クルマのダッシュボードには、ドライバーにスピードやエンジンの状態などを伝える計器盤としてのほかに、
ドライバーがクルマの動きを感じ取るうえでの視覚的基準になるという役割があるという。
その上で、視覚的/触覚的にも高級感のあるデザインに仕上げる。ここに、ドライバーと
パッセンジャーが頻繁に接する部分に込めた、デザイナーの思いがある。
- トヨタ自動車株式会社 MSデザイン部 モデルライフデザイン室 内装G
- 梶田 正道
- 室内/内装デザインを担当しているMSデザイン部 モデルライフデザイン室 内装グループ所属グループ長。カローラシリーズについては、主としてダッシュボード/インストルメントパネルの造形をメインに、デザイン全体造形リーダーを務める。




余分なものを
視界に入れるな
今回、カローラのダッシュボード/インストルメントパネルをデザインするにあたって、最初にチーフエンジニアから「運転している時にドライバーの視界に、余分なものが入らないように」という指示がありました。具体的には運転席から見えるボデー前方の左右、つまりコーナーの部分がしっかり把握できるものを、さらには視界において「クルマが水平であること」をダッシュボードの上面ラインを通じてドライバーが意識できるものを、ということ。チーフエンジニアからの細かな指示を、実際に具体的にまとめるにあたってどうすればいいのか。これは、グローバルモデル、そしてカローラ スポーツからの共通している重要な開発ポイントでした。上面は「水平を意識する整地」でありながら、本体は「動きのある造形」に仕上げる必要がある。そのバランスが、最後まで悩んだ部分でした。
見ても、触れても、
上質を感じるはず
カローラとカローラ ツーリングのダッシュボード素材は、主材料の樹脂素材の中でもいわゆる固いプラスチック的なものを感じさせにくい、見た目にしっとりとしたソフトタッチなものを多くの部分に採用しました。その結果、優れた機能性を持たせたデザインでありながら、視覚と触感において従来のカローラクラスのクルマとは比較にならないレベルの「ひとクラス上の上質感」が表現できています。多くのお客様にとって、「見ごたえのある内装」と言っていいでしょう。

ダッシュボード/インパネ周りのデザイン案自体は開発の初期段階から数えて6案程度でした。どれも、最もアクティブなイメージのスポーツ、ややマイルドなイメージのカローラ/カローラ ツーリングと、それぞれのキャラクターを総合的に表現できるようなデザインを考えました。これは運転するうえで重要なメーターパネルにおいても同様でした。こうした感覚的なところでバランスをとりながらメーター配置をグレード別に上手くまとめました。また、メーターフードのデザインは別体パーツで構成しているようなイメージでまとめています。基本的にはスポーツ傾向が強めではあるものの、カローラとカローラ ツーリングにもしっかりマッチしていると確信しています。
今回は、素材以外にも、表面仕上げの部分、いわゆる「シボ」も、同時開発した新しい2種類をカローラシリーズから導入しました。これはソフトな触感の素材とあいまって、カローラの開発全体において重要なテーマでもあった「上質感」の実現に大きな役割を果たしたと言えます。
カローラの世界観を
表現できた
内装において、まず目に入る箇所はダッシュボードとシートです。シートの担当者とも綿密なコミュニケーションを図ることで、素材の持つ触感や視覚上のイメージ、採用したカラーも含めてバランスを考えています。シート性能を損なわない作り込みや仕上がりは室内全体の空間を引き締めています。
トヨタにとってカローラは今回のモデルで12代目、半世紀以上にわたる非常に長い歴史を持つトヨタ車のイメージリーダー的な存在です。そうした歴史あるモデルであるという意識が常に頭の中にありました。今回の新型カローラの開発においては、ヨーロッパ車のプレミアムモデルのような質実剛健なイメージと優れた操作性を持たせることがまず第一段階でした。そのうえでしっかりと作り込まれた精緻な造形を実現しつつ、ダッシュボード全体においては感覚的に少し余裕を持たせた「動きあるデザイン」を表現しました。具体的にはダッシュボードからドアトリムへの連続的なつながり感、内装全体にパッセンジャーが包み込まれる感と言って良いかもしれません。こうした部分は、新型カローラの「世界観」を表していますので、お客様にはぜひ体感していただきたいと考えております。
今回グローバルモデルに対して日本専用仕様となったカローラとカローラ ツーリングは、いわゆる伝統ある日本のベーシックカーの中核モデルを継承する存在です。すなわちスタンダード中のスタンダード。そうした王道モデルに込められた本質的な良いもの、良いサイズ感に彩られた室内空間がここにあります。

