ホテル、ギャラリー、そして自社移転。
続々と進化する前橋の景色。
ア
イウエアブランド「JINS(ジンズ)」を手がける株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEOの田中仁さんが、地元・前橋の地域貢献活動を本格的に始めたのは2013年。そこから、自身の財団を設立し「群馬イノベーションアワード」の設立、「群馬イノベーションスクール」の開校など、地元の起業家支援を行ってきた。上場企業のCEOでありながら、私財を投じて地域のために力を注ぎ、現在、その活動は経済だけでなく、教育や文化、街づくり全体にまで及ぶ。
その活動の源泉はいったいなんなんだろう。
田中さん、どうしてここまで前橋の街づくりに力を入れているのですか?
田中 いや、最初から今の状態を考えていたわけではないんです。はじめは起業家の1人として、地元・前橋に貢献できないかと考えてはじめました。前橋の人って、起業家精神に溢れていて、ビジネスを作っていく風土があると思っているんです。さらに、私自身もそうですが、地域のために一肌脱ごうという気質の文化があるんですね。それで『めぶく。』というコンセプトで、新しいビジネスや社会の芽吹きを生むことに貢献しようと思って始めたんですよ。
「めぶく。」は、2016年に前橋市が発表した官民一体の地域活性化コンセプト「前橋ビジョン」のキーワードですね。そこから起業家支援だけでなく、街づくり全体に関わっていくことになるんですよね。
田中 起業家支援を始めて、いろんなものが芽吹き始めると、逆にいろんな課題も見えてきます。シャッター街となった商店街をどうやって活性化させるのか。その課題の象徴のような存在が、この白井屋ホテルでした。私は、前橋を唯一無二の存在にしたいと思っていたので、老舗旅館である白井屋ホテルを、世界から人が来たくなるような唯一無二のホテルにしようと決意して、全面的にプロデュースすることにしたんです。
そして、現在、ご自身の財団を通じた活動だけでなく、田中さんが代表である「JINS」の組織や働き方に関しても、前橋との関わりが深くなっていますよね。2027年には東京の本社機能の多くを前橋に移転するそうですね。
田中 本社の移転は、街づくりというよりBCP(Business Continuity Planning-事業継続計画)の観点が大きいですね。コロナ禍のように。人が密集した大都市が(災害や疫病などで)機能しなくなることは経験済みです。さらに日本には災害の危険も多い。そんな中で前橋は(比較的)地震も少ないですし、経営の機能を分散させるには最適だと思っています。
JINSの従業員の方からすれば、移り住む街が魅力的であった方がいいですよね。そういう点でも、前橋の街づくりは「JINS」にとっても重要なミッションになりますね。
田中 そうですね。実際、観光だけでなく、教育や経済分野でも充実してきています。大手のコンサル会社さんである、デロイト(トーマツコンサルティング)さんやアクセンチュアさん、さらにミシュランさん(日本ミシュランタイヤ)なども続々、群馬に拠点を開設しています。2025年には前橋国際大学でデジタル分野について研究する「サイバー文明研究センター」が新設されて、國領二郎博士(日本の経営学者。専門は経営情報システム)が就任されます。こうした方々が前橋を拠点にするということは、それだけ前橋が魅力的な街になってきているということなんだと思います。
全部、田中さんが仕掛けられたのですか?
田中 いえいえ(笑)。そんなことはないですよ。最初こそ、私や、私が声をかけた仲間が集まって始まりましたが、そうした方々からさらに輪が拡がって、たくさんの人や企業が前橋に注目してくれて、集まるようになってきたんだと思います。
歩くたびにワクワクする。開かれた都市設計
田 中さんを中心に、多くの起業家やアーティスト、クリエーターの輪が広がり、どんどん進化していく街・前橋。そのエポックな施設たちの魅力は、別の記事でも詳しく紹介しているのでぜひ読んでほしい。取材を通じて編集部が感じたのは、なんといっても「開かれている」ということ。よそ者を受け入れる文化だけでなく、各所に点在する新しい施設自体が、気軽に入り込み、コミュニティを作り出す装置のようになっている。そんな「輪の拡がり」を感じさせる施設について、田中さんの想いを聞いていこう。
まずは、白井屋ホテルについて。数々の著名アーティストの作品が、贅沢にも館内の様々な場所に設置され、気軽に作品をみることができます。そして、藤本壮介やレアンドロ・エルリッヒが手がけたコンセプトルームも人気です。このアートホテルを田中さんが全面的にプロデュースされたんですよね?
田中 はい。やはり優れたアーティストの作品は、世界中から人を呼び込む吸引力があります。一方で、アートには人によっては難しくて敷居の高いイメージもあります。私自身もアートの専門家ではないですが、だからこそ、そういう目線で、素晴らしい作品が建物のいろんな場所にちりばめられ、見たいときにいつでも鑑賞できる空間が欲しいなと思って、こうしたつくりにしたんです。
確かに、「高尚なギャラリーや美術館にあるような作品が気軽に誰でも鑑賞できるホテル」というのはなかなかない発想です。そして1階のロビーやレストランも開放的ですね。
田中 レストランは、観光客だけでなく、地元の方々もランチなどで訪れていただいています。決して安くはない金額かもしれないですが、それでも定期的にここで集まって、食事や会話を楽しむ方がいるのはうれしいですね。
この贅沢な空間が地元にあるなんて、うらやましい限りです。そして、アートという点では2023年にオープンした「まえばしガレリア」も注目です。こちらは、ギャラリー兼レジデンスとして、また違ったユニークな施設ですね。
田中 「まえばしガレリア」については、ちゃんとビジネスとしても持続的に運営していくことが大事だと思っています。そういう点で1階のギャラリーはいまのところ成功しています。例えば東京にあるギャラリーって、とても「閉じられている」印象があるんですね。街中のビルの重い扉を開かないと中が見れない。それに対して、「まえばしガレリア」の1階は、とても開放的で全面ガラス張りにしている。だから、街を歩いている人がふらっと入ってきやすいんです。だから、都会のギャラリーとは比べものにならないくらい多くの人が来場していると聞いています。
「開く」「集まる」というのは、田中さんが手がける施設のキーワードのように感じます。その意味で、郊外のロードサイドに立つ店舗「JINS PARK」も、とてもオープンな空間ですよね。
田中 「JINS PARK」は、その名の通り、老若男女があつまる場所を目指しました。もともと、この場所は弊社の1号店でして、ロードサイドでメガネ屋なんてうまくいくはずない、といわれてきたところで大成功した店舗なんですね。さらに、小さなお子さんを連れたご家族が気軽に入れる場所に進化させようと、永山祐子さんにお願いして建物を設計してもらったんです。
実際、パン屋さんには、小さなお子様連れや、おばあちゃんたちが朝から集まっていました。さらに子供服のリサイクルをしているスペースがあったり、地域のための社会貢献でもある『JINS norma』が紹介されていたりと、地元密着感があります。
田中 社会貢献は、よくESG、SDGsなどといわれていますが、会社は稼ぐだけじゃなく、稼いだお金をどう還元するか、それだけじゃなくて、社会課題をどうビジネスに還元するか、事業を営む者として、これからの時代、必須の要素だと思います。今は、その試行錯誤にチャレンジしているところだし、その挑戦自体に意味があることだと思っています。
取材を通じて感じたのは、そうした当事者の方々が、とても笑顔で楽しそうに取り組んでいらっしゃることでした。試行錯誤とはいえ、様々な人が集まり、新しい挑戦を楽しもうという意識を感じます。
田中 ありがとうございます。街づくりもそうですけど、面白くないと続かない。私自身もそうですし、みなさん楽しんでやってらっしゃる。そういうエモーショナルな部分って大事だと思います。
最後に、読者に向けて前橋の魅力を田中さんの目線で教えてください。
田中 前橋って、戦争(第二次世界大戦)で全部が焼かれたしまった街なんです。つまり、建物は戦後に作られたということなのですが、その分「昭和レトロ」の世界観がふんだんに残っているんです。その昭和レトロとモダンな建築がまざりあっているところを楽しんでほしいですね。例えば、東京の街って、渋谷でも何処でも再開発は進んでいますが、みんなガラスに囲まれたビルばかりで、中身が見えない、ビルの中にはいらないと何があるか分からないじゃないですか、それって面白くないと思うんです。前橋は、商店街も、新しく生まれた建物も、中の雰囲気や、そこにいる人たちの雰囲気が感じられる街だと思います。そういうところを楽しんでほしいですね。
「めぶく。」から始まり、「開く」「集まる」「拡がる」と成長を続ける前橋の街。レガシーを残しながら新たな楽しさを生み出す田中さんの街づくりは、プリウスのフィロソフィーにも通じるものがある。この週末は、ぜひプリウスででかけて、田中さんや彼の仲間たちが楽しく活動している「唯一無二のローカルタウン」を楽しんでみてはいかが?
走りに注目。田中仁さんのプリウス・インプレッション
無 類のクルマ好きで、これまでに数多くのクルマを乗りこなしてきたという田中さんに、インタビューに続いてプリウスを見ていただいた。クルマ好き目線で感じたプリウスの魅力とは?
進化したプリウスの走り
クルマの魅力は「走りの楽しさ」と言い切る田中さん。アクセルを踏み込んだときのトルク感やステアリングの感触など、チェックポイントは細部にわたるそう。そんな田中さんも、プリウスの走りには期待大の様子。
田中 室内空間がとてもよいですね。シートのホールド感もスポーツカーみたいです。アクセルペダルを踏み込む感覚もいいですね。ブレーキペダルの圧力も前とは全然違う。旧型のプリウスは何度も乗ったことがあるのですが、足回りやステアリングがかなり“固い”印象がありました。でも、今回のはフィット感がいいですね。ステアリングのサイズも丁度いいし、合皮の質感も上質感がある。とにかく、旧型のイメージが強かったので驚きました。これなら、走りも楽しめそうです。
唯一無二のブランド
さらにデザインも印象を語って頂いた。最近、街でプリウスを見かけるようになってデザインも気になっていたという田中さん。改めて間近でみた印象は?
田中 このテールの部分が好きなんですよ。かっこいいですよね。足回りも、この手のクルマは、ホイールが小さくて、ゴムの部分が分厚くなってぼてっとした印象になりがちなんですが、これ19インチですか?すごくスタイリッシュになりましたよね。まさにエモーショナル。これを20インチにアップグレードして、オーバーフェンダーにしたら、もはやスポーツカーですね。僕ならそうするかも(笑)。
自身が手がけるブランド「JINS」も、前橋の街づくりも「唯一無二」にこだわる田中さん。最後にお聞きしたのは、そんな彼の目から見たプリウスというブランドについて。
田中 ビジネス全般に言えることですが、昔は、みんな同じ機能だったり、同じデザインが選ばれて、そのなかで優劣を競っていました。JINSも、最初は、「エアフレーム」という単一の機能だけで売れた時代がありました。でも、今は、細分化が進んでいます。お客さま一人ひとりの個性にあったメガネが求められてきています。クルマもそうですよね。これまでは、『トヨタ車』であるとか『ハイブリッド』といった単一の価値を押してきたのに対して、細分化が求められている。そういう意味で、プリウスは、かっこいいし、その上でバイブリッドだし、オリジナリティを持った、今の時代のブランドになってきているんじゃないでしょうか。