WHAT WOWS YOU.

WOW ACTION CLIP
「つくる現場をつくろう」篇

トヨタが
挑んだ
ウロコ取り。

東日本大震災から6年の月日が流れ、東北の各地では傷跡を残しながらも、
復興の兆しが芽吹き始めています。
トヨタ東日本が東北の地元企業と一緒になり、
復興の一端を担えればという想いから取り組んでいる相互研鑽活動
農業、水産加工業など業種の枠を越えて様々な異業種と共に、
お互いの良いところを学びあう活動です。
WOW ACTION CLIPでは、今回、異業種が互いに切磋琢磨する中で見つけたWOWを紹介していきます。

絶望も希望も、
海にあった。

カモメが空高く飛ぶ様子に目を奪われていると、海の香りが胸に広がります。宮城県石巻市は古くからある港町。
トヨタ東日本が相互研鑽活動を行っている企業である株式会社高徳海産は、1947年(昭和22年)にこの石巻の地に創業し、国産の魚を原料として魚の加工、惣菜を製造し、全国の量販店などへお届けしています。

工場の目の前は海。2011年3月11日。 工場で従業員と一緒に作業していた高橋専務はこのままでは津波で危険だと判断し、従業員に「みんな、逃げよう!」と告げ、小学校の体育館に避難。 波がひいて2日後、自転車で工場に向かう道すがら高橋専務が目にしたのは、崩壊した建物、めくれたアスファルト、ひっくり返った自動車でした。

「間違いなくウチの工場もそういう状態になっているだろうと思いました」
高橋専務は、当時をそう振り返ります。見た事もない風景の中、ペダルを漕いでいると、大型船が乗り上げて1階部分がグチャグチャになってしまった工場を見つけました。
しかしよく見ると、津波が届かなかった2階部分は震災前と同じ状態で、損壊は酷いものの建物自体が歪んだり、ズレたりはしていないことに気が付きました。
「大変なことになったなというのと、まだやれるという二つの気持ちがありました」
と、その時の心境を語ってくれました。

魚屋は、
魚屋を卒業できるか。

建物の状態を見ても、今日、明日、スグに工場を再開するという訳にもいきません。専務が社長と2人でこの先どうしていこうかと相談していると、従業員の方たちが状況を確認するために、ひとり、ふたりと工場に訪れてきました。すると、「私、待ってます!また一緒に働きたいです!」と多くの従業員の方が言ってくれたそうです。さらには、
「高徳さんの商品、私たち待ってます」
「再開したら、いの一番に商品持って来てよ」
とお客さまから電話がかかってきました。進むも大変、引くのも大変。
「待ってます」の期待と想いに背中を押され、進む方を選ぼうと決断。震災前より働きやすく、お客さまに本物の味を提供できる会社にしたい。こうして、いくつもの声が支えとなり、高徳海産は新しい道を歩み始めました。

高橋専務は工場をやっとの想いで立て直し、8か月後の11月の末には稼働できるようにしました。
しかし、震災を機に60歳以上の熟練の従業員の多くが引退。作業を効率化しなければ、現在の人数で工場を運営していくことは困難でした。現在勤務してくれている従業員の負担を減らさなければいけない。お客さまからの期待に応えるためには、生産性を上げなければならない。工場を再稼働させたものの、深刻な人材不足に悩まされることになります。

しかし、これまでの経験をもとに解決策を探してもなかなか見つけることができませんでした。
「魚屋だけの発想ではだめだ」
この高橋専務の声が届き、トヨタ東日本の相互研鑽活動が始まることとなったのです。

東洋一の魚市場「石巻魚市場」

震災の影響で、東洋一といわれていた水揚棟(654m)が崩壊してしまった石巻魚市場。
2015年9月1日に全長876mの閉鎖式水揚棟が完成し、従来の約1.4倍の規模で蘇りました。国内最大級の地方卸市場として、国内はもとより、国外からも多くの陸揚げがあり、水産物を仕分け、大都市や他の地方へ、様々な魚を出荷しています。

トヨタの目で見た、
ウロコ取り。

自動車づくりのプロにとって、鮮魚を扱うのはもちろん未知の領域です。
しかし、従業員のためにより働きやすい環境をつくりたいという想いに共感したトヨタ東日本は、従業員の方を笑顔にすることを決意しました。しかし、担当となったトヨタ東日本の柳沼さんは、最初は全く自信がなかったと言います。
「まず、そもそもカイゼンとはどういうことかということを理解してもらうまでに、少し時間がかかりました。でも、丁寧に説明してご理解いただければ温かい声をかけてもらえて。あとは、自分ができることを精一杯やれば自ずと結果はついてくるはず。そう信じて精一杯やらせてもらいました」

ラチェットレンチを握っていた右手に、真鍮のウロコ取りを持ち替え、赤魚のウロコのとり方、ヒレのとり方について学ぶところから柳沼さんは始めたと言います。
トヨタ東日本に入社して学んだカイゼンの精神と、自分を信じて。

「まずは2日間くらいかけて、工場内を徹底的に調べました」
柳沼さんはストップウォッチを片手に、どの作業に、どれくらいの時間がかかっているのかを計り、どういった作業を何名で行っているのかを調べていきました。
そんな観点からデータを集計していた柳沼さんはある数字に目が止まります。7,000尾を14名で作業すれば計算上2,885分でできるはず。しかし、現状は4,145分かかっている。どこかがおかしい。
「レーン内に魚が溜まっているなということは気づいていました。しかし、そこだけに目を配ってもダメだったのです」

そう気づいた柳沼さんは、機械の入り口から出口まで、全体を眺めるように観察することにしました。
すると、赤魚のウロコとヒレをとる作業で、ウロコを取る設備のスピードと手作業のスピードのバランスがとれていないことが分かってきました。そこで提案したのが、各工程で割り振られている人数を変えること。ウロコ取り機に入れて出てきた魚を大きなテーブルに集め、取り残したウロコとヒレを6人がかりで取るという流れを見直し、カイゼン後は2名でヒレをとってから、設備に入れ、その後、2名でウロコをとるという方法へと大胆に変更しました。
また、作業の流れをスムーズにするという理由から小さなテーブルを使うことに。魚を溜めないようにすることで、無駄な動きが減り作業がより効率的に行えるようになりました。

ちょっと変えると、変わる!

カイゼン解説コーナー

◎「みんなでやる」は隙を生む。

大量のものを一気に大人数で作業するのが一番効率的だという習慣を疑うことで、人員のスリム化が実現。他の部署に人材をまわせるようになり、深刻な人材不足の問題が解消しました。習慣を疑いカイゼンし続けることで、作業は常に効率化できる。

◎作業は、ちいさくやれ。

大きなテーブルに魚を集めて皆で集まって作業する。効率が良さそうに感じますがそれよりも一定のリズム、スピードを意識し、仕事の流れを良くすることが大切でした。

◎1時間じゃない、3,600秒だ。

魚のウロコを取る作業にどれくらいの時間がかかっているかをストップウォッチで計り、ひとりが60秒で何枚処理できているかを計測。時間を細かく計ることで効率化の糸口が見えてくる。

魚に、
ストップウォッチ?

「正直、最初は、戸惑いました」 と、当時を振り返る工場長の阿部さん。 「それまでは、原料のキロ数に対して人数で割るという考え方をしていましたので。それが、全く違うやり方で、作業する人数も減っている」
以前は、7名で行っていた作業を5名でやるのですから、従業員たちが不安に思うのも当然です。また、大きなテーブルを使った方が作業しやすいだろうと思うのも自然なこと。しかし、小さなテーブルを使用し、作業の流れをスムーズにすることで無駄な動きがなくなりました。

「一定のリズムとか、スピードとかを意識することで、効率がこんなに違うんだと実感しました」
ある女性の従業員の方は、カイゼン後のやり方を初めて体験した時の感想をこう語ってくれました。作業が効率化され、生産性もアップ。さらに人手不足の解消に。まさにWOWです。工場長の阿部さんは、今回の経験を通して学んだことを、他の魚を扱う工程でも実施していきたいと考えています。阿部さんの目には、3ヶ月後、1年後の効率化された工場の様子が浮かんでいるようでした。一方、トヨタ東日本の柳沼さんも自信に満ちた表情でこう話します。
「作るものは違っても、働く人が笑顔になるにはどうすれば良いか考えるところは同じなんだと改めて学びました。従業員の方から『ラクになったよ』と声をかけて貰えることが何より嬉しいですね」

「作業後にタイムカードを押しに来る、従業員さんの声が明るくなりました。それに、リーダーの方たちも変わりました。今日はこっちは30分位早く終われそうだから、何時に、何名、手伝いに行けるよ。なんてやりとりをしています。これは、以前は、あまりなかったことです」
高橋専務は嬉しそうに語ります。

「最初は私の心のどこかに、『トヨタさんの社員食堂でウチの商品使ってくれないかな?』なんて、冗談交じりに思っていました。でも、ストップウォッチで作業の時間を計り出した時に、これ本気だなと。しかも、こんなにも早く結果が出るなんて。実は今、専門の商品開発部門を立ち上げようと思っています。皆で知恵を出しあいお客さまが喜ぶ商品を作り、売上を上げて、それを会社が従業員に還元し、また皆で知恵を出し合う。そういったスパイラルを作りたい。理想論と言われるかも知れませんけどね」

従業員とお客様の期待に応えるため走り続けてきた6年間。
照れ笑いをこぼしながら、未来を語る高橋専務の挑戦は、まだまだ道半ばのようです。

東北WOW後記

TOHOKU WOW EDITOR'S NOTE

高徳海産とトヨタ東日本がカイゼンしたウロコ取り。
まさに目からウロコの方法でした。
クルマと水産業界では、つくるものも、これまで経験してきたことは全く違いますが、
従業員をどうすれば笑顔にできるかという課題に対しては、業界の枠を越えて協働しながら、
新しい方法をつくりだすことは可能なようです。
カイゼンによって人材不足が解消でき、従業員の方たちが明るく元気に。
そしてその経験が、工場長に新しいビジョンを作り、リーダーたちを成長させ、
皆が働きやすい環境を作るために率先して意見を交換し合うようになる。
ひとつのWOWが、二つ目、三つ目のWOWを生み出しそうな予感がします。
古くからある港町では、これから新しい礎を築く硬い土台石がひとつひとつ積み重ねられていました。

HOW WOW YOU

みんなに質問!あの時、どんなWOWがあった?

  • 名前
    高橋伸治さん
    職業
    (株)高徳海産 専務取締役
    好きな魚は?
    銀だら
    地元のお勧め海鮮料理は?
    吉次煮付け、さんまつみれ汁
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    目に見えて効果が出てる。
    考えるだけでなく、具現化するところ。

    (株)高徳海産 専務取締役

    高橋伸治さん

  • 名前
    阿部欽一さん
    職業
    (株)高徳海産 工場長
    好きな魚は?
    カツオ
    地元のお勧め海鮮料理は?
    季節ごとの旬の魚を刺身で食べる
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    違う目線で仕事を見れるようになったこと。
    達成感を感じた。

    (株)高徳海産 工場長

    阿部欽一さん

  • 名前
    柳沼靖さん
    職業
    トヨタ自動車東日本(株) ものづくり研鑽室 主任
    好きな魚は?
    しおから
    地元のお勧め海鮮料理は?
    石巻やきそば
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    スタッフの方の笑顔を見た時に喜んで頂けたと実感した。

    トヨタ自動車東日本(株)
    ものづくり研鑽室 主任

    柳沼靖さん

  • 名前
    相内はるかさん
    職業
    (株)高徳海産 社員
    好きな魚は?
    銀だら
    地元のお勧め海鮮料理は?
    全部美味しいです。
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    カイゼンされた後、とても働きやすくなったこと。

    (株)高徳海産 社員

    相内はるかさん

  • 名前
    佐々木啓子さん
    職業
    (株)高徳海産 パートさん
    好きな魚は?
    マグロ、イクラ
    地元のお勧め海鮮料理は?
    はらこ飯
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    自動車の会社だと思っていたトヨタさんが、こんなことしてるんだ!

    (株)高徳海産 パートさん

    佐々木啓子さん

  • 名前
    赤沼輝恵さん
    職業
    (株)高徳海産 総務部
    好きな魚は?
    銀だら、銀むつ(メロ)
    地元のお勧め海鮮料理は?
    友福丸の海鮮丼、ウニイクラ丼
    研鑽活動の中でWOWだったことは?
    生産効率を上げることで皆が喜んでいたこと。
    多くの方に働いて貰える環境になったこと。

    (株)高徳海産 総務部

    赤沼輝恵さん

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WOW ACTION CLIP
2017.03.22 IWATE

トヨタ東日本が東北の地元企業とともに復興の一端を担い、業種を越えて学びあう相互研鑽活動。今回訪れたのは宮城県石巻市。未曾有の大震災にみまわれたことを機に、高徳水産に勤める熟練の職人たちの多くが引退。業務改善を余儀なくされた工場が取った手段とは?そして一体、どんな「WOW」が生まれたのでしょうか?