WHAT WOWS YOU.

WOW ACTION CLIP
「つくる現場をつくろう」篇

トヨタが
サンチュを
見守る理由。

東日本大震災から6年の月日が流れ、東北の各地では傷跡を残しながらも、復興の兆しが芽吹き始めています。
トヨタ東日本が東北の地元企業と一緒になり、
復興の一端を担えればという想いから取り組んでいる相互研鑽活動
農業、水産加工業など業種の枠を越えて様々な異業種と共に、
お互いの良いところを学びあう活動です。
WOW ACTION CLIPでは、今回、異業種が互いに切磋琢磨する中で見つけたWOWを紹介していきます。

土がなくても農業は、
できる。

宮城県仙台市の県道10号線を走っていると、パワーショベルが土砂を積み上げ堤防を作る姿や、その土砂を運ぶダンプカーが目に飛び込んできます。
震災の傷跡が広がる殺風景な景色を横目に交差点でハンドルを切ると、ビニールハウスが静かに佇んでいました。震災後、瓦礫の山と田んぼだった場所に、土盛りをしてハウスを建設するところから始まった会社、トヨタ東日本が相互研鑽活動を行なっている企業のひとつ、株式会社みちさきです。ここでは、水耕栽培によるサラダホウレンソウ、ルッコラ、サンチュなどの葉物野菜のものづくりや、イチゴ、トマトなども栽培し、出荷しています。

宮城野区南蒲生は沿岸地域。震災後に建設されたビニールハウスがある場所も海から500mと離れていません。
震災前は豊富な作物を生みだす畑であった土地は、一夜にして、瓦礫となり、かつての生活のかけらが散在するようになってしまいました。さらに、震災当時は様々な情報が錯綜し、これから十年、潮を含んでしまった土では野菜が作れないといった憶測もありました。
そんな中で菊地社長は、やり慣れた路地栽培を捨て、水耕栽培へと舵を切ることを決断しました。

農業も、
製造業にならなくちゃ。

「部品を組み立て製品を作る製造業に対し、農業は自然を相手に作物を育てるというところが、大きく違います」

土を必要としない水耕栽培はイニシャルコスト、ランニングコストが高く、経験がない中での新たな事業は全てが試行錯誤。

「私たちほど、失敗した会社はないですよ」

菊地社長は、そう言って笑います。
予想できない困難が立ちはだかる中、マニュアルを作り、ひとりひとりの労働生産性を図り、稼働率を上げていく。経験値だけで収穫を予測する家族経営の農業から脱却し、産業としてビジネスモデルを確立する。そのためには自ら進んで苦労し、挑戦を諦めない。その背景には、震災に苦しむ地域への想い、農業の新時代幕開けへの強い想いがありました。

水耕栽培を選択した理由の1つには、震災によって農業ができなくなってしまった、事業を失ってしまった方々の働く場所として、雇用を創出しなければならないという現実がありました。
新しく人材を採用するということは、必ず利益を出し、従業員のみなさんに給与として還元しなくてはなりません。
「農家というのは、家族の人件費を犠牲にして成り立っているようなものだったのです」
これからはそれではダメなんだと、菊地社長は声が自然と強くなります。
「サラリーマンの息子さんがみちさきに入社して、やがて結婚し、子供をもうけて家族を養っていく。年相応に給与も上げなくちゃ」
農業に携わるひとりの人間が、大切な人を犠牲にすることなく人生のストーリーを歩み続ける。毎日収穫できる水耕栽培は、まさにうってつけの農法だったのです。

水耕栽培ってなに?

ロックウールという繊維質の白い板(ベッド)に穴をあけ、作物の根にスポンジをつけて、肥料を水に溶かした溶液に浸す、土を必要としない栽培方法。
温度、湿度を管理できるビニールハウスで栽培し、季節による収穫変動を抑え、育成をコントロールし、安定した価格・出荷量・品質を実現しやすい農法です。

まず最初に、
焼肉屋へ。

農業を製造業に進化させて、産業として確立させたい。その想いに共感したトヨタ東日本は、自分たちのものづくりの経験を元に、お手伝いさせていただくことを決めました。
とはいえ、農業は全くの異業種。2016年4月。担当として現場に行くことになったトヨタ東日本の酒井さんは、まずは、サンチュを食べることから始めようとみちさき近くの焼き肉屋へ行ったそうです。
「サンチュって旨い。そう思いました」
しかし、意気揚々と向かったビニールハウスに一歩足を踏み入れた瞬間、酒井さんは途方にくれてしまいました。
「緑一面に広がるサンチュを前に、いったい自分は何が出来るんだろうって」
こうして、トヨタ東日本の新しい挑戦は静かに幕を上げたのです。

その円から
一歩も出るな!

