ACTION CLIP
「つくる現場をつくろう」篇

カメラ工場で
トヨタは
何を見たか。

東日本大震災が大きな傷痕を残してから、7年が経過し、東北の各地では少しずつ復興の兆しが芽吹き始めています。トヨタ東日本が東北の地元企業と一緒になり、復興の一端を担えればという想いから取り組んでいる相互研鑽活動。農業、水産加工業など業種の枠を越えて様々な異業種と共に、お互いの良いところを学びあう活動です。ACTION CLIPでは、今回、異業種が互いに助け合い、そして切磋琢磨する姿を追いかけました。

原発から5kmの工場に
別れを告げて。

冬化粧をした会津磐梯山を横目にクルマを走らせ、高速道路を降りると、一面に真っ白な雪景色が広がっていました。その先に見えたのは、トヨタ東日本が研鑽活動を行っている企業のひとつ、株式会社サンブライトです。ここでは、主にカメラの部品が製造され、日本屈指の技術を誇っています。

震災前、サンブライトは大熊町の福島第一原子力発電所からわずか5kmの場所に工場を構えていました。ところが2011年3月11日、大きな悲劇がサンブライトを襲います。震災当時は海外出張中だった渡邉社長。唯一連絡が繋がった時、現会長から「工場はもうダメだ、帰ってこい」の一言。あっという間に被害は拡大し、大熊町一帯は避難区域に指定され、工場への立ち入りも禁止されてしまいました。
「人生が終わったと思いました」と渡邉社長。
被災した双葉郡に住んでいた従業員は全体の9割以上。地元に戻りたい、でも戻れない。絶望的な状況の中、3月17日の役員会では営業を続けるべきか、会社を畳むべきかの議論が交わされていました。これからどうするのか。皆が結論を出せなかった時、弱腰になっていたサンブライトを救ったのは社員のある一言でした。
「社長、やるしかないです。やめるわけにはいきません」。
その言葉に涙を浮かべ、「これではいかん」と腹をくくった渡邉社長。どん底から這い上がるため、サンブライトの工場再建を決意しました。「具体的な再建イメージなんてありませんでした。社員から激励を受け、とにかく前に進む。やることだけを先に決めたんです」と渡邉社長は振り返ります。

こうして進み出した新たな土地での工場再建。まず再建のためには、真っ先に生産設備を運び出さなければいけません。しかし、避難区域に指定されていた大熊町から大型の機械を運び出すことは決して容易ではありませんでした。運搬業者に頼むことができず、様々な策を講じましたが、最終的には社員が防護服を着て、4トントラックで運ぶこと100台。ほぼすべての機械を自分たちの手で運び出しました。危険を承知の上での行為。でも、それを嫌がる社員はいませんでした。社員全員の力、そして日頃よりお世話になっている方々の大きな支えがあって、同年12月という驚異的なスピードで操業が再開しました。

機械の力は、買える。
ひとの力は、買えない。

新工場に移転し、工場規模も大きくなり、設備も充実してきたサンブライト。社員数も増え、復旧から復興と順調にステップを踏み出したかのように見えましたが、社長の胸の内にはあることが気がかりでした。
「実は、震災以前から働いてくれているベテラン社員はわずか17人で、ほとんどは移転後に入社してきた従業員ばかりでした」。
とは言いつつも、新工場が整い、いよいよもって新製品の製造へと意気込んでいた渡邉社長。社員数も増え、「なんとかやれるだろう」という仕事の量を受注します。カメラ市場は高付加価値商品へと切り替わり、それに対応するための設備も万全でした。ところが、社長の不安が的中しました。新製品が思うように製造できず、それに続くようにして既存の製品にどんどん不具合が出始める負のスパイラルに陥ってしまったのです。1度請け負っていたすべての注文をお断りせざるを得ない、最悪の事態でこれは創業から初めての出来事でした。

「明らかに人の力が足りませんでした。最新の機械を導入すれば、高い生産能力は手にできます。しかし、それを扱うのはひと。機械の力だけで高品質な製品が出来上がるわけではありません。企業には人間力が必要であるということを、これでもかというくらい痛感しました」と渡邉社長。

行政から、相互研鑽活動の話が飛び込んできたのは、渡邉社長がちょうどこのような悩みを抱えている時のことでした。

マグネシウムは、実は危険な素材だった!?

