atelierBluebottle
辻岡慶・里奈
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辻岡慶・里奈
ハイカーに人気のガレージブランド「アトリエブルーボトル」の創業者。自分たちが“本当に使いたいと思うもの”“デザイン性と高機能性が両立しているもの”をモットーに、自らデザイン・縫製を行い展開している。
もともと山登りが好きで、欲しいバックパックに出会えず、自ら制作したことが創業のきっかけ。たとえ非効率でも“その人のための1本”を作るため、数か月待ちとなるが、共感し待ち焦がれる人が続出。
「気持ち良く」
モノづくりも山登りもそれが一番
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「誰かのため」ではなく自分の「欲しい」を信じて作る
辻岡慶さんと里奈さんのご夫婦が2013年に立ち上げたアウトドアブランド『アトリエブルーボトル』が、今年でちょうど10年目の節目を迎えている。同じデザイン専門学校を卒業し、同じハンドバッグメーカーに入社。ともに企業デザイナーとして働いていた2人が独立に至った大きな理由は、「ジレンマ」だった。慶さんは振り返る。
「自分がこうだと思ったものが、営業や販売員の意見で変えられる。良いものを作っても、次のシーズンは“顔を変えたい”という理由だけで新しい商品を作らなくちゃいけない。そういった表面的な仕事の繰り返しで、好きなものを作れないというジレンマがずっとありましたね」
ファッション業界ならではの商業サイクルに嫌気がさしていた頃に、東日本大震災も重なって、これまでの働き方を変えようと決意。企業に勤めながら「気分転換で作っていた」という夫婦の共通の趣味である登山関係のバックパックやサコッシュが評判を呼んでいたこともあって、自分たちのブランドを立ち上げた。素材選びからデザイン、縫製、製品テスト、そして販売まですべてを自前で行うやり方には、当初否定的な見方も少なくなかった。
「自分でデザインして、作って、売るなんて、絶対に無理だって、鼻で笑われましたね」それでも、里奈さんには当時から確信めいたものがあったようだ。
「最初は静岡とか雑司が谷の手づくり市に出店して、もちろん全然売れなかったんですけど、すごく楽しかった。自分たちが100パーセントいいと思うものを、お客さんに直接伝えられるし、そこで意外と受け入れられて、ある種の安心感みたいなものも得られましたね。営業とか数字のフィルターを通さないお客さんの生の声を聞いて、やっぱり間違ってなかったんだって」
こだわりのモノづくりが評判を呼び、やがて『アトリエブルーボトル』は人気ブランドへと成長していく。ただし、主語はあくまでも「自分たち」であり、消費者におもねることは決してない。
「こういう人のために、というイメージは、正直ありません。自分たちが『こんなのがあったらいいな』と思うものを作って、そこに共感してくれる人に買っていただければいい。アウトドアって、本人がやってないと説得力がないんです。僕らは山登りをする中で、売れそうなものではなく、実際に使っていいなって思えるものだけを世に送り出したい」
たとえば、足袋をモチーフに開発された人気の「Hiker's SOCKS」も、山でキノコ狩りをした際に履いた足袋が「衝撃的に使いやすくて」商品化に至っている。 -
「完璧に親切なもの」が良いわけではない
おしゃれなデザインで注目を浴びることが多い『アトリエブルーボトル』だが、辻岡さん夫妻が大切にしているのは、デザインよりも機能性だ。里奈さんはこう言って笑う。
「付加価値という名のもとに、いろんなものを足して消費者にアピールすることは絶対にしたくないんです。本当はロゴも全部取りたいくらい(笑)」追い求めるのは、何年使っても古さを感じさせない、シンプルなデザイン──。慶さんもこう続ける。
「たまにあるんですよ、ほぼ出来上がった後に『これはおしゃれすぎるな』と思ってやり直すことが(笑)。機能とは関係のないところで丸みをつけたり、装飾を施したりすると飽きが来ちゃうから。何よりもシンプルさを大切にしていて、例えばバックパックは(ピッケルを固定するための)アックスループすら付けてない。年に何回も使わないものだし、だったら邪魔でしょっていう考え方なんです。モノって、自分で工夫して手を加えたら愛着が湧いたりするじゃないですか。完璧に親切なものが良い商品かっていうと、そうではないと思います」
「ちょっと余白を残す感じ」。里奈さんの言葉が、まさに的を射ている。趣味の山登りに対する考え方は、仕事に取り組むスタンスにも通じているのかもしれない。以前は北アルプスの山に何日もかけてアタックすることもあったが、この10年ほどは「山に入っていれば満足」だという辻岡さん。同じ場所に留まって季節の変化を感じたいと、那須に家を購入。東京との二拠点生活をスタートしている。