「まずは観察してみようと思ったんです」

酒井さんは、収穫している動作をジッと見つめることから始めました。

「工場で先輩から教わったんです。足元に白いチョークで丸い円を書かれましてね。お前は半日間この丸から一歩も出るな。定点で観察することで、初めて見えるものがある、ってね」

観察を続ける中で、酒井さんが最初に気になったのは収穫したサンチュを捨てている様子でした。それは、チップバーンと呼ばれる葉先が焼けた状態になった葉を取り除く作業。
これはもったいないと、みちさきの担当者である佐々木さんと議論し、チップバーンの原因は育ち過ぎという話を聞いた酒井さんは、管理表を作成し、収穫期を迎えたサンチュの生産量を正確に把握できるようにしました。
そして、共に働くパートのみなさんも協力して、管理表に収穫した枚数を正確に記入していくなかで、廃棄品が20%近くあることが見えてきたのです。

農業には、
ペンを使え。

「取っ掛かりを掴むまで、4ヶ月くらい掛かりました」

と、酒井さんは当時を振り返ります。管理表を使い、生産状況を視えるようにすることで、いつ、どこで、どれくらいのサンチュが収穫できるのかが、正確に把握できるようになり、現在では廃棄率は約2%に減少。また、管理表を皆が見える場所に貼り出すことで、パートさんが迷わず収穫できるようにもなりました。
「担当する場所の数字をこうして手袋に書くんですよ。今日、何をすればいいのか分かりやすくって」

と、あるパートさんは笑顔で話してくれました。手袋にメモするアイデアは実は従業員たちから自然と実行に移ったものだそうで、いつからかボードのそばには筆記具入れが設置されたとのこと。この活動の意義が徐々に浸透していったことに酒井さんも喜びの表情を隠せません。
「私自身、夢中になってこの仕事に取り組んでいます。野菜の成長を見守るって、楽しいんですよね。ナマモノを扱う難しさ、クルマとは違った視点を学ばせてもらいました。そして問題に対して皆でやるべきことを出し合い、理路整然とまとめていく力に関しても、成長させてもらったなという実感があります」。

「今、様々な地域の農業生産者の方が私のところに相談に来ています。その生産者の方々を運営する仕組みを考えているところなんですよ」

と、菊地社長は教えてくれました。

「そして、我々が失敗して学んだこと、トヨタ東日本さんを通して学んだことを、その仕組みを使って若い社員が他の生産者の方々に伝えてくれればいい。それが理想なんです」

収穫量を正確に予測できるようになったことがお客さまの信頼に繋がり、廃棄していた18%は利益として還元できるようにもなりました。
まさにWOWです。農業と製造業がお互いに研鑽する中で起こったWOWは、震災を乗り越え復興していく地域と、農業の新時代幕開けの、確かな兆しとなっています。

「食べ物を作るっていうのは、ヤリガイも非常にあるんです。必ず皆さん食べますから。私たちがやっていることは、これからの日本の農業を変える。そう思ってます」

苦労は口にせず、穏やかな笑顔で未来を語る菊地社長の目には、農業に携わる全ての人が自分の人生を謳歌している姿が見えているに違いありません。

ちょっと変えると、変わる!

カイゼン解説コーナー

◎道具を疑え。

この台車は収穫したサンチュを詰めたカゴを運ぶ時に使用されています。
カイゼン前は、台車の車輪は前後に2つずつ、4つでしたが、
6つに増やしたことで真中の車輪が支柱になり、その場で360度回転できるようになりました。
また、台車の上に2本のテープを張り付けることで、
サンチュを入れたカゴをスライドさせやすくしています。
作業の効率化に加え、作業者の足腰にも優しい台車に生まれ変わりました。

