「変」なところが私の強さ。特別インタビュー:一の瀬メイ リオ2016 パラリンピック水泳日本代表

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未来を見据える力を持つ、
強くしなやかな隻腕のスイマー。

 1歳半で水泳を始め、7歳の時から目標としていたパラリンピックへ、日本代表として出場を決めた一ノ瀬メイ。19歳ながら、得意とする200m個人メドレーなど、すでに5つの種目で日本記録を持っている。先天性右前腕欠損症のために、右腕が人よりも短い彼女にとって、泳ぐことはどんな意味を持つのか? 冷静に、熱く。アスリートとして見つめる自身の可能性について語ってくれた。

一ノ瀬 メイMei Ichinose

1997年生まれ。京都市出身。近畿大学水上競技部。イギリス人の父と日本人の母を持つ。2010年、中学2年生でアジアパラリンピックに最年少の競泳日本代表として選出され、50m自由形で銀メダル。また、高校3年生の時に行われた全英連第8回全国高等学校英語スピーチコンテストで優勝している。

それぞれ特徴を持った体の
可能性を素直に出せるのが、
体ひとつで勝負する水泳だと思う。

リオデジャネイロ・パラリンピック日本代表として、次第に注目が集まっている状況をどう感じていますか?
一ノ瀬
すごく嬉しく思っています。ただ、自分の実力がまだ足りないので、一ノ瀬メイという名前だけ知っていただいても、中身が伴っていないから意味がないなとも思っています。でも、私のことを知ることで、パラリンピックを知るキッカケになるのはとても有難いこと。いろんなすごい選手がいるんです! 私のことを知って欲しいのではなく、ひとつのキッカケになればいいなと思います。
すごい選手とは、どんな選手のことでしょう?
一ノ瀬
みんなが思っているよりも、とりあえず、すごいんです(笑)。出演させてもらったトヨタの「WHAT WOWS YOU.」のCMを見た人からの感想の中で、一番嬉しかったのは「思ったよりバタフライうまいね!」でした。それを聞いて、やっぱりみんな分かってないんだなと(笑)。私でさえ、そう言われるんだから、「みんなが思っているよりすごいねん!」っていうのを知って欲しいんです。
パラリンピック水泳の競技としての面白さはどんなところにあると思いますか?
一ノ瀬
水泳は、自分の体ひとつで戦うのが面白いと思っています。みんなそれぞれ障害や特徴がありながら、でも“ないもの”ではなく“残っているもの”をどれだけ有効に活用するか、どれだけ活かせるかによって勝敗が決まる。
「体ひとつで勝負するところが水泳の面白さだよね」ってパラのみんなで話すんですけど、そうなるとオリンピックに比べると、単に手足が足りなくて遅い人たちっていう風に見えてしまうかもしれない。でも、私はそれぞれの体の可能性を素直に出せる競技が、水泳だと思っているんです。みんな体が違うから、泳ぎ方が違う。重心の取り方さえも人によって違うんです。どこに重心を持っていけばいいんだろうっていうところから始まって、私の場合には体の軸をずらして泳いだり、それぞれの個性に合わせた工夫がある。出場するすべての人に、その人なりの泳ぎ方があるんです。

「違うのはチャンスや」って育てられました。

「人の心を動かす選手になりたい」とかねてから語っていました。どんなイメージの選手でしょう?
一ノ瀬
パラリンピックって、まだまだリハビリの延長だったり、可哀想な人たちが泳いでいるっていうイメージがあると思うんです。でも、そうじゃないっていうことが競技を見たら分かるはず。そして、「そうじゃなかった」と思ってもらった時点で、もう心は動いている。何を感じてもらってもいいんですけど、感じたことによって「自分も行動に起こそう」って思ってくれたら嬉しいです。そういう選手になれたらいいなあって。でもそのためには、まだまだ私の競技レベルが足りないですね。
日本記録を多く持っているのに、ですか?
一ノ瀬
パラリンピックは選手層が薄いんです。オリンピックの予選は地区から市、県、近畿、西日本、全日本と勝ち上がらなければいけないけど、パラは全国大会でも予選をして決勝をするほど人数がいないこともある。だから勝ち抜いたっていう感覚が薄いんですよね。日本代表っぽくないってよく言われるんですよ。もっと偉そうにしたらいいのにって。でも私からしたら、「自分より早い人が世界に10何人もいるのに、どうやって偉そうにするねん」って。自分が目指しているのは、日本一じゃないから。