「月2回くらいが気持ち良く、無理なく山を楽しめるペース。べつにピーク(頂上)に登らなくても、無理なら引き返せばいいんです。僕の場合は、もう1つの趣味である写真を撮るのが目的だったりもするので、良いものが撮れたらもういいかなって感じになる。みんな一番上まで登りたがるんですが、あれをやると山を嫌いになったりもするので(笑)」
気持ち良く、無理のない範囲で──。引く手あまたにもかかわらず、商品の卸し先を絞り込んでいるのも、同じ理由からだ。慶さんはこう話す。
「ブランドを大きくしたいって考えるのは当たり前のことなんでしょうけど、僕たちはみんなが楽しくモノづくりができて、ちょっとずつファンが集まってきてくれるのがいい。気持ち良く仕事ができる範囲って、絶対に決まっていると思うんですよね。それ以上のことをしても幸せにはなれない」
スタッフの働き方について話す里奈さんの言葉は、企業の人間が聞いたら目を丸くするかもしれない。
「一応、月に何本上げるみたいな目標はあるんですが、間に合わないから土日出勤しますという子には、『えっ? 上がんなくてもいいんだよ』って言います。誤解を生むかもしれませんが、期日とか納期とかってあんまり必要がない気がして。楽しくできる範囲でやればいい。だから、きっとこれ以上は大きくならないかな(笑)」
それでもファンが増えていけば、「相手に合わせるのではなく、自分たちに合わせてもらう」というスタンスにも、変わらざるを得ない部分が出てくるのではないだろうか。そう尋ねると、里奈さんははっきりとした口調で、こう答えを返してくれた。
「もちろんお叱りを受けることもありますが、変われないですね。変わったら、まだ企業にいた方がましですから。もし変わるとすれば、それは職種自体を変えるしかありませんね(笑)」
その言葉を慶さんが引き継ぐ。
「あくまでも僕たちの作る商品が、ファンの人たちにとって魅力的なものであることが大前提ですが、それさえ間違わなければついてきてもらえると思っています。本当は100人くらいのファンの方を相手にモノづくりをするのが理想なんですけど」その根底にあるのは、「昔みたいに、一人ひとりとじっくり話し、一生懸命に商品を説明しながら売りたい」という想い。ブランド人気の高まりとともに、いつもそういうわけにはいかなくなったが、しかしだからこそ、慶さんは大きな夢も描いている。
「このアトリエも手狭になってきたので、販売スペースやイベントスペース、そしてカフェも併設できるようなもっと広いアトリエを構えたい。そこでお客さんに一つひとつ丁寧に説明をしながら、モノを売れるようになったらいいですね」 -
車選びも洋服を選ぶような感覚で
そんな慶さんだが、独立して、想像以上に難しかったこともあったという。
「今日は天気がいいから山に登ろうみたいなことが、もっと気軽にできるかなって思ってたんですけどね(笑)」それでも趣味と仕事を兼ねた──その境界線は曖昧だと言って笑うが──山登りは、2人のお子さんと接する貴重な時間という意味でも、辻岡家には欠かせない日常だ。そして、その際に頼りになるのが、車である。190センチの長身で、「そんなに器用じゃない」と謙遜する慶さんと、小柄で「学生時代から天才肌だった」という里奈さんの対照的な2人だが、車選びの際は意外にも、里奈さんの方がじっくり吟味するタイプで、慶さんは直感型。それでも好みはよく似ているという。慶さんはこんな風に話してくれた。
「自分はどういう人間かって、着ているものに出ると思うんです。それは車も同じ。洋服を選ぶのと同じ感覚で選んでいるのかもしれませんね」これまでは欧州車を何台か乗り継いできたが、ポイントは見た目の可愛らしさ。特にシートの色やインパネなど内装にこだわりがあるそうだ。
「あくまで自分たちは車の中にいるわけだから、やっぱりインテリアとか、中が楽しいほうがいい」
そんな2人が今回、RAV4と旅に出る。その第一印象は、「まず室内がすごく広いし、外見もギラギラしていなくて、オジサン臭くないところがいい」。子どもたちと愛犬を連れて(2匹の先輩猫はお留守番だ)、まず目指すのは、那須。仕事も趣味も、こだわりを持って好きにまみれる2人は、果たしてRAV4にどんな印象を抱くのだろうか。
豊田自動織機 製品開発部
溝邉 伸明、
中村 直之
豊田自動織機 製品開発部
溝邉 伸明、中村 直之
neru design works
neru(重弘剛直)
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Atlantic Coffee Stand
吉川共久
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