開発者の想い
「安全安心」を紡ぐ人々

photo by
Ken Takayanagi

INTERVIEW 02
子どもの側を
安心して走れる、
人に優しい
クルマを作りたい

先進安全システム開発部
藤田和幸

トヨタ自動車では、クルマの開発だけでなく、運転講習や啓発教育など、さまざまな場面で交通安全を支える人々がいる。そんな「安全安心」を紡ぐ人々に対して、それぞれの立場から「安全」への想いをインタビュー。
第二弾は、入社当初から全車追従機能付きクルーズコントロールの開発に関わり、TSS(Toyota Safety Sense)第三世代の立ち上げを担当した藤田和幸さん。安全支援システムの開発に込められた想いや情熱について話を聞いた。

01

きっかけは身近な人の危険

トヨタに入社以来、一貫して安全領域に携わってきた藤田さんですが、そうした領域に関わりたいという思いを抱いたきっかけは何でしたか?

入社前、叔父が運転中に心筋梗塞になり、危うく大事故につながる恐れのある経験をしました。その時は、幸い隣に叔母が乗っていたため、安全にクルマを停めることができました。しかし、もし一人だったら間違いなく大事故になっていたところです。そういった出来事から「こうした事故が起きないようにするにはどうしたらいいのだろう?」と考えていく中で、トヨタで安全技術に携わりたいと考えるようになりました。

02

失敗をプラスに変えながら
安全性能をカイゼン

2004年の入社当初から、企画開発の現場で多くの失敗を経験している中、そうしたプレッシャーをどのように乗り越えましたか?

0→1での新たなモノづくりとして、自分の作ったプログラムでクルマを動かすことがシンプルに楽しかったので、プレッシャーよりも、できることが増えていく嬉しさや失敗を乗り越えた達成感の方が強かったですね。失敗すると、なぜそうなったのか?を突き詰めますが、それがすべて自分の知識となることで、日々成長を感じることができました。
ありがたかったのは、何度失敗してもチャレンジする機会を与えていただけたこと。温かく見守られつつ、最後までやり遂げられるような安心感のあるチームで仕事させてもらえたことは大きかったですね。

その中でも、特に印象に残っている当時の失敗談はありますか?

当時、クルーズコントロールのブレーキ制御を担当していました。本来は走行中に先行車があるときに、ゆっくり減速しながら車間を維持するのがあるべき姿。
しかし、テスト走行中、試験車がだんだん先行車に近づき、前方に取り付けたセンサがそれを見つけた瞬間、あり得ないほどの大きな音とともに急ブレーキがかかってしまったんです…。なぜそうなったのかをその場で解析すると、すぐに原因が特定できました。まさに、現地現物ですね。(笑)

失敗を通じての気づきはどんなところにありましたか?

何度失敗しても、カイゼンすることで次は思い通りにクルマが動くとシンプルに嬉しいものです。付き合わされるテスト走行の担当者からすると、失敗続きでいい加減嫌になると思いますが…(笑)それでも何度も試験に付き合ってくれたおかげで、失敗を乗り越えることができました。
失敗の一方で、初めてクルマが停止保持し続ける機能を開発し、それが不具合なく実現できたとき、先輩からは、「たくさん失敗もあったけど、あなたが開発した機能が世の中に出て、一件も不具合を出していないことはすばらしいこと。自信を持っていいよ」と言われたことは大きな励みになりましたね。
ベースにあるのは、お客様にとって何が安全なのか?を考えて作ること。自分が作ったものを世に出すこと自体、新人の頃は初めての経験でした。そもそも何の不具合もなく世に実装されることはもちろん、不具合があること自体も想像できなかったんです。先輩の言葉を聞いて、それもひとつの成果として、自分の中でいいものづくりの指標ができた気がします。今もいろんな課題があって、うまくいかないことも多々ありますが、そのときの言葉を思い出し、後輩にも伝えています。

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03

お客様のさまざまな不安と
高い期待値を超えるには?

