ACTIONCLIP 特別篇:時速100kmで滑走する、超人を見たか。

トヨタが主催、参加するイベントの中で、
心が揺れ動く瞬間を見つけていくACTION CLIP。
今回はトヨタ自動車に所属し、
障がい者スキーの日本代表として活躍する森井大輝選手が出場した
「2017 IPC アルペンスキーワールドカップ白馬」に潜入した特別篇です。
平昌パラリンピックまであと1年。
さらに、9年ぶりに日本で開催されるワールドカップと注目が集まる中、
今大会に挑んだ森井選手。 迫力あふれるレースはもちろん、
ゴール前で声援を送った応援団にもたくさんのWOWがありました。

海外で、
僕は“ガール”だった。

「自国開催ということもあり、
日本の皆さんにチェアスキーをはじめ、
障がい者スキーの魅力を知ってもらう最高の機会だと思っています」。
笑顔でそう話してくれた森井選手が出場する
2017 IPCアルペンスキーワールドカップ白馬大会が、
2017年3月5日から6日にかけて開催されました。
世界14ヵ国から障がいを持った約100名のトップ選手が長野県白馬村に集結。
初日には、80名のトヨタ応援団も東京本社や
豊田市本社からバスツアーで到着します。

笑顔がステキな森井選手ですが、
今から約20年前の1997年6月にバイク事故で歩くことができなくなった時は、
心の底から笑えなくなってしまったそうです。
将来への不安に包まれながらの入院生活。
失意のどん底にいた森井選手に希望をもたらしたのが、チェアスキーでした。
出会いは、事故の翌年に開催された長野パラリンピックだったそうです。

テレビの中で同じように障がいを持った選手たちが、
奥歯が見えるくらい笑いながらハイタッチをしている姿に
「スポーツをすれば、また心の底から笑えるかもしれない」
と思った森井選手。投げやりにしていたリハビリを、
チェアスキーを始めるためのトレーニングだと意識して
取り組むようになっていきます。

障がいを持って初めてゲレンデに立った日から滑ることができ、
始めて7日目には国内のレースに出場して2位という結果を残します。
もちろん、最初から滑れたわけではありません。
「初めて滑った時はターンができず、何回も転びました。
2回目に滑る時もリフトを降りたところで倒れてしまって。
その時、父親がからかい半分に
『なんでこんなところで転んでるんだよ』 と言ったんです」

カチンときましたね(笑)。
見返してやろうと直滑降で滑ったら、
スピードが出たことで安定感が生まれて、
連続でターンができるようになったんです」。

順調に結果を残していった森井選手でしたが、
海外の大会ですごく悔しい思いをしたこともありました。
「体格が全然違ったんです。試合のゼッケンを着るとブカブカ。
だから、女の子が水着にTシャツを着る時に余ったところを
キュッと結ぶようにしたんです。
レースでは、自分の後にスタートする選手に一言
『グッドラック』と声をかけてスタートを切るのが恒例なんですが、
僕の前の選手に笑いながら『ヘイ、ガール』と言われました(笑) 」。
身体の大きさというのは努力の量。
海外選手の一言からウェイトトレーニングに力を入れるようになり、
これまでにパラリンピック4大会で銀メダルを3つ、
銅メダルを1つ獲得するまで成長したのです。
今回のワールドカップは、1年後の平昌パラリンピックに向けて大事なレース。
そして、80名のトヨタ応援団に、
チェアスキーの魅力を最大限に感じ取ってもらうために、
森井選手の戦いが始まります。

コラム①そもそも、チェアスキーってなに?

パラスポーツ(障がい者スポーツ)の中でも、座位で行うアルペンスキー競技のこと。下肢に障がいを持つスキーヤーが、座席にスキー板を固定して、上半身の力だけで身体を傾けながら滑ります。実は「チェアスキー」と呼ぶのは、日本だけ。海外での正式な呼称はsit-ski(シットスキー)です。気になる乗り心地は、自転車とスキーを足して2で割った感じだと森井選手が教えてくれました。

最大の敵は、
日本の雪。

日射しが強く、寒さを感じさせなかった3月5日。
この日に行われるアルペンスキーの大回転は、
2回滑った合計タイムで順位を争います。
前日の開会式後に森井選手は
「普段、拠点をヨーロッパに置いているので、
練習で久々に日本の雪を滑りました。すごく独特。
海外と違って狙ったラインを描きにくいですね
と少し心配していました。
気温が高くなった当日。それが、吉と出るか、凶と出るか。

ゴール前に次々と応援団が集まり始めた9:00。
ワールドカップ白馬大会の火蓋が切られました。
そして、森井選手が心配していたことが的中してしまいます。
気温が上がったことで、雪質がさらに変化。
思い描いたラインからズレてしまい、急斜面で穴にはまって転倒。
コースアウトは逃れたものの、タイムは納得いくものではありませんでした。

「いやー、悔しいな」と苦笑いする森井選手。
でも、その表情は曇っていません。
応援団も2本目の巻き返しに期待します。

攻めた中での失敗だった1本目から一転、
2本目は世界でも戦えるタイムでゴール。
しかし、他の選手も好タイムを出していたため、
2本の合計順位は6位。
残念ながら目標としていた表彰台を逃してしまう結果に。

