WHAT WOWS YOU.

WOW ACTION CLIP
「つくる現場をつくろう」篇

田んぼと
化した
工場を救え。

トヨタ東日本が地元の企業と取り組む「相互研鑽活動」を紹介してきた、WOW ACTION CLIP「つくる現場をつくろう」篇。
今回はその番外篇として、東北の仲間との繋がりを大切にした
WOWな物語をお伝えします。

取材班が伺ったのは、2016年8月に上陸した台風10号により、甚大な被害に遭ってしまった、岩手県岩泉町にある岩手アライ株式会社です。
震災や台風など、天災の影響で苦しむ企業が東北地方にあれば、同じように手を差し伸べたいという気持ちは変わりません。
トヨタ東日本が向き合った、もう一つの活動現場に迫ります。

絶望は、
工場の裏から来た。

岩手県岩泉町。
ここは、透明度の高い水に恵まれ、日本三大鍾乳洞のひとつ「龍泉洞」があることでも知られています。
そんな自然豊かな町に台風10号が直撃したのは、2016年8月30日のこと。連日降り続いた雨は激しさを増し、川から氾濫した濁流が町を襲いました。川沿いの国道を走っていると、台風10号がいかに猛威を振るったかを物語る傷跡がまだ所々に残っています。

その被害を被った企業のひとつが、「オイルシール」と呼ばれる自動車関連の部品を製造する岩手アライ株式会社です。
工場長の小松さんは、当時の状況をこう振り返ります。
「台風が上陸した日の18時頃、岩泉町では全域が停電になりました。機械が止まってしまったので、雨が弱まった19時過ぎに従業員を帰宅させ、帰るのが困難だった2人を工場に残し、警戒に当たってもらっていたんです」。
そして21時10分。ゴーッという激しい水の音と共に、工場内に轟音が響きました。

それは、濁流が工場の玄関の扉を押し開けた音でした。
工場のすぐ裏には用水路があり、小本川の水がそこを逆流し、激しい勢いで工場内に流れ込んできたのです。

台風が去った翌朝に残ったのは、
動かなくなった200台もの機械と大量の泥水。
「一番深いところでは70cmくらいまで浸水していました」と、
生々しく残る泥の痕を示しながら案内してくれた小松さんは、
災害の翌日に出社し、その光景を見た時は、言葉を発することができなかったと言います。機械は1台たりとも動く状態のものはなく、建物の中はまるで田んぼと化してしまっていた。
本当にここは工場なのか。
「これからどう復旧して、それがどのくらいの時間がかかるのか。全く想像ができませんでした」。
同じ頃、台風の被害を知ったトヨタ東日本が支援活動へと動き出しました。普段から岩手アライと直接取引があるわけではないけれど、「何かやれることがあるのではないか」という気持ちが、従業員たちの心を動かしたのです。

台風10号とは?

2016年8月30日の18時頃に岩手県に上陸し、東北地方や北海道の広い範囲で猛威を振るった台風。東北地方の太平洋側に台風が上陸したのは、1951年に気象庁が観測を開始してから初めてのことで、特に岩手県の岩泉町では、1時間の最大降水量が70.5mmという観測史上最大の値を記録。町内を流れる小本川が氾濫し、甚大な被害をもたらしました。

図面が流されても、
機械は直せる。

「うちの会社では、日頃から『東北の仲間』という言葉を使ってまして。被災の話を聞いた時は、まず駆けつけようと。
そして、岩手アライさんの状況を社内に伝えようということになったんです」
と語るのは、トヨタ東日本 調達部の中山さん。
現場に入った時は、深刻な状況になっていると思ったのと同時に、“仲間”が大変なことになっていると強く感じたそうです。
すぐさま現場を確認し、必要な人や物資を手配する準備に取り掛かりました。

トヨタ東日本 宮城大和工場生産部の阿部さんは、工場内の機械の状態を確認して回ることから始めたと言います。
「漏電しているか、油の中に水が混入しているか、一台一台調べていきました」。しかし、これまではクルマをつくるためのプレス機や溶接機械と向き合ってきた阿部さん。オイルシールを製造するための“ゴムを成形する機械”を見るのは初めてです。
しかも、図面なども流されてしまっていたので、機械の構造を詳しく把握することができませんでした。

