“愛車„とは、
思い出をつなぐ存在。
僕の父と母はとても仲の良い夫婦だった。人里離れた土地に小さな山小屋を所有しており、仲良くクルマで泊まりにいくことを楽しんでいた。石や岩がゴロゴロと転がる林道に踏み入り、山菜採りをするのがお気に入りで、そんな旅の日、母は早起きして弁当をこしらえた。父はたくさんの荷物をトランクいっぱいに積み込み、時には釣竿も加えてドライブに備えた。それは春から夏へ、そして秋から冬へ、四季を巡るかのように繰り返された。そんなふたりの生活の真ん中には、いつも愛車の存在があった。
生きがいづくりのはじまり
となった
RAV4との出会い。
父がこの世を去ると、母の生活は一変した。ささやかな楽しみだった山小屋へのドライブもできなくなり、母は伴侶を失うと同時に、生活に彩りを添えてくれていた愛車をも失ったのだ。元気がない母を見るのが辛くなった僕は、一台のクルマを母にブレゼントすることにした。それがRAV4、1998年式の小さな3ドアだった。
探し求めていたのは、
『どこへでも行けそう』
『何でもできそう』なクルマ。
僕が母にプレゼントするクルマとしてRAV4を選んだ理由はひとつではない。野山へのドライブが好きだった母には、まず頼もしいオフロード性能が欠かせなかった。それでいて、街中での運転のしやすさも条件になる。姉夫婦と同居していた母は三人の孫に恵まれ、孫たちを駅まで送迎したり、塾を往復したりと元気に走り回っていたからだ。さらに、ちょっと背が高いほうがいいかもしれないとも考えた。視線の高いクルマであれば、小さな身体の母も気持ち良く運転できると思ったからだ。
かつての母のように、アクティブに活動してほしいという思いから、何にもまして『どこへでも行けそう』『何でもできそう』なクルマを求めていた。そんな条件にぴったりなのがRAV4だったのだ。
シーンを選ばないRAV4は、
世代を超える。
やがてそのRAV4は、同居する甥の長男に引き継がれていく。
「自分で運転するのは、もうお終いにしようと思うの。もう歳だからね」
そう母が淋しそうに口にしたひと言がきっかけだった。
「山小屋へは?」
「もう通うのも辞める。クルマがなければ、山は不自由だからね」
家族でそんなやりとりがあったとき、運転免許を取得したばかりの甥が、母を支える役に自ら進んで手を挙げてくれた。
「山荘には僕が連れていってあげるよ。いいよね、おばあちゃん。そのかわり、おばあちゃんが使わないときは僕が乗り回していいでしょ?」
「もちろん、どうぞ」
20歳の青年らしいまっとうな条件付きで、姉の三人の子供たちの中の長男が母の運転手代わりに。母は相好をくずし、顔をシワシワにさせながら手を叩いて笑った。母は、気持ちの優しい孫に恵まれていた。
母から、3人の甥へ。
それぞれの思い出に寄り添う
一族の愛車『RAV4』
そのRAV4は、長男が就職し家を離れるのを機会に、入れ替わるように免許を取得した二男が譲り受け、母と野山へ行くことになった。さらに数年が経ち、その次男も就職することになり家を離れると、RAV4の運転役は長女に引き継がれた。
僕が母にプレゼントしたRAV4は、母にとって初めての愛車となり、甥の長男にとっても初めての愛車となった。やがてそのRAV4は二男が初めてドライブしたクルマとなり、さらに長女にとっても初めての一台になったのだ。
RAV4は、人生をアクティブに
走るためのクルマ。
2020年、長女が嫁いだ。母と3人の孫に寄り添ってきたRAV4は、僕の元に戻ってくることになった。22年もの長い間、家族それぞれに濃密に寄り添い続けたRAV4は巡りめぐり、ついには僕のガレージを終の住処にした。新車で母に渡ったRAV4の距離計の数字は、ちょうど18万キロを指していた。
母と四半世紀近い時を共にしたRAV4は、控え目な存在でありながら、朝起きて夜眠る当たり前のライフスケジュールにおいて、わがままな思いにも応え、母の人生にそっと華を添え、アップテンポを楽しむ生きがいを与えてくれた。そんな母と家族の笑顔を見届けてきたRAV4の数奇な運命と、どう家族を支えつづけ、どんな影響を残していったかについて、これからちょっとだけゆっくりと綴ろうと思う。
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RAV4は、
大人の“好奇心”を
かきたてるクルマ。新しい家族となる“RAV4”が我が家にやってきた日、空は抜けるように青かった。白い雲は油性の絵具で重ね塗りしたかのように、くっきりと....
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タフさが違う。
RAV4は、わがままを
許してくれるクルマ。RAV4が母のもとにやってきてから数年が経ち、母も年齢を重ねるごとに運転に不安を覚えるようになった。世間では老人の運転操作ミスに....
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強く、優しく、
そして自由に。
乗り手の心を動かす
実力車。山小屋に通う母の送迎係をかってでた姉の長男が大学を卒業すると、彼に代わって姉の次男がその役を担うことになった。長男が就職する....
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20年以上の道のり、
走っても、走っても、
変わらない
タフ&ラフのDNA。「我が家のしきたりのようになっちゃったね」姉の次男が就職し、実家を離れることになった。ついに母を長野の山小屋に送り届ける”係”が....