2010年に、一連のリコール問題をきっかけに、クルーズコントロールに関連する品質活動を担当しています。結果、「意図せぬところで加速すること」に対してのお客様の不安が見えてきたわけですが、このときどんな想いがありましたか?

お客様がいつどんなときに不安を感じるかはさまざまで、正解はありません。レポートの単語を丁寧に拾い、シチュエーションを想像しながらひとつずつ解析していくのですが、お客様の期待値にいかに応えるべきか、苦労しましたね。このときは最終的に加速を弱くするカイゼンに至りましたが、自分たちが想定していたような従来の基準で考えていてはダメだと実感しました。

04

父親になって実感。
子どもたちの安全を守るには

2016年以降に立ち上げを担当したPDA(プロアクティブドライビングアシスト)*のコンセプトには、「ドライバーへのさりげなく優しい支援」という想いが込められていますが、開発のきっかけや経緯について教えてください。

子どもが生まれて、やがて一緒に散歩するようになると、日常の中で感じる危険も増えてきました。たとえば、狭い道でクルマが子どものスレスレを通ったときに、手をつないで歩いていても危ないなと感じるようになりました。逆にドライバーの方も、子どもが急に飛び出すことがあっても、なかなか予測できません。そうなる前に早めに速度を落としたり、歩行者から距離を置いたりする必要があります。そんなシチュエーションに当時のトヨタの安全支援システムが対応できていなかったので、PDAの開発に必要なこととして、このシチュエーションを追加しました。

前方のクルマや歩行者を検知した上で近づきすぎないように減速したり、ハンドル操作を支援したりする安全機能。

05

人に寄り添うための
「予防安全」

PDAをはじめとしてさまざまなトヨタの安全領域に携わってきた藤田さんですが、安全技術が今以上に「人に寄り添う存在」になるために、今後必要なのはどんなことだと考えていますか?

減速の強弱ひとつをとっても、お客様それぞれに期待値が違います。誰かに合わせれば誰かには合わないこともあって、美しい正解はありません。それでも少しでもお客様が感じる煩わしさを解決できないか?を突き詰めていくわけですが、近道はないので地道にやっていくしかありません。
これは半分想像ですが、安全技術はお客様の命を守るために譲れない部分と、お客様に日頃から安全機能を使ってもらう上で、ある程度までは慣れて受け入れてもらえる部分があると思うんです。そのバランスをいかに見極めるかが開発のポイントで、それは私たちだけでは気付けないところにあります。

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藤田さんにとっての「トヨタの安全」とはどんなものだと考えていますか?

機能面で競えば、いずれ他社からも同じものが出てきますから、それ自体はトヨタの安全基準ではありません。もう少し広い意味で、トヨタの安全は品質だと思っています。
事故になりそうになったら止まる機能もそうですが、結局はお客様に安心してクルマを使っていただけることに尽きます。そのひとつの技術が安全品質というだけで、ベースにあるのは壊れにくいクルマであり、減速・加速の仕方もそうですが、少しでもお客様にとって不安があれば、それは安全なクルマとはいえません。
根っこにあるのは、どんなに新しいクルマが出てきても、故障がなく品質の高いものを提供し続けるスタンスです。トヨタでは昔からそうやってものづくりを大切にしてきた歴史があるので、そこは自信を持って言えるのではないでしょうか。

最後に、藤田さん自身がチャレンジしてみたいことについて教えてください。

「事故ゼロ」の達成ももちろん大事ですが、今まで怖くてクルマを運転できなかった人にも安心して運転してもらえるようにしていきたいですね。実は私の妻も、免許証を持っていながら、「人を跳ねてしまうかもしれないから、運転したくない」と言って運転を避けていますが、意外とまわりにも、そういう人が少なくありません。
運転が怖くてこれまで運転できなかった人にも優しく寄り添える、そんな安全安心な機能がひとつでも多く開発できたら理想的です。

トヨタの安全技術の最前線で日々、チャレンジを続ける藤田さん。
これからも、子どもから大人まで、あらゆる人を優しく包むチャレンジは続いていく。