「自分もよく知らない機械ですから、岩手アライさんと相談しながら、これはどうしていこうかと一緒に作戦を練りながら復旧を進めていきました」。
製造しているものは違えど、岩手アライの皆さんとヒアリングを通して、メカニックの観点から判断できることが見えてきたのです。
このように復旧作業の目処を立てていきましたが、大きな問題となっていたことがありました。
電力です。薄暗い工場内での作業は危険性も高まります。

停電から3日目には工場近くの信号機に光が灯りました。
しかし工場までは通電されて来ない。なぜか。
原因を突き止めると、岩手アライの受電設備が水を被ってしまっていたことにあり、電気を工場まで通すにはそれを交換しないといけないことがわかりました。
状況を知ったトヨタ東日本 調達部の中山さんはすぐに自社のネットワークを活かして探し回り、翌日には現場に届くよう手配することができました。
被災してから4日目。工場は本当に再開できるのか?と不安の中で作業していた人たちの顔を、蛍光灯の灯りがぱあっと明るく照らした日です。

オイルシールって?

自動車やバイクのエンジンやトランスミッションなどの回転部分に使用する部品。潤滑油などの液体が漏れ出すことや、ホコリなどの異物が内部へ入り込むことを防ぎます。その多くは金属リングと合成ゴムを組み合わせた輪の形をしており、乗用車の場合、1台に搭載されるオイルシールは60個以上。田植え機やコンバインなどの産業機械や、洗濯機などの家電にも広く使われています。

復旧現場は、
学校だった。

被災から2週間後の9月14日。
工場の機械がついに正常に動き出しました。
岩手アライの高比良社長は、被災から2週間後に工場稼働と目標を定めましたが、心の中では「無理だ」と思っていたそうです。
工場長の小松さんも同様で、悲惨な状況の中に駆けつけて来たトヨタ東日本や各メーカーに対しては「初めはいろいろと指示をしに来ただけかと思いました」と本音を話してくれました。
「ところがトヨタ東日本の皆さんたちは、社員と一緒に泥出しからやってくれましてね。本当にひとつの会社のようでした。
朝から晩まで、手作業ですから、あれが一番大変だったと思います。機械が動き出した日は、正直、涙が出てきそうなくらい嬉しかったですね」

今回の復旧活動を通して、岩手アライには思わぬ収穫もあったそうです。トヨタ東日本や各メーカーと共に機械の修理に取り組んだことでメンテナンス部門の人たちのスキルが格段に上がったのだとか。
今まで設備を分解したり、一台をまるごと点検したりという機会がなかったため、今回の修理作業によってより知識を深めることができて自信に繋がったのだそうです。

一方のトヨタ東日本にとっても学びがありました。生産部の阿部さんは、被災の現場を自分たちの身に置き換えながら語ってくれました。
「例えば、図面のような大切な書類は別の場所で保管したほうがいいなど、大変勉強になりましたね」。
調達部の中山さんは、「起きてはいけないことですが」と前置きをした後、「貴重な経験をさせていただいたというのが正直なところです」と振り返ります。
「復旧作業を通じて、もしもの事態への教訓を得ました。
また、こちらに弊社の各拠点*の人間を大勢送り込んだのですが、彼らの中にも“東北の仲間”という意識がより芽生えた機会になったのではないかと思います」

*岩手工場、本社・宮城大衡工場、宮城大和工場、東富士工場(静岡県)

“初めて”の場にこそ得るものは多い。
トヨタ東日本が日頃から取り組んでいる「相互研鑽活動」のひとつの意義はそこにあります。
そしてもうひとつは、地域へのまなざし。
東北地方で製造業に携わる仲間同志、支え合い、高め合うことで、日本のものづくりを東北から元気にしていく。
この日訪問した場所は、その絆を強く深く感じることができた工場です。
岩手アライの高比良社長は、帰り際にこんな温かい言葉をくれました。
「同じ東北で仕事をする身として、もし、皆さんに何かトラブルが起きたら、我々がいの一番に駆けつけて今回のご恩に報いたい。近いところで仕事をするメンバーが日頃から固い絆で結ばれていれば、こんな安心感はありません」

