RAV4 -time slip Story- 1998→2020 モータージャーナリスト・木下隆之のオレの一族が愛したクルマ

STORY 4

強く、優しく、そして自由に。
乗り手の心を動かす実力車。

 山小屋に通う母の送迎係をかってでた姉の長男が大学を卒業すると、彼に代わって姉の次男がその役を担うことになった。長男が就職するやいなや地方での実習が言い渡され、実家を離れることになったからである。
 それは次男にとっても都合がよかった。兄弟で仲が良く、いつも長男の仕草や考え方を真似て成長してきた次男も、当然そうするものだとあらかじめ決めていたかのように母の運転手係を楽しんでつとめるようになった。
 次男はどこかおっとりとした性格のとても気の優しい子。一浪して入った大学にはあまり魅力がなかったようで、
「帰宅部だよ、おばあちゃんの年金をあてにはできないからね」
 そう言ってはバイトに明け暮れていたが、母とふたりで長野の山小屋に行くことも少なくなかった。
 燃料代や高速料金も彼が負担しているようだったし、RAV4の定期点検や車検代も面倒をみてくれていた。今どき珍しい家庭的な青年だったと思う。
「RAV4はボディが軽いから、燃費もいいしね」
 年老いた祖母と20歳の学生がふたりで旅行に向かう様子は何だか妙な気もするが、姉の次男は祖母想いであり、家族を愛する若者だったのだ。そして当然のように、自由にできるクルマを手に入れた歓びを隠し切れないでいた。

RAV4の行く先に、
オンとオフの境界はない。

 僕が母に初めて買ってあげたRAV4は、姉の長男にとって初めての愛車となり、それが次男に受け継がれた。彼にとってもまた最初の一台であり、家族の一員のような存在になっていたある日、姉の次男から電話が入った。
「こんにちは、きのおじさん」
 彼は僕のことを、苗字のふた文字を組み合わせてそう呼んでいた。
「なんでしょ? またおねだりかな?」
 遠慮のない気さくな性格だったから、頻繁にクルマに関してのお願いごとをよこしていた。先日も、RAV4に組み込むカーナビケーションをプレゼントしたばかりだった。
「で、今回のお願いごとは何?」
「RAV4のことなんだけど…」
「想像がついているよ」
 彼が僕に電話をよこす理由は、RAV4のことと決まっている。名義は僕のままだったし、姉の長男も次男もそして母も、RAV4は登録上では僕の所有物だということを理解していたのだ。
「タイヤを交換しようと思うんだ。すり減ったからね」
「だから買って欲しいと?」
「いや違うんだ。今のバイトは待遇がいいから、小遣いには困っていない。タイヤの銘柄の相談なんだよ」
「なるほど、どんなタイヤがRAV4に合うか、リコメンドしてもらいたいというわけだね」
「そう、ちょっとスポーティなオンロードタイヤがいいか、それともダートも走れるオフロードタイヤがいいのか迷っているんだ。山小屋のある長野の山道はまだ未舗装路が多いからね」
「なるほど…、選択肢はオンかオフだね?」
「そうなんだ…」
 姉の次男からそう質問されて、はたと答えに窮してしまった。それは、改めてRAV4の可能性を思い知るきっかけになった。

RAV4の楽しみ方は無限大。
自分らしく“好き”を追求できるSUV。

 というのも、RAV4を購入したときに装着されていたオリジナルタイヤはオンロード仕様だった。RAV4は都会的なSUVで、山坂道を走ることができるとはいえ、街中のドライブに適していると思っていたからである。実際にRAV4は、母や甥たちの送迎や通学、バイト先の往復にと大活躍していた。
 だが、こうして選択肢を突きつけられて気づいたのは、RAV4は街中を颯爽と走るアーバンSUVでありながら、道なき道を踏破することのできるクロスカントリー性能にも優れていること。だからオフロードタイヤも、アリなのである。
 改めてRAV4の可能性の高さを思い知った。乗り手の期待にどこまでも応えてくれる。そんな果てしない広がりがRAV4にはある。
 宇宙船というあだ名は、まんざらでもない。

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