TOYOTA COROLLA DEVELOPER STORY

ボデー設計とエクステリアデザイン

ただのスタンダードでは決して終わらせない。

トヨタにとって、伝統あるスタンダードモデルであるカローラに新たな価値を創造する。選択することに
誇りを持つことができる一台に仕上げるにはどうすればいいのか。そこにはベーシックを
ただのベーシックでは終わらせないというデザイナーの熱い思いがあった。

人物写真
トヨタ自動車株式会社 MSカンパニーMSデザイン部グループマネージャー
藤原 裕司
カローラシリーズ全体の外形デザイン及びスタイリングをリーダーとしてとりまとめる。
藤原

車型の違い。
それは、
ライフスタイルの違い。

今回、新型カローラの外形デザインを手がけるにあたって、チーフエンジニアに言われたのは、新型カローラはグローバルでデザインを統一する。しかし市場の特性から、日本専用仕様は同じシャシープラットフォームを使いながらもサイズを少し縮小するということでした。そこでカローラとはトヨタにとって、そしてお客様にとってどういうクルマが良いのか?ということを、チーフエンジニアや営業部門と議論を重ね、新しいモデルは「ベーシックカーのイメージを覆すスポーティなクルマにしたい」という事で一致しました。

ご存じのとおりカローラシリーズは、ベーシックモデルとして長くお客様に愛されています。しかし、単なるベーシックというクルマでは、我々が目指した方向性とは異なる。そこで、ベーシックなモデルとしてスタンダードを目指したクルマではあるけれど、「ただのスタンダードには終わらせない」という方向性で、試行錯誤を繰り返しました。

カローラの根幹はぶらさずに、3車型のライフスタイルの違いを表現した。

カローラシリーズには、カローラという名のセダン、カローラ ツーリングという名のワゴン、そして、カローラ スポーツという名のハッチバックという3つの車型があります。そして、それぞれが想定するユーザー層のライフスタイルも異なるのは言うまでもありません。ただ、全体をつかさどるデザインを大きく変えるつもりはありませんでした。あくまでカローラという大前提があって、基本となる方向性も同じ。違いはボデータイプのまとめ方だけです。カローラは室内スペースを確保しながらも美しいカローラとしてのフォルムであって欲しいし、カローラ ツーリングは少し遊び心があるスタイルをプラスし、レジャーシーンに映えるものが好まれる。カローラ スポーツはさらに走りが良いイメージですね。それぞれの想定ユーザーのライフスタイルの在り方を、中心となるコンセプトの中でしっかりと兼ね備えたのがカローラです。

車名、それは
アイデンティティ

もうひとつ、新型カローラをデザインするうえで常に頭の中にあった大切なことは、車名に込められた想いです。初代カローラが誕生した時代は、日本の経済成長と共に人々の暮らしが豊かになり始めた頃でした。当時トヨタのベーシックカーと言えばパブリカというクルマでした。クルマに乗れること自体が幸せな時代から、経済的にも気持ち的にも豊かな未来への転換期だったと思います。カローラという単語自体は、花冠、花の最も美しい部分を意味します。日常の中に咲く美しい花のような「プラスアルファの嬉しさ」みたいなものがアイデンティティとなり、その時代時代に合わせて引き継がれています。

感じるスポーティー

新型カローラのデザインでは、ベーシックカーのイメージを覆すスポーティー方向を目指したと先ほど述べましたが、それは単なる「見た目だけのスポーティー」ではなく、「感じるスポーティー」を目指したということです。つまり上辺の派手さではなく、なんだかわからないけどこのクルマすごく格好良いよね?! と思ってもらえるような本質的な格好良さ。それは目に見える形をデザインする前に骨格からデザインするということから始まります。

とはいえ、実際にこれを実現するためにはシャシーも含めた総合的な部分での再構築が重要となるわけです。そこで新しいTNGAプラットフォームが大きな助けとなりました。低重心でワイドスタンス、スポーティーに感じる佇まいの良さ。これを我々は「しっかりした体幹を作っていこう」という文言で表していました。

体幹がしっかりした
姿勢の良いクルマ

体幹というのは、元々は人間の身体構造を説明する時に使う言葉で、クルマで使う例はほとんどありません。人間の場合、体幹がしっかりしているということは、優れたアスリートを見てもわかるようにまず姿勢が良い、すなわち格好が良いという意味であることは理解していただけると思います。クルマの場合も考え方は同じで、一見した時に感じる佇まいの良さ=格好が良いスタイル。それをこれ見よがしな造形ではなく、自然な形で表現したのが「体幹がしっかりしている」という意味だと言えばわかっていただけるでしょうか。

見た目にも、
楽しいクルマへ。

仕事をする上では、常に100%を目指してやっていることは言うまでもありません。ただ、デザインフェーズの終了から世の中に製品として出るまでに時間は経過します。完成したあとに「ここはもう少しこうすれば良かった」という部分は必ず出てきます。自分の中で思っている部分ですけどね。そこが課題です。

最後になりますが、私がお客様に直接カローラをおすすめできる機会をいただけるのであれば、まず「格好良いでしょ?」と話しかけようと思います。デザインというものは、言うまでもなく万人に受け入れられるものではなく、そこをどう乗り越えるかということですが、基本は自分のセンスを信じて提案するだけです。「格好良いでしょ?」から、「乗ってみるとまた違う楽しさがありますよ」と話を進め、その結果として「格好良いスタイリングとしっかりした走りがマッチしているでしょう」とまとめる。こういったところを感じていただければ嬉しく思います。