「トヨタの皆さんに少しでも良いところを見せたくて、
2本目はリスク承知で攻めたんですけど、すごく残念です。
でも、本当に皆さんの温かさが僕の力になっています。
今日の結果は悔しいけれど、応援に来ていただけたことが嬉しいですね」。
レース後に自らの結果を気にしつつも、
はるばる応援に来てくれたトヨタ応援団に感謝の言葉を口にした森井選手。
それは何度も言っていた “もっと多くの人に障がい者スキーを
知ってもらいたい。迫力や凄さを感じてもらいたい”
という障がい者スキーが競技として盛り上がることに喜びを感じているからこそ。
日本代表として、世界中に向けて障がい者スキーの魅力を発信している
森井選手らしさかもしれません。

実は緊張していたことを、こっそり明かしてくれました。
「普段のレースだと、こんなに多く観客がいることが珍しくて。
今朝の時点で、3倍から4倍くらいの方が応援に来ていて、
いつもとは違うレースだと感じていました。
海外で開催されるワールドカップでも、こんなに応援があることはないので。今日は特別緊張しました」。

特別な日だったからこそ、表彰台に上がることで応えたかったはず。
しっかりとしたパフォーマンスを発揮し、
障がい者スキーの魅力を何かしら感じ取ってもらう。
その想いと今日いただいた声援を力に、翌日のレースでは表彰台を目指します。

コラム②チェアスキーの構造とは?

チェアスキーはスキー板のほかに、シート、フレーム、サスペンションで構成されています。選手の 体格にあわせて、部品開発やサスペンションの調整をする専門メカニックもいるほど。スキー板の固定は、スキーブーツと同じ方法です。初心者は2本板(バイスキー)、上級者は1本板(モノスキー)を使用。両手にはストックの先に短いスキー板がついたアウトリガーを装着します。ちなみに上級者になると、時速100km以上で滑ると言われています。

1日遅れた、
優勝報告。

トヨタ応援団の声援をたくさん浴びた翌日、
スーパー大回転が開催。前日の大回転とは異なり、
この種目は1本勝負です。
ただ、天候の関係で2日かけて2戦行う予定が変更になり、
1日で2戦行うことになりました。
1戦目は5位。消極的なレース展開になってしまったとのことでしたが、
2戦目は見事、優勝!9年ぶりの日本開催のワールドカップで、
表彰台の一番高いところに上がることができました。

「なかなか日本の皆さんにパラスポーツを生で見てもらうことも、
こうやって取り上げていただくことも少ないので、
自国開催で優勝という結果を残すことができたことは、すごく嬉しいです。
また、これを機に障がい者アルペンスキーのことを知ってもらって、
興味を持ってもらえたら、もっと嬉しいですね
と閉会式で話してくれた森井選手。この日の結果は、
前日のトヨタ応援団の声援がきっと大きな力となったはずです。

続けて、1年後の平昌パラリンピックについても想いを語ってくれました。
まだパラリンピックで獲ったことがないメダルがある。
それが金メダル。それを目指して、巧さと速さを両立していきたいです」。
タイムを縮めることはリスクと背中合わせ。攻めすぎれば、
転倒につながります。どこまで攻められるか。
自身の技術を高めていく中で、その見極めも重要だそうです。

そして、優勝メダルを手に照れながら
「1日遅くなりました。日本で優勝できました。
応援ありがとうございました」とトヨタ応援団に向けても、
感謝の言葉を述べてくれました。
ヘルメットのトヨタロゴを誇らしいと話す森井選手。
いつもレース後に社員へ報告メールを送ると、どんな成績だったとしても、
5分も経たない内に「おめでとう」「悔しかったね」と返信が届くそうです。

トヨタには社内全体に応援する雰囲気があり、
アスリートとして命をかけてもいいくらいの
バックアップ体制が整っているとのこと。
また、道具を使う競技なので、今後、
クルマづくりの技術とのコラボレーションにも夢は膨らむ。
スポーツを通じて心が一つになる、それを実感できる
輪は広がっていきそうです。

森井選手は今大会後、どのようなメールを送ったのでしょうか。
社内全体でサポートしていく環境がある限り、
森井選手はアスリートとしての成長はもちろん、
障がい者スキーの認知度を高めるために活躍し続けていくはず。
1年後の平昌パラリンピックで、目標とするメダルの獲得に期待しましょう。

コラム③冬季パラリンピックってどんな競技があるの?

現在の冬季公式競技は、アルペンスキー(滑降、スーパー大回転、大回転、回転、スーパー複合、スノーボード)、バイアスロン、クロスカントリースキー、パラアイスホッケー、車いすカーリングの6競技。パラリンピックの各競技種目は、同一レベルの選手で競い合えるように、障がいの種類、部位、程度によってクラス分けが行われています。森井選手のアルペンスキーは立位(立って滑る)、座位(座って滑る)、視覚障がいの3カテゴリー制です。

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