EVENT REPORT

日本最大級のデザインの祭典に新型クラウンが登場

2023.11.10

日本最大級のデザインの祭典「DESIGNART TOKYO(デザイナートトーキョー)」。2023年のこのイベントには、新しいクラウンも“参加”している。異分野のクリエイターはクラウンのデザインからなにを感じたのか。斬新なクラウンのデザインはどのように生まれたのか。デザインという切り口で、新型クラウンを振り返ってみた。

日本から世界に向けて発信する

10月20日(金)から10月29日(日)にかけて、日本最大級のデザイン&アートフェスティバルである「DESIGNART TOKYO 2023(デザイナートトーキョー)」が開催された。

このイベントは、東京の街全体がミュージアムに変貌するという大規模なもの。デザイン、アート、インテリア、ファッションなどの多彩なプレゼンテーションが行われ、展示数は過去最大の108を数えた。

「DESIGNART TOKYO」には、8つのエリア、83の会場を移動しながら東京という街を知るという楽しみ方もある。今回、オフィシャルカーとして新型クラウンが出展され、このイベントのためのラッピングが施されたクラウン(クロスオーバー)が観覧者の移動をサポートした。また、メイン会場となるワールド北青山ビルのエントランスには、クラウンとクラウン(スポーツ)が展示された。

クラウンが「DESIGNART TOKYO」に出展したのは、「東京を発信源に世界のクリエイティブシーンが交流するプラットフォームを目指す」というコンセプトに共感したからだ。新型クラウンもやはり、日本から世界に向けて新しい価値観を発信しようとしているのだ。

「DESIGNART TOKYO 2023」に先がけて、10月6日(金)から10月8日(日)にかけて東京・六本木ヒルズで開催した「CROWN STYLE PARK」では、デザイナート株式会社のCEOを務める青木昭夫氏がイベント会場のプロデュースを担当した。

このイベントは、クラウン(スポーツ)を発表すると同時に、4つのスタイルのクラウンを同時に見ていただくものだった。ただし「CROWN STYLE PARK」は、一般的な新型車の発表会とは趣が異なった。青木氏のプロデュースによってそれぞれのクラウンの世界観や、クラウンが実現するライフスタイルをファッションやインテリア、アートなどで表現したのだ。(空間デザイン、スタイリングを手掛けたのは空間デザイナーの松村和典氏)
この取り組みは好評で、特に若い世代や女性からは「クラウンというクルマを身近に感じることができた」という声が聞かれた。
六本木ヒルズのイベント会場では、青木氏本人から4つのスタイルのクラウンそれぞれで何を表現したのかをうかがったので、ここに紹介したい。

クラウン(クロスオーバー)は、「GEOMETRIC LANDSCAPE 価値の融合と革新」が展示テーマだった。

「SUVと乗用セダンの融合という、新しいジャンルのクルマです。都会的な生活のアーバニズムと、自然を融合させるという展示になっています。具体的にはMAGIS(マジス)というブランドの木と金属を組み合わせたデザインの家具などで、自然の柔らかさと都会的なシックさの融合を図りました」

クラウン(スポーツ)の展示テーマは、「SPRINT TO SHINE 疾走する煌めき」だった。

「このクルマは躍動感があり、乗る人の気持ちを高ぶらせてくれるスポーティなモデルです。そうした煌めきや高揚感をポップに表現したいと思い、KAWS(カウズ)のアート作品などを展示しています。実は『DESIGNART TOKYO 2023』のテーマが「SPARKS 〜思考の解放〜」というもので、コロナ禍の閉塞感から打って出ようという意味を込めています。個人的には、クラウン(スポーツ)と通じるものを感じました」

クラウン(エステート)は、「URBAN NATURE 都市と自然の融合」が展示テーマ。
「このクルマは、フロントグリルの意匠が4台のなかで最も現代的だと感じました。サーフボードやキャンプ道具などを満載して出かけるという側面と、大人びたスタイリッシュさという二面性、ハイブリッド感が興味深い。そこで、アウトドアと都市の両方で使えるバッグとか、見る角度によって素材感が変わる家具を展示しました」

4ドアセダンのクラウンの展示テーマは、「CONTEMPORARY ZEN 現代的な日本らしさ」。

「日本の伝統的な建具に障子がありますが、和紙の代りに金属のメッシュを用いた障子を背景にしています。障子特有の“透け感”は残しつつも、モダンな印象になります。西陣織のHOSOO(細尾)さんが手がけた織物も、AIを用いたジェネレーティブデザインで、和の伝統と現代的なテクノロジーを組み合わせたものです。こうしたアイテムの組み合わせで、現代的な日本らしさを表現したつもりです」

「CROWN STYLE PARK」は、3日間でのべ6000人以上を集める盛況となった。青木氏はたくさんの人で賑わう会場を見ながら、このようにまとめた。
「お客さんがクラウンをみる顔つきが真剣で、これが食らいつくっていうやつだなと思いました。魂が伝わるというか、開発者とそれを伝える人の気持ちがきちんと届いていることを実感しています。普通の新型車発表会はクルマが中心だと思いますが、でもこれだけライフスタイルを表現すれば、クルマやクラウンにそれほど関心がなかった人でも本気で見てくれるということが心に残りました」

クラウンが変わると、日本の景色が変わる

冒頭の「DESIGNART TOKYO 2023」のオープニングでは、新型クラウンのチーフデザイナーを努めた宮崎満則と、クラウン(クロスオーバー)とクラウン(エステート)の外形デザインを手がけた矢野友紀子も登壇した。

オープニングイベント終了後に、ふたりにクラウンの開発現場の裏話などを聞くことができた。

クラウンのデザインを担当するにあたって、宮崎には「若い人にやってもらいたい」という思いがあったという。宮崎が、振り返る。

自分がクラウンのチーフデザイナーになったら、若い人に自由にやってもらいたいと思ったんです。今の若いデザイナーは感性が豊かでスキルも高い。だから若い人に任せて、社内から意見を言われたら自分は防波堤になりたいと、ずっと思っていました」
宮崎の発言を受けて、矢野はこう語る。

「確かに、怖いものはなにもなくて、かなり自由にやらせてもらいました。私が入社した頃は、クラウンを担当するメンバーは精鋭チームというか、スキルの高いベテランばかりでしたが、今回は20歳代半ばから後半のメンバーが多くて、ほとんど新入社員みたいな若手もいます。私は、クラウンを私たちの世代が憧れるようなクルマにしたいという思いがありました」

ただし宮崎は、「でも最初に、セダンに興味がある? と矢野に尋ねたら、興味ないと言われたんですよ」と苦笑する。

SUVとかミニバンばかりで、生活の中にセダンというものが存在しないんですね。でも僕は個人的にセダンが大事だと思っているので、みんなにもう一度セダンについて考えてみてよって声をかけたんです。いろんなセダンを見たわけですが、セダンを知れば知るほどフォーマルさや車の基本を表現できる事を若い人も理解しました。しかしその反面SUVが流行っている理由もわかってくるんです。安心感やカジュアルに使えるとか機能性だとか。そこから、いまの時代のセダン、リフトアップしたセダンというクロスオーバーが生まれました」

宮崎は、いいクルマ、格好いいクルマをデザインすることの先も見据えている。

「たとえば地位の高い方が新しいシルエットのクラウン(クロスオーバー)から降りてきたら、日本の景色が変わると思います。威厳とか威圧感を感じさせるクルマではなく、クラウン(クロスオーバー)の様なクルマが増えることで日本がスマートな方向に変わってくれるといいなという個人的な希望があります」

矢野も、自身が手がけたクラウン(クロスオーバー)が街を走っているのを見るようになって感じるものがあるという。

「やはり存在感が違うなと思います。パッとすれ違っただけでも、すぐにわかるそういうオーラみたいなものが残っているのは、すごく嬉しいです」
クラウン(エステート)のデザインについて、矢野はチャレンジングだったと振り返る。

「車両の中心からタイヤに向かって張り出していくフェンダーまわりの造形が、いままでのトヨタのデザインの常識を覆すものだったので、これをモノにするのは難しいという声もいただきました」

矢野の発言を、宮崎が補足する。

「説明が難しいことですが、立体というものは最終的に閉じていかなければいけないのに、外に向かって広がっていく形なんですね。だから常識からは外れているんだけれど、そうしないとボディにきれいに映り込む、リフレクションは実現できなかったと思います」

矢野は、生産技術の現場とのやりとりも明かしてくれた。

「フードのキャラクターラインをこのままだと製造が難しいから2ミリ戻してくださいという依頼を受けましたが、イヤですと答えました(笑)。でも生産技術の方もデザイナーの考えを理解してくれて、会社として大きく変わりつつあることを感じました」

宮崎は、次のようにまとめた。

「ここ数年で社内が、本当に変わったと思います。部署間の垣根がなくなって、ワンチームでいいクルマを作ろうという組織になっています。いいクルマを出して、それが評価されるからもっといいクルマを出そうというモチベーションが上がる、いいサイクルになっていると思います」

クラウンは大きく変わった。ただしこれはクラウンだけの変化ではなく、トヨタのクルマづくりが良い方向に向かっていることを示しているのだ。