岩泉町ってこんなところ。

盛岡市から車で3時間弱の距離に位置する、人口約1万人の町。観光名所としては、日本三大鍾乳洞の一つに数えられる龍泉洞が有名。全長は確認されている部分だけで3,600mあり、1938年には、洞内に生息する5種のコウモリと共に国の天然記念物に指定されました。高い透明度を誇る地底湖の水は85年に名水百選にも選定。県内外から多くの観光客が訪れています。

東北WOW後記

TOHOKU WOW EDITOR'S NOTE

被災から間もなくして、“いの一番に駆けつけてきた”トヨタ東日本に対して、岩手アライの人たちは非常に驚いたそうです。
工場長の小松さんはそれを、いろいろと指示をするための訪問だと思い込んでいましたが、一緒になって泥出し作業に取り掛かる姿を見てびっくりしたと言います。
そんなWOWもありつつ、岩手アライにとって、普段目にすることのない企業の働きぶりを間近で見れたことは驚きの連続だったようです。
それはトヨタ東日本にとっても同じこと。何としてでも工場を再開するんだと社員が一丸となって働く姿に「企業の力を見た」と語るメンバーたち。また、エンジニアリングの技術を学び合い、被災時に向けてのリスク管理を徹底するなど、結果的に互いを高め合う活動となった点にもWOWです!

HOW WOW YOU

みんなに質問!あの時、どんなWOWがあった?

  • 名前
    高比良慶朗さん
    職業
    岩手アライ(株) 代表取締役社長
    あなたの支えになっているものは?
    単身赴任中なので、離れて暮らす家族です。
    岩手県のおすすめスポットは?
    海と山。すばらしい自然です。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    みんなの力です。

    岩手アライ(株) 代表取締役社長

    高比良慶朗さん

  • 名前
    小松義和さん
    職業
    岩手アライ(株) 取締役工場長
    あなたの支えになっているものは?
    家族。被災した時は家族と連絡が取れず不安な時を過ごしました。
    岩手県のおすすめスポットは?
    三陸のリアス式海岸。太平洋の水平線は一見の価値あり。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    2週間後の復興目標に向けて、社員一人ひとりの思いがひとつになったこと。みんなの目が変わって、行動も変わったのを目の当たりにしました。

    岩手アライ(株) 取締役工場長

    小松義和さん

  • 名前
    三浦歩子さん
    職業
    岩手アライ(株) 生産5課
    あなたの支えになっているものは?
    5歳の娘。仕事帰りに保育園に迎えに行くと、「ママーッ!」と駆け寄って、出迎えてくれます。
    岩手県のおすすめスポットは?
    実家がある花巻市の「八福どぜう庵」。本格的な蕎麦がおいしいです!
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    トヨタ東日本や各メーカーの方々が駆けつけて来てくれたこと。

    岩手アライ(株) 生産5課

    三浦歩子さん

  • 名前
    下川原彰彦さん
    職業
    岩手アライ(株) 生産4課
    あなたの支えになっているものは?
    愛猫「クマ」と愛犬「どんべえ」。日々の癒しになっています。ペットは、言葉を発さないところがいいですね。
    岩手県のおすすめスポットは?
    龍泉洞。台風の影響で閉鎖されてましたが、また行けるようになりましたよ。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    トヨタ東日本や各メーカーの皆さんの協力的な姿勢。泥まみれになりながら、一緒に働いてくれたこと。

    岩手アライ(株) 生産4課

    下川原彰彦さん

  • 名前
    熊谷正人さん
    職業
    岩手アライ(株) 生産5課
    あなたの支えになっているものは?
    家族。何でもないことが幸せなんだなって思います。
    岩手県のおすすめスポットは?
    北山崎。海釣りするので、よく行きます。絶景です。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    若い人たちのテキパキとした働き方に、感動しました。