◎アバウトを、禁止してみる。

勘や経験で収穫していたサンチュを、管理表を作成することで収穫期を把握。

◎黙々とやる、は美徳とは限らない。

皆の目につく場所に管理表を設置したことでコミュニケーションが活発に。社員からも自然とアイデアが出てきた。

◎定点のまなざしで。

根気強く観察したことで見えてきた、サンチュを捨てるという動作。
せわしなく動いて見てまわっていては、気づかなかったことが見えてくる。

東北WOW後記

TOHOKU WOW EDITOR'S NOTE

トヨタが農業に取り組んでいる。
こう聞くと、誰もが耳を疑ったのではないでしょうか。
サンチュとクルマ、当たり前ですが、作り方はまったく違います。
けれども、菊地社長の「農業を製造業に」という話に耳を傾け、サンチュを食べることから始めたトヨタ東日本の酒井さんの
話を聞いていると、それぞれの仕事で重ねることのできる姿勢やノウハウがあることがわかりました。
さらに、カイゼンによって、しっかりと目に見える結果が出てきたこと。そして従業員たちから生まれた優れたアイデア。
これらをWOWと言わずにはいられません!
優しい光に包まれたビニールハウスの中に、これからの未来を照らすかのような新しいものづくりがありました。

HOW WOW YOU

みんなに質問!あの時、どんなWOWがあった?

  • 名前
    菊地守さん
    職業
    (株)みちさき 代表取締役
    好きな野菜
    ネギ、ルッコラ
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    ゴマの香り大人系ルッコラサラダ
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    漠然と問題意識があったことを相談すると、原因を突き止め素早く対応してくれたこと。私たちだけで解決しようとしていたら、もっと時間がかかったと思う。

    (株)みちさき 代表取締役

    菊地守さん

  • 名前
    佐々木洋輔さん
    職業
    (株)みちさき 生産管理本部 部長
    好きな野菜
    サンチュ
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    BBQで豪快に焼いて食べる!肉を巻いて食べて欲しい!
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    私たちvsサンチュというように、一緒になって攻略してくれたこと。
    本当に親身になってくれる。

    (株)みちさき 生産管理本部 部長

    佐々木洋輔さん

  • 名前
    高橋龍一さん
    職業
    (株)みちさき 葉物部門 部長
    好きな野菜
    サンチュ
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    パートさんがお弁当で持ってくるサンチュの漬物。
    塩で漬けているだけなのにとてもおいしい!
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    移動は何も生み出していないという考え方を聞いた時。

    (株)みちさき 葉物部門 部長

    高橋龍一さん

  • 名前
    齋藤敦さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株)ものづくり研鑽室 グループ長
    好きな野菜
    レタス
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    サラダ
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    キャベツの収穫がとっても難しかったこと。
    包丁を使って切り取る時に力の加減を間違えると包丁が刺さってしまう。
    簡単そうに見えることでも実際にやってみると難しいものですね。

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室 グループ長

    齋藤敦さん

  • 名前
    酒井学さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株)ものづくり研鑽室 主任
    好きな野菜
    サンチュにしか興味はありません!
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    トマトと一緒に食べるホウレンソウとのサラダ
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    サンチュってこうやって作っているんだ!

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室 主任

    酒井学さん

  • 名前
    米山美枝さん
    職業
    (株)みちさき パートさん
    好きな野菜
    ホウレンソウ、トマト、ピーマン
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    しゃぶしゃぶ(ポン酢でも、ゴマだれでも、どちらでも美味しいですよ)
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    虫や病気が無くなって、捨てる野菜が減りました!
    管理表のおかげで1日の仕事量が分かりやすくなって、作業がラクになりました。

    (株)みちさき パートさん

    米山美枝さん

  • 名前
    我妻陽子さん
    職業
    (株)みちさき パートさん(我妻正一さんの奥様)
    好きな野菜
    ホウレンソウ、ジャガイモ、トマト
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    ハムにサンチュを巻いてマヨネーズで!
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    クルマの会社のTOYOTAさんが、こんなことをやっているんだ!

    (株)みちさき パートさん
    (我妻正一さんの奥様)

    我妻陽子さん

  • 名前
    我妻正一さん
    職業
    (株)みちさき パートさん(我妻陽子さんの旦那様)
    好きな野菜
    レタス、きゅうり、なす
    栽培された作物を使ったお勧め料理は?
    生野菜のサラダ
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    効率の良さと、収穫の率を上げるやり方に驚きました。

    (株)みちさき パートさん
    (我妻陽子さんの旦那様)

    我妻正一さん

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WOW ACTION CLIP
2017.03.22 IWATE

トヨタ東日本が東北の地元企業とともに復興の一端を担い、業種を越えて学びあう相互研鑽活動。今回訪れたのは宮城県仙台市。震災を受け、露地栽培から水耕栽培へと舵を切った株式会社みちさき。ゼロからのスタートを後押しするヒントになったのは「観察」すること?ここではどんな「WOW」が生まれたのでしょうか?