感覚のメカニズムを解明
今回、新型カローラとカローラ ツーリングのサスペンションを設計する上で、全く新しい考え方を導入しています。そのきっかけとして、チーフエンジニアから、「今度のカローラとカローラ ツーリングは、あらゆる層のドライバーにとって、いつまでも走り続けたいと感じるような、そんなクルマにしたい。」という思いをぶつけられたこと。さらに評価と設計、それぞれの持ち味を活かしつつ「驚くようなクルマに仕上げて欲しい」という要望が届けられたことが背景にありました。いつまでも走り続けたいクルマとはどういうものだろう? それを考えた時、既存の定量化された数値だけではなく、ドライバー目線での改良をもっと盛り込んだ方が良いのではないかという結論に達しました。
実際、われわれ設計側にとっては、ある路面を◯◯km/hで走った時、G(重力加速度)がクルマに対してこんな方向にかかる。その大小はこんな風に変わるといった数値を元に開発するのが1番わかりやすく、しかもやりやすい。しかし今回は評価を担当した匠テストドライバーからの評価とフィードバックが、設計側が計算で弾き出したものと必ずしも一致しなかったわけです。もちろんこれまでもそういうことは多々あって、その都度すりあわせを行ってきています。しかし、今回は単なるすりあわせを超えて深掘りを行いました。数値の大小で表せない事実を謙虚に受け止め、ドライバーがネガティブと感じる別の現象があり、それは人間の体幹に影響しているのではないか、という考えを導入することとなりました。たとえば、車体が大きく揺れても、それをドライバーが予測できていれば姿勢を保つことができる。そういった現象のメカニズムを解明することで、ドライバーがより自然に予測できる動きを取り入れた足回りを設計しようと決心したわけです。
「自然な動き」を
突きつめる
開発の途中、ある競合車との比較評価試験の過程で、匠テストドライバーから「動きが自然ではない」と言われたことがありました。言葉の意味は理解できても、「具体的に自然ではないとはどういう動きなのか?」ということを考えると頭を抱えてしまうわけです。自然な動きはどうすれば再現できるのかということから始まり、計測やシミュレーションを重ね、最終的にドライバーが予測できるクルマの動きはどうすればできるのか? ということを突き詰めていきました。今では動き方も数値で説明でき、クルマが変わっても再現性のあるセッティングが可能となりました。
先行していたカローラ スポーツは、新開発のショックアブソーバーを導入し高い評価を得ていますが、今回のカローラとカローラ ツーリングは、セッティングを最適化することでより高い次元へ正常進化させています。お客様にも理解しやすい解説としては、ショックアブソーバーの摺動部しゅうどうぶ(ピストンやロッドなどの可動部)のフリクション(摩擦抵抗)をコントロールし、結果的に減衰力(別項の解説を参照)を弱めに設定することで、カローラの場合は操縦安定性と乗心地の両立。カローラ ツーリングやカローラ スポーツでは、減衰力を上げることで、よりスポーティーな走りに振った足回りにできる。新開発アブソーバーは懐が深く、クルマのキャラクターに合わせたセッティングができ、しかも上質に仕上がります。
トヨタ史上最高の
フラット感
こうした新たな手法で開発したサスペンションを装着したクルマを実際に運転してみると、面白い結果が現れました。いわゆる荒れた路面にクルマを乗り入れた時、クルマが上下に揺れても、ドライバーの身体は揺れない。視線もブレない。視線がブレないということは不安になることがないし結果的に疲れの原因にもならない。これは匠テストドライバーに限らず、ビギナーからベテランまでどんなレベルのドライバーであっても体感していただけると思います。
身体が動かずに視線もブレないというのはかなり重要な要素で、ブレというノイズが減ることでハンドリングの直結感も良くなる。全体の質感を向上する大きな魅力だと思っています。さらにもうひとつ、コーナーや交差点を曲がるためステアリングを切った時に、自然な荷重移動が生じるようなセッティングを行っています。これもショックアブソーバーの前後のバランスを最適化したことで実現したセッティングです。お客様が、たとえ街乗りレベルでも「自然で曲がりやすい」と実感していただけるポイントだと思います。
走りのプロも認めた
匠テストドライバーは、◎○△×の評点にコメントを添えて審査します。今回のカローラはトヨタ車としては初めて◎を取得しました。すなわち、カテゴリを超えてNo.1の実力がある。私は自信を持って「最強のドライバーズカー」だと将来のお客様に対してお勧めしたいと思います。1日仕事を頑張って、さあ帰ろうとクルマに乗り込み、走り出した途端に運転が楽しくて疲れが吹っ飛ぶ、そして明日の活力が湧いてくる、そんなクルマです。そのうえで見た目も装備も一級品。理想的ですよね。