    岩手アライ(株) 生産5課

    熊谷正人さん

  • 名前
    (左)和山宗博さん / (右)菊地勝則さん
    職業
    岩手アライ(株) 生産技術課 / 生産技術係
    あなたの支えになっているものは?
    家族。それと夜の一人の時間です。紅茶を淹れ、小説を読むのが至福の時間です。 / 2歳の娘。家に帰ると、ニコニコ抱きついてくるんです。
    岩手県のおすすめスポットは?
    龍泉洞。水が澄んでて、とても綺麗ですよ。 / 宮古市内にある魚菜市場。おいしい海産物が揃ってますよ。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    トヨタ東日本の方々の、全員熟練かと思うほどの技術力の高さ。それと、元に戻すんだ!という熱意ですね。 / 若い保全員たちがすでに高い技術力を持っていたこと。どう見ても20代前半なのですが、驚きました。

    岩手アライ(株) 生産技術課 生産技術係

    和山宗博さん 菊地勝則さん

  • 名前
    (左)浅尾明利さん / (右)中山裕太さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株) ものづくり研鑽室 / 調達部グループ長
    あなたの支えになっているものは?
    お酒と料理。ちょっとしたツマミも自分でつくります。 / 週末、2人の息子と一緒に野球をやること。僕はコーチをやっています。
    岩手県のおすすめスポットは?
    岩手と秋田の県境あたりにある温泉地。北上展勝地にある桜もいいですね。 / アライさんたちと打ち上げをした「ホテル羅賀荘」。料理がおいしいし、海も見えていいホテルです。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    「早く復旧させなくちゃ」という気持ちが目に見えるような働き方をされていたこと。イヤな顔ひとつせずに動かれてました。企業の力ですね。 / 気づいた点を指摘させてもらった時に、翌日には決断して動いてくれたこと。そのスピード感に驚きました。

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室/調達部グループ長

    浅尾明利さん 中山裕太さん

  • 名前
    小向未矩さん
    職業
    岩手アライ(株)生産5課2係1班
    あなたの支えになっているものは?
    K-POP!「防弾少年」が好きです。今度北海道でLIVEがあるので、なんとかチケットを取りたい!
    岩手県のおすすめスポットは?
    龍泉洞。観光客でいっぱいだけど、きれいなので一度は訪れてみてほしい。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    普段は個人個人の仕事をしていたけど、会社が被災して、社員全員が協力して一つの目標に向かって活動したこと。それが復興に繋がったと思う。

    岩手アライ(株) 生産5課2係1班

    小向未矩さん

  • 名前
    佐々木慧斗さん
    職業
    岩手アライ(株) 総務経理課
    あなたの支えになっているものは?
    家族の存在
    岩手県のおすすめスポットは?
    龍泉洞。この町の自慢です。
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    会社、社員全体が一致団結した時。すごく心強かったです。

    岩手アライ(株) 総務経理課

    佐々木慧斗さん

  • 名前
    (左)廣政義一さん / (右)阿部哲さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株) ものづくり研鑽室 / 宮城大和工場 生産部設備課
    あなたの支えになっているものは?
    東北内で離れて暮らしている家族の存在が大きいです。/ 車をいじっている時間。あとは家族が健康でいることですね。
    岩手県のおすすめスポットは?
    北上展勝地の桜。東北三大桜と言われているんですよ。 / 八幡平!
    復旧活動の中でWOWだったことは?
    一つの目標に向かってやり遂げた時。 / 機械が動いた時。いくら泥をかいてもきれいにならず、心が折れそうだった時もみんなで頑張ったので、動いたと聞いた時は感動しました。

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室/宮城大和工場 生産部設備課

    廣政義一さん 阿部哲さん

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WOW ACTION CLIP
2017.03.22 IWATE

トヨタ東日本が東北の地元企業とともに復興の一端を担い、業種を越えて学びあう相互研鑽活動。今回訪れたのは岩手県岩泉町。2016年夏、台風10号がもたらした甚大な被害にも関わらず、工場が迅速に正常復帰したのは「東北の仲間」の絆があるからだそう。ここではどんな「WOW」が生まれたのでしょうか?