ところで、サンブライトの製品の主な原材料であるマグネシウム。この素材は軽量ゆえ、近年では多くのカメラの筐体に使われています。切削加工時、マグネシウムの粉塵が工場内にたくさん発生するのですが、実は微粉になると着火しやすく、激しく燃焼する危険な素材なのです。工場内は火気厳禁かつ、十分な性質への理解と注意により、安全に生産することができます。

キズをつけた
犯人を探せ。

業種は違えど、トヨタ東日本のものづくりの精神で何かお手伝いができないだろうか。その想いを胸に今回研鑽活動を担当したのは、トヨタ東日本の菊地高広さん。

「私が取り組んできた研鑽活動の中で、初めての金属加工業界でした」。
菊地さんに、初めて工場訪れた時の印象を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「工場全体の整理・整頓が完全には行き届いておらず、作業をしている従業員が安全に、品質の高い製品を作ることは難しいと感じました」。

菊地さんは、まずは安全に製造が行えるように工場内の清掃活動から始めました。自ら率先して清掃を行う背中を見て、社員がそれに続き、お互いの距離がぐっと縮まったそうです。その働きぶりについて猪狩部長は、「菊地さんたちが掃除をすれば私たちもやる。良い風潮が自然と広がっていった気がします」と振り返ります。一緒にやり遂げることで次第に会話も生まれ、菊地さんは社員の方への地道な聞き取りと、現場現物を心がけ、徹底的に調査したことから、工程内で発生する不良の原因の深掘りができていないことに気がつきました。

「データの記録はされていたものの、不良の原因追求まではできていません。早急に再発防止策を考える必要がありました」と菊地さん。当時、良品率が9割を切ってしまう事もあり、1番の原因は、製品にキズがついてしまうことでした。

真相をつまびらかにして、全製造工程を1から見直そう。ここからサンブライトのカイゼン活動が始まりました。菊地さんがまず取り掛かったのは、製造工程のどこで不良が発生するかをグラフ化することです。次に、その発生原因を洗い出し、一つずつ現地現物で確認しました。

また、不良原因の視える化も実施。社員全員が把握できるよう、不良の数や工程ごとのキズの現象は誰が見てもわかるようになりました。

決まり事を
疑え。

ちなみに、不良を低減していく過程には“言葉のカイゼン”もありました。これまでサンブライトでは、部品に付いたキズを「引き残り」という言葉でくくっていました。ところが菊地さんがよく見ると、2種類の現象が見受けられました。それに疑問を感じ、調査してみると、実は別工程によるキズ跡も、同じ「引き残り」という言葉で言い表していたことが判明します。菊地さんは発生原因を丁寧に検証しながら、皆が発するキズ跡の呼び名にも耳を澄ませていたのです。この問題を発見した菊地さんは、全行程の現象を改めてチェックし、言葉の定義を1から見直しました。その結果、今まで「引き残り」に含まれていた別の現象を「引き跡」と名付けました。ひとつの言葉で2種類のキズ跡を言い表していたことが、原因究明を遠ざけていたのです。

トヨタ東日本とサンブライトとの研鑽活動が始まってから半年後、全行程のキズの原因究明にようやく成功しました。発生原因を工程ごとに細分化し、徹底的に対策を施すことで、見事、不良率を半分以下に減らすことに成功したのでした。「日に日に、不良が少なくなっていくことが見て分かると、やりがいがありますし、なんだか嬉しいんですよね」とある社員の方が笑顔で話してくれました。

ちょっと変えると、変わる!

カイゼン解説コーナー

◎失敗を分解せよ。

この箱はどの工程・段階で、どのくらい不良が発生しているのかを可視化するために設けられました。カイゼン前は、紙に記録をしてファイリングをしていましたが、どの段階で不良が起きたのかが不明瞭でした。そこで記録内容をグラフ化し、更に発生した不良品の工程別の置き場を整備。1つ1つ目で見ることで、事実を細かく把握でき、社員からの細かい情報があがってきました。結果、原因究明、対応につながり、不良率を減少させることに成功しました。

※ 竹の子林みたいに見えるところから名付けられた。

◎道具の住所を決める。

清掃用具や、機械の部品の置き場所を指定する。道具の置き場が決められていれば、誰が使おうとしても、すぐさま道具や部品を探すことができ、作業効率がアップします。

◎聞こえない声を聞く。

課題を洗い出すために、現場の声を聞く改善シートを作成。従業員1人1人からの意見を拾い上げることで、普段の業務では気が付きにくいことが発見でき、社員が働きやすい環境が生まれました。

渡邉社長は研鑽活動を振り返り、「トヨタ東日本の方は、私たち以上にコツコツと、熱心に働かれていました。私たちに教えを乞う姿にも感心してしまいましたし、見習うべき点が数え切れないほどあります」と語ってくれました。

トヨタ東日本と一緒に研鑽活動が進むにつれ、自主的に出社時間が早まったり、除雪作業に参加してくれたり、会社のことを自分ごととして考えてくれる社員が増えたことも嬉しい変化だったそうです。

今後の抱負について伺うと、「私たちは運良くたくさんの方の支援をいただき、ここまで復旧をすることができました。被災された方々の中には、復旧できなかった方や志半ばの方はまだまだいる、お世話になった方に一生懸命恩返しをしたい」。渡邉社長はそう力強く答えてくれました。
そして、「品質づくりは人づくり」。サンブライトは研鑽活動を経て、今期の目標をこう定めました。「品質には人の力が大切だと、今なら胸を張って言えます。まさにこの人をつくるところにご協力いただいたトヨタ東日本さんに自慢してもらえるような会社になる」、それが渡邉社長の次なる目標です。

東北カイゼン後記

TOHOKU KAIZEN EDITOR'S NOTE

真剣な眼差しで製品を見つめるサンブライト社員たち。トヨタ東日本の菊地さんと製品について熱く語る姿がとても印象的で、「良いものを作るためには最後は人の力が大切だ」ということを今回のカイゼン活動でひしひしと感じました。世界に負けないメイドインジャパン、メイドイン東北のものづくりをこれからも応援し続けます!

TODAY’S VOICE

みんなに質問!福島のこと、お互いのこと

  • 名前
    渡邉忍さん
    職業
    (株)サンブライト社長
    この春、スタートしてみたいことは?
    ジャズドラム、水泳。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    冬の会津磐梯山。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    トヨタ東日本の方が、会社を見学に来られた時に「勉強になります」と言っていただいたこと。

    (株)サンブライト社長

    渡邉忍さん

  • 名前
    猪狩一夫さん
    職業
    (株)サンブライト製造部 部長
    この春、スタートしてみたいことは?
    目指せ、5万枚です!(何かは秘密。)
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    鶴ヶ城の夜桜。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    カイゼン活動で、トヨタ東日本の方が一緒になって手を動かしてくれたこと。

    (株)サンブライト
    製造部 部長

    猪狩一夫さん

  • 名前
    鈴木信さん
    職業
    (株)サンブライト製造2課 課長
    この春、スタートしてみたいことは?
    春バスを釣りあげたいです。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    檜原湖の紅葉。9〜10月がおすすめです。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    どんな時もまず現場に足を運んで確認をしていたこと。

    (株)サンブライト
    製造2課 課長

    鈴木信さん

  • 名前
    田場川浩彰さん
    職業
    (株)サンブライト製造2課 係長
    この春、スタートしてみたいことは?
    ベトナム語を習得。新車を購入して、自分仕様に改造したい。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    会津若松市内にある松長団地の夜景。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    工程内不良を、現地現物で確認するということ。

    (株)サンブライト
    製造2課 係長

    田場川浩彰さん

  • 名前
    星健司さん
    職業
    (株)サンブライト製造2課
    この春、スタートしてみたいことは?
    ガーデニング。バラをたくさん育てたいです。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    猪苗代湖。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    研鑽活動を経て、不良品が5パーセント以下に減ったこと。

    (株)サンブライト
    製造2課

    星健司さん

  • 名前
    菅野文子さん
    職業
    (株)サンブライト製造2課
    この春、スタートしてみたいことは?
    自分磨き。マイナス5キロ目指します!
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    五色沼。1年中を通して綺麗です。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    カイゼンシート。自分の要望が採用され、改善しました。

    (株)サンブライト
    製造2課

    菅野文子さん

  • 名前
    ヴ・ティ・ハインさん
    職業
    (株)サンブライト製造2課
    この春、スタートしてみたいことは?
    旅行です。東京に行ってお寺巡りをしたいです。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    鶴ヶ城といわきの海。とても綺麗ですよ。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    専門用語を簡単な日本語で説明してくれたので、作業がしやすかったです。

    (株)サンブライト
    製造2課

    ヴ・ティ・ハインさん

  • 名前
    菊地高広さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株)ものづくり研鑽室
    この春、スタートしてみたいことは?
    マラソンとキャンプ。 家族全員でスタートしたいです。
    カメラで撮りたくなる、福島県のおすすめスポットは?
    会津磐梯山です。夏の青々とした山の景色が素敵です。
    トヨタ東日本との研鑽活動で一番印象に残っていることは?
    社員の皆さんがあたたかく迎え入れてくれたことです。

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室

    菊地高広さん

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
PAGE TOP
このページをシェア
  • twitterでシェア
  • Facebookでシェア
ACTION CLIP
2017.1.16-17 FUKUSHIMA

トヨタ東日本が東北の地元企業とともに復興の一端を担い、業種を越えて学びあう相互研鑽活動。震災の被害を受けた株式会社サンブライトは奇跡的に復旧した後、ある問題に直面してしまいます。ここでは問題解決のために異業種同士が協力しあう様子を追いかけました。さて、どのようなカイゼン策が飛び出すのでしょうか?