RAV4 -time slip Story- 1998→2020 モータージャーナリスト・木下隆之のオレの一族が愛したクルマ

STORY 3

タフさが違う。RAV4は、
わがままを許してくれるクルマ。

 RAV4が母のもとにやってきてから数年が経ち、母も年齢を重ねるごとに運転に不安を覚えるようになった。世間では老人の運転操作ミスにまつわる記事を多く見かけるようになっていたある日、母が呟いた。
「そろそろ、運転は卒業しようと思うんだよね」
 そう話す母はどこか寂しそうで、いつもより小さく見えたのを覚えている。RAV4で元気に山小屋に行っては、ラゲージスペースいっぱいに山菜を積んで持ち帰っていた母。誰も踏み入っていないような山奥、母にとっての秘密の場所へ分け入るときについたであろう小枝や倒木などによるボディの擦り傷は、いわば“わがまま”の勲章。傷がどんなに増えても、ボディが損傷することはなく、そのタフさがRAV4 の“頼れる存在感”を物語っていた。
 母がいつまでも元気に駆け回っていられたのは、RAV4が運転しやすく、かつどこへでも走って行けそうな気にさせる確かな走行性能を載せていたからだろう。

デザインも、走りも。
世代を問わずどんなスタイルにも合う。

 母からRAV4を奪うことは行動を制限することになる。そこで、ちょっとした家族会議が開かれた。その時、母と同居する姉の長男が “えへん”と咳払いをして何かを宣言するように言った。
「おばあちゃんの送り迎えは、僕が担当します。山小屋へも一緒に行ってあげます。その代わり…」
「何か小遣いでも欲しいのか?」
「いえ違います。RAV4を好き勝手に使わせてもらいます」
 彼はもう18歳になっていた。背丈がひょろひょろっと高く、目尻に優しげなシワをつくってよく笑う青年。大学に進学し、すぐに自動車免許証を取得したが、バイトで稼いだ給料は生活費に消えていた。
「大学生なのにクルマも持っていないなんて、不便すぎるよ」
「いいわよ、その代わりにおばあちゃんの運転手もしてもらうから」
 僕が母に初めてプレゼントしたRAV4は、母にとって初めてのマイカーとなり、姉の長男にとっても初めて自分の行動半径を大きく広げるツールとなったのだ。

RAV4が、家族から、友達から、
“宇宙船”と呼ばれ愛される理由。

 甥である姉の長男は、母の運転手を続けながら、マイカーのある生活を堪能していた。
「スポーツカーに憧れていたけど、これは面白いね」
 大学が理工系だった彼は、カラクリのような実験機材や分厚い資料などを運んだりすることも多く、また母の運転手をするよりも、大学の友達たちを乗せて遊びに行くことが増えていった。
「おばあちゃんがRAV4を可愛がっていた意味がようやく分かったよ」
 そう言って彼は、大人ぶって分かったような理由を口にした。
「僕の友達はみんな、RAV4で行こうってリクエストしてくる」
「友達が便利に使うのは、何でも積み込めるからだろ?」
「それもあるとは思うけれど、それだけじゃないんだ」
「スタイルが可愛いから?」
「確かに宇宙船みたいだって、みんなもボディを撫で回す。でもそれだけじゃないんだ」
「じゃあ、なんなのよ」
「とりあえずのクルマ、なんだってさ」
「とりあえず?」
「そう、とりあえずRAV4があれば、楽しいらしいんだ。だからいつもリクエストがくる。荷物も運べるし、どこへだって走って行ける。友達とキャンプに行った時もヒーローだったし、ゼミの合宿でも人気の的だった。ついにあだ名で呼ばれるようになったんだ」
「あだ名?」
「”宇宙船”だよ」
「スタイルが個性的だからね」
「そうじゃない。宇宙船みたいに、地球を飛び出してどこへでも行けて、何でもできるって意味らしい」
 そういって甥は誇らしげにRAV4を見つめた。
 母から甥に渡ったRAV4は青春の痕跡を載せて、自由という世界へと駆け出していった。

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