一ノ瀬さんの言動を見ていると、意志の強さを感じます。心を一定に保つようにしているのでしょうか?
一ノ瀬
いえ、水泳に対してはそうでもないですが、むしろ心の浮き沈みの波は激しいです(笑)。映画でも音楽でも、すぐに心が動きますから。それから人と感じるポイントが違うということがあるかもしれません。中学の時から、「変」ってずっと言われてました。言われたら、「ありがとう」って感じです。「普通」って言われると「おもろないな」って。ハーフで腕が短いのに、「普通」って、どれだけ普通やねんってなるから……(笑)。
 親からは「違っていいよ」、「違うのはチャンスや」って育てられました。もしも意志が強く見えるとしたら、そのおかげかもしれません。

水泳は、人間的成長が、
結果に繋がるんです。

泳ぐことは楽しいですか?
一ノ瀬
水泳は裏切らないんですよ。いつも大事な試合前に聞くCharlie Brownというミュージシャンの『On My Way』という曲に、「you are so hot but I`m on fire」っていう歌詞があるんです。見た目がカッコイイ人はなんぼでもいるけど、自分は「on fire」、思いを熱く持っていたらいいんだって。この歌詞を聴いた時に「これや!」と(笑)。水泳に対してはそういう感覚なんです。
 チーム競技や対戦競技と違って、水泳はやってきたことがすべて記録として出る。誰にも邪魔されずにスタートからゴールまで泳ぐことが出来て、ほぼどこでも同じ環境がある。だから水泳は裏切らないんです。
パラリンピックの代表選考会でも、一気に4秒も自己ベストを更新していました。
一ノ瀬
去年1年間は、練習量が増えた割にタイムが出ないっていう1年だったんです。でもいろんな人から「我慢」だと言われていて。勉強とスポーツは同じで、なだらかに成長することはなくて、ある時点から一気に結果が出るらしいんです。「いつかグッと急激に結果が出る、でも選考会に間に合うかどうかは知らない」って言われてました(笑)。間に合うって信じて続けてきたので、選考会で短くできた4秒は、それまでの1年間に貯めた4秒だと思っています。出るべきものをちゃんと出せた。ギリギリで選考会に間に合いました(笑)。
水泳は、人と競うというより、むしろ自分自身と戦っている、ということでしょうか?
一ノ瀬
それが向いているかなと思います。チーム競技だったら人がミスをしたら絶対ムカついてしまうし、なんでも自分でやろうとしてしまう(笑)。
 水泳は、人間的成長が直接的に結果につながっているような気がします。そこがすごく好き。「人間力向上なくして、競技力向上なし!」ってよく言われますから。
 私には向いているスポーツですね。

リオでの一瞬一瞬を味わって、
噛み締めて、持ち帰って、
東京までの4年間を過ごしたいんです。

リオデジャネイロ・パラリンピックの目標を教えてください。
一ノ瀬
全種目自己ベストで、決勝進出。金メダルとは、まだ絶対言えないですから。まだまだ遠い。でも、2020年の東京では、メダルを取りたいんです。そのためには一回パラリンピックっていうものを経験しておかなきゃいけない。実際に出場された先輩からも、「パラは別格」ってずっと小さい頃から言われてきたので、現地での雰囲気を味わって、噛み締めて、持ち帰ってきて4年間過ごしたい。経験せずに4年間過ごすのとでは、全然結果が違ってくると思うので、楽しんで、一瞬一瞬を噛み締められたらいいなと思います。
 それからブラジルは、応援がすごいはず。会場はコンパクトなので、相当すごい熱気だろうなと。
周囲の期待が、プレッシャーになることはないですか?
一ノ瀬
自分の納得のいく練習ができていれば、プレッシャーには感じない。でも、練習ができていない時の応援は、プレッシャーになってしまう。自分が自分自身に一番期待している状態だったら、周りが自分に期待していても何も思わないんですけど、練習ができていないと自分に期待できないから、周りの期待ばっかりが目立ってしんどくなっちゃう。
では、納得いくまで練習できたことはありますか?
一ノ瀬
はい。代表選考会の時がそうでした。自分の練習に満足して、試合が楽しみで仕方なかった。早くタイムを出したいっていう感じでした。スタート台に立った時には、自分がすでにリオデジャネイロ・パラリンピック代表のつもりでしたから。そういう感覚があるんだって、私も初めて知りました。
 でも、吐き気がするほど緊張するんです。水泳部のみんなとよく話すんですが、「なんでまたここに戻ってきたんやろう」って。「泳ぎ終わった後が気持ちいいからやんな」って。きっとリオでは、信じられないくらい緊張すると思うけど、でも、だからその後の気持ち良さも今まで味わったことのないものなんだろうなと思ってます。
(2016年6月25日 近畿大学にて)
写真:
松本昇大
文:
村